うちのペットはもしかしたら地球を侵略するかもしれない。

ハコニワ

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一章 侵略者と地球人 

第3話 スター

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 コスモの仲間で侵略者。ともに宇宙から流れてきた。地球に流れると船が分断して、バラバラに別れていった。仲間との感動の再会である。
「一樹くんっ!!」
 委員長が駆け寄ってきた。委員長なだけに心配してきてくれたのだろう。でも今はそれどころじゃない。俺の目の前には宇宙人が二人。いや、二匹か。 
 駆け寄ってきた委員長が、カッと目を見開いた。 
「スターちゃん! どうしてここにいるの!?」
「あ、麻美……」
 スターと呼ばれる宇宙人がたじろいた。委員長は俺じゃなくて、スターのところに向かった。俺とコスモは驚いた。正直びっくりして目が点になる。
 委員長は宇宙人のことをみえる体質だ。しかも、親しげに話して、宇宙人との仲も垣間見える。
「学校に来ないでって言ったでしょ! 一樹くんも困っているじゃない。今度は何したの?」
「何もしてないもん! というか、されたのはこっち! いきなり後頭部打たれての!」 
 そう指差したのはコスモ。
 コスモなんてことをしているんだ。再会の前に暴力を振るうなんて。コスモは「頭を少し打っただけだよ?」と悪切れもなく飄々としている。

 整理をしよう。学校に行くともう一人の宇宙人と再会した。その宇宙人はスターと呼ばれてて、しかも、委員長の家に居候している。成り行きは家の両親と同じだ。ある日裸のスターを拾ってみると宇宙人であり、スターの飼い主である。当然、コスモのことも見えている。
「びっくりした。他にも宇宙人がいることもだけど、一樹くんも見れるんだ、あれが」
 委員長が指差したのは、コスモたちにある頭の触覚。
「変だよねぇ」
 くすくす笑った。
 委員長は最初こそびっくりしたものの、すっかり受け入れている。目の前に宇宙人がいること。委員長と話している間、コスモとスターは宇宙人同士仲良くやっているのかと思いきや、コスモの天然ぷりに激怒している。
「男の家で居候しているの!? ありえない!」 
「男じゃないよ、一樹だよ」
「名前なんて聞いてない。あぁ、男と女が同じ家……そんなの昼夜求められてぐちゃぐちゃに掻き回されて、今でもあの視線はヤることを目的としているに決まっている! コスモ、男はみんな狼なのよ!」
「狼じゃないよ、一樹だよ」
「あーもう! 分かっていないんだから! 男はみんな獣なの! 今でもわたしのこと、犯したいと思っているはずよ、みんなが見ているのに、押し倒して無理やり……見られている方が興奮するんだろ? って言ってわたしの中にアレがあぁぁぁぁ!!」
 恥ずかしい言葉を赤面しながら言って、俺のことを欲情した眼差しを向ける。俺まだこの子と一言も話していないのに、どうしてこんな印象付けられたんだ。
「道端で拾った大人漫画に影響されて……少し、いやかなり、妄想癖がある子」
 委員長がごめんね、と言いながら解説してくれた。真面目な委員長が飼い主でペットが妄想癖がある子。なんだか、組み合わせがおかしなことに。

 コスモたちは宇宙人同士であり、長らく再会できなかったので、宇宙人同士は宇宙人同士で俺と委員長は教室に残った。くれぐれも、問題行動はしないように約束する。

 午前の授業をサボったが、委員長が一緒だったからそれほど、叱られることはなかった。一階の教室から、コスモたちがいる陽のあたらない校舎の裏は見えない。
 心配で、授業なんて聞いてられない。先生たちの語る難しい単語がいつもより、右から左に流れる。それを察してか、委員長が止めてくれた。
「大丈夫だよ、スターがいるもん」
 ひだまりのような笑顔で笑った。
 笑顔で申し訳ないが、そのスターこそが心配なんだ。心配しすぎて、腹に穴があく。そんな俺とは裏腹に、委員長はなぜかニコニコしていた。俺は疑問に思って首をかしげる。
「あ、ごめん。心配しているのに私、軽率だった」
「いや別に。逆に大丈夫だって絶対に言えるその自信、どこから湧いてくるのかと」
「ぐっ……ごめんなさい。その……一樹くんと話せるのが嬉しくて」
 俺はますます大きく首をかしげた。
 委員長は、顔を赤くさせ俯いている。恥ずかしいからなのか、体をもじもじしながら。委員長はポツリポツリ話を続けた。
「昔は、黒い噂が絶えなかったけど案外話してみると、優しかったり、今は共通のこととお話しできて、嬉しいな」
 ゆっくり顔を上げた。頬が赤く、聖母マリアのような慈悲深い眼差しで笑った。
 委員長とは、中学から一緒だ。だから余計に心配されている。俺が今、腹に穴があくほどコスモたちのことを心配しているこの感覚を、委員長はずっと前から体験したのか。
「なんか、ごめん」
「え!? なんで謝るの!?」
 俺と委員長は緩い会話をして、お互い頑張ろうと、意気込んだ。あの二人がこれから侵略するかもしれないから、俺たちが止めないと。でも、あの二人が侵略できるかどうかもわからないのに。

 すると、学校の窓ガラスが一斉に割れた。雷が落ちた雷鳴音と共に。ガラスが壁際まで散り、廊下は破片だらけで、太陽の光が反射してキラキラ光っている。女子生徒たちの甲高い悲鳴で、学校中がパニックに。

 俺と委員長は顔を見合わせた。こんなことができるのは、お互いが、お互いの顔を思い浮かべた。俺たちは逃げゆく人の波と同じ方向に走り抜け、外に出る。校内放送では、体育館に向かって下さいという指事なのに、生徒たちは聞こえていない様子。外に向かっている。
 このパニックも沈めないと。委員長がパニックに陥る生徒たちを宥めた。
「みんな、落ち着いて! 冷静に! もう地震も何もないよ、外はもっと危険だよ、体育館に向かおう」
 周りの人は、委員長の声を聞くと素直に従った。彼女の厚い人望が垣間見えた瞬間だ。先程までの空気が一変し、熱い何かがみえる。

 ぞろぞろと外に行く人たちが体育館に向かっていく。人の波がそちらに流れていく。
 
 委員長が生徒たちを宥めている間に、俺は先にコスモたちのところに向かった。校舎裏では、まだ何か打ち付けている音が聞こえる。その近くには、三年の問題児が倒れていて気を失っている。

 俺はカッとなった。
 約束を破っただけじゃない。人を襲ったのか、あいつらは。許しちゃいけねぇ。

 俺がその現場に駆け寄ると、コスモたちは、石を投げあっていた。大きな石や小石が空気中に浮いていて、さっき投げたと思ったら、石が回転してありえない捻りをみせる。コスモが投げた石が回転して、スターの横を通り過ぎる。変化球か。スターはそれを躱し、大きな石を浮かせ、コスモに投げた。コスモの顔面めがけて。コスモは避ける態勢は取らない。代わりに近くにあった、シャベルでそれを撃つ。スターの頬を掠め、グランドを筒抜け、近隣の何処かの窓ガラスが割れた音がした。
「ふっ、中々やるわね」
「お主もな」
「てめぇら……」 
 俺は二人にげんこつを飛ばした。
 元ヤンキーの拳を直に当たった。二人は地面に吸い込まれるようにして倒れた。それと同時に空中に浮いてあった石ころが、音を出して落下していく。

 二人の触覚がピクピク動いている。その頭には、大きなたんこぶが。倒れた二人は何が起きたのか一瞬分からない表情で、倒れている。
 先に起きあがったのがコスモ。
「痛い……」
 赤く腫れているたんこぶを抑えて、涙を浮かべる。
「何、すんのよ」 
 スターがゆっくり起き上がった。俺をギロリと睨んでいる。
「それは、こっちの台詞だ。お前ら、俺たちとの約束も破ってしかも、人を襲ったな? 見てみろ。普段ムカつく先輩たちが倒れている」
「一言余計じゃない? わたしたち、普通に遊んでただけよ」
 ねっ、と確認するかのようにスターはコスモの顔をうかがう。コスモはうんうんと首を頷く。

 普通に遊んでた、で学校中の窓が割れるか。それよりも、俺が確認したいのは、そっちで倒れている先輩たちについてだ。あの石ころの投げ合いをみるに、察すると、先輩たちは石に当たったと思われる。それか、宙に浮いてある石を見て、びっくりして失神したか。
 どちらにせよ『問題を起こすな』という約束は破っている。

 しかめっ面でいると、コスモが俺の視界に入ってきた。ぼんやりした眼差しで、普段何考えているのか分からない。今もそうだ。じっと見上げるその青い目に、どこまでも沈んでいきそう。
「わたしが暇だから、やろうって言った。だから、スター悪くない」
「コスモ!? 待って、悪いのはわたしよ! わたしから言い出したの」
「それじゃあ、スターが悪いてことで」
「コスモぉ!?」
 なんだよ。怒っていたのが嘘のようだ。
 なんだかんだいって、お互いを大事にしている姿、俺がヤンキー時代に出来なかった姿だ。お互いを一瞬でも庇うところ、羨ましく感じた。
 俺はため息をついた。そのため息に、二人は喧嘩をやめて俺をじっと見る。げんこつした頭を撫でた。
「悪かったな、殴って。自分たちがやったこと、自分たちがちゃんと責任果たすんだぞ」
「あいさー」
「分かってるわよ」 
 二人の超人的な力により、割れた窓ガラスは元通り。触覚で全校生徒の記憶を弄った。そこで転がっている先輩たちは、起きたら外で寝ていたということになっているらしい。
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