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七章 侵略者と玉座 

第75話 本当の玉座

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 最後の投票が行われる今日。
 投票が行われるのは午後八時。それまで、それぞれ票集めに専念する。
 朝、今まで開かなかったカースト様の演説が行われた。民衆の集まる広場で、自分の政治を語る。その情報は突然だったため、王族も国民もびっくり。いち早く情報を聞き出したダスクがその場に居合わせる。

 演説は短かった。自分のやりたい政治を淡々とこぼし、民衆の士気をあげていく。それぞれが同じ反応だったわけじゃない。カースト様がつくる政治は、サターン様の父上と全くの、いや、それ以上の武力政治だった。戻ってくる武力政治に不安な民衆と、歓喜に溢れる民衆がいた。前者のほうが圧倒的に多いだろう。ダスクの目から見れば。


「こっちも演説で民衆の心をつかむわよ!」
 スターが張り切ってエンドに提案した。
「どんな話をすれば、いいか、分からない、よ」
 エンドは青白い顔して首を振った。そういえばこれまで演説をやってきてないことに気がつく。ダスクもスターの提案にのった。そうと決まれば、エンドの意思はどこにもない。演説をやる方向で話が勝手に進んでいく。

 
 三人とギャラクシーが考えた台本を読み、それを暗記する。本番は台本なし。だから死ぬ気で暗記するしかない。約五〇万文字ほどで時間的に一時間かかる台本だ。これを覚えるエンドは「悪魔」だ、と台本を考えた四人に苦言を謳う。
 ビラも配り、盛大に広告をして開かれた。街の広場でエンドの演説が始まる。

 盛大に広告をしていたおかげで、民衆が集まった。小規模。売れないお笑い芸人の会場みたいにすっからかん。昼前という時間なせいで、店の人や学生はいない。ホームレスしか集まっていない。

 物陰からひっそりその様子をうかがっていたエンドは、やっぱりね、と久しぶりにネガティブな暗い雰囲気になった。頭ににょきにょきとキノコが生える。
 コスモが目を光らせ、そのキノコを伐採し、スターが背中を叩く。
「しっかりしなさい! エンド様のため、わざわざテレビ局まで呼んだの。しっかり務めて、もう弱い自分を見せない。王位に立つ者だって、見せつけてやりなさい!」
 スターの目はいつになく、本気だった。ダスクもエンドの顔をみて力強く頷く。
 テレビ局の人は今か今かと、カメラと音声機を持って待機している。
 そして、演説を聞こうと足を止めてくれた国民もいる。


 エンドは大きく深呼吸して「行ってきます」と背を向ける。スターたちはその背中を眺める。もう不安も心配も何処にもない。小さく折り曲げていた背中がいつしか、大きくなり、翼がはえるようになった。

 カースト様は大きな舞台まで作って演説していたが、エンドはその逆を狙う。大きな舞台も観客席も必要ない。路上で止まってくれる人を狙うのみ。
 エンドはマイクを受けとり、民衆の顔をみはる。エンドが表舞台に立つと、テレビ局が待ってました、と言わんばかりにカメラを向ける。エンドは大きく深呼吸して、胸をはった。そこにいるのは、かつての弱い自分じゃない。何処までも自由に飛べる翼を持った男だ。

『皆さん、集まっていただきありがとうございます。アストラ王の息子、エンドです』
 
 空気がしん、と静まり返っている。
 普段は活気溢れる声でいっぱいなのに、市場ではエンドに注目が注がれていた。店を営んでいる店主も、こちらを向けている。

 エンドの声は微かに震えていた。
 でも間を置いて話を進める。その表情は何者にも負けない勝気に満ちていた。青い瞳に光沢が入り、鋭く、その眼差しは民衆に向けていた。

 ギャラクシーも考えた演説譚。エンドは言いやすくてペラペラ言っていた。姉が守ったこの星を守ると宣言したら、いつしか、すっからかんだった場所に群れができ、家の窓から演説を聞く者もいる。
「順上だね」
「まさか、これほどとは思わなかったけどね」
 スターとダスクはハイッタッチする。
 その横で、火鉢を持ってキノコを焼いていたコスモがギャラクシーに叱られている。

 演説がもうそろそろ終盤に差し掛かった際、刺客が訪れた。群れをなす民衆の中から、黒いフードを被った奴が現れ、演説中だったエンドに刃物を向ける。
「エンド様っ!!」
 ギャラクシーが叫び、近衛兵に指示を送るもまず早かったのはコスモ。

 刃物をぐにゃりと曲げ風で吹き飛ばした。一緒にフード輩も倒す。
「エンド様!」
 ギャラクシーが駆け寄る。
 エンドは地面に尻を打つけ、フード輩を凝視していた。青白い顔がさらに青くなっている。この騒動に民衆はパニックになり、バタバタと逃げていく。

 幸い、エンドに怪我はない。びっくりして尻もちをついただけ。スターが〈探索〉をして逃走した奴を突き止めた。ニキロ先にまだいてフードに砂が付着している。逃げるのに専念で他は何もしていない様子。男性で一つ目。顎がしゃくれているのが特徴的。
「ベジリジア星からの刺客ではないですね」
 ギャラクシーが目を細める。
 ダスクが男の額に手を添える。
「……こいつ、雇われたみたい。カースト様に」
「カースト様に!?」
 ギャラクシーは手を口に持っていく。目を細め、睨んでいるに近い。考え事をしている。男は近衛兵に捕まり、エンドと一緒に宮殿に帰るかと思いきや、エンドはまだ、あの場に残っていた。


 転んだ小さな子を抱えて抱き上げる。パニックで人の波が押し寄せて、転んだのだろう。その他にも転んだおばちゃんに手を伸ばしたりと。
 パニックになっている国民に冷静に「大丈夫、落ち着いて」と語りかける。

 演説も中断となり、一時会場は封鎖された。警察も救急車も来て一時大混乱。その場にいた者たちは不安と恐怖に貶めた。が、一緒にエンドの優しさを垣間見えた。それは確かに全国テレビで流れている。

 帰りの馬車でエンドはじっと足元を見つめていた。不安な表情。
「あなたに怪我がなくて良かったです」
 ギャラクシーがほっとする。 
 エンドの眉がぴくりと動く。じっとギャラクシーの顔をみる。
「僕以外の人が怪我していたのに、良かったの?」
 ギャラクシーを睨みつける。少し怒が含まれていた。ギャラクシーはすぐに「すみません」と謝るとエンドは目線を下にした。

 空気が冷たくなった。
 スターが空気を読んでパンパン、と手を叩く。
「ま、まぁそんな心配しないで。みんな、不安がってたけど、エンド様がそばにいたからホッとしていたし、大丈夫よ。それよりも、今日はとことんついてないわね」
「これの何処が〝ついてない〟て一言で解釈されるの。命に関わることなのに」
 ダスクが横目で冷たく言った。

 次にカースト様が送った刺客について話し合う。そのさなか、馬車が急に止まった。コスモが「くる」とボソリと呟く。ガン、と扉が大きな音を立てて開いた。室内に眩しい光が注がれる。
 銃を突きつけた輩たちが馬車を囲んでいた。銃口はすでにエンドにむけている。そして、なんとエンドが助けた幼女が輩たちに捕まっていた。
「その手を離せ!」
 エンドがかっとなって身を乗り出す。ギャラクシーが体を抑えてその場を伏せた。
「あなたたち、誰にそれを向けているかお分かりですか?」
 ギャラクシーが指先で眼鏡を押し上げた。鋭い眼光で睨みつける。


 黒いフードで捕まったあの男と同じ服装。カースト様の刺客だとダスクたちは判断する。大金で雇われただけのホームレスたち。ろくに訓練は受けていない細身。その体で引き金をひこうとした。

 コスモが一斉に銃をぐにゃりとまげ、銃口を自分のほうに向けた。びっくりして銃を捨てる。その隙を狙って、三名は捕獲。残りの二名は逃走。幼女を無事。

 この一連の報道はニュースに流れた。投票前の臨時ニュースで。報道人はいなかった。が、その一部始終をばっちりカメラに撮られている。
「ダスク、あんたまさか」
「抜かりなし。馬車に監視カメラぐらいつけるでしょ」
「普通はつけない」
 ニュースが流れ、カースト様の支持率は急激に下がっていった。右肩下がり。

  
 そうしてついに王を決める、最後の投票が。結果は――――エンドが王に。


 それまで一位を独占していたカースト様の票は二桁。かわりにエンド様の票は五千に行った。二位との差は僅差。最初ゼロ票だったのが、一位に。たったの一日で好感度が爆上げ。
「僕が、王なんて……」
 エンド様は全身を震わせた。
 目に涙をためる。ギャラクシーがぽん、と肩に手を置いた。
「さぁ、行きますよ。国民が待っています」
 新たな王の誕生に、国民は宮殿の下に集まっている。砦から王が現れるのを待っている。エンド様は涙をふいて、力強く頷いた。そして、コスモたちの横を通り過ぎると一緒に「ありがとう」と告げる。
 そして、国民が待っている場所へ一歩一歩自ら歩んでいく。その背中はもう、王たる威厳に溢れていた。

「やったわね」
 スターとダスクはハイッタッチする。
 コスモは背中をみて、微笑した。
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