ワルプルギスの夜にて。

ハコニワ

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ワルプルギスの夜 Ⅱ

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 閉じていた瞼をゆっくりと開け、真実の魔女は口を開く。

「わからない。どうして、この中に絞るの? 応えは彼女が分かっている」

 トゥルースはなんと、私を指差した。

 応えは私が分かっている? どういうこと。心の中に黒いモヤが生まれ、徐々に心臓を圧迫した。

「どういうことだよ。説明しろトゥル」

 ビギニングが強がった口調で問い出す。みな、トゥルースを好奇な目で見張る。

 トゥルースは顔の表情を変えず、淡々とこういった。

「誕生の魔女が言う。この中に犯人がいるって。始まりの魔女が言う。拷問して犯人を絞り込むって。残虐の魔女が言う。自殺だって。真実は一つしかない。再生の魔女を殺したのはこの中にいない。けど、陥れた元区はいる」

 円卓の室内が静かになった。この中に犯人はいない。そう言い切った。つまり、残虐の魔女と同じ自殺だと。

「再生の魔女は自殺なんかじゃない!」

 机を叩き、飛ぶように私は椅子から立ち上がった。プラスチックと思えるきらびやかな艶が入った椅子が重い音を出し、後ろに倒れた。

 私の声は何度も反響している。皆の目は貧弱の子どもを見るような憐れな眼差し。

 トゥルースはその言葉を最後にまた、目を閉じ、すぅと眠りに入った。

 まだ聞きたいことがあるのに! 私はカッとなり、トゥルースの場所へと足を運んだ。しかし。

「待ちな」

 低いキーで私の前に立ちはだかったのはパワー。眠るトゥルースを守るような態勢。

「真実の魔女が結論した。自殺だと。今度は親友である記憶の魔女に問おう。再生の魔女はカッターナイフをいつも持ち歩いていたのかい?」

 私は即座に首を横に振った。私の記憶が正しければ、リプロはカッターナイフよりも分厚い本を所持している。リプロは物語を読むのが好きだ。それは親友だからこそ、分かるもの。

「この館にカッターナイフなんて小道具は置いていない。つまり、陥れた魔女は確実にいる!」

 円卓に再び、疑念の渦が沸いた。

 バースデーが口を開く。また、緊張した面持ちで。

「なるほどね。つまり、再生の魔女はこの中の魔女と口論か、口喧嘩になり、そして、追い込まれて自ら死。自殺にまで追い込んだ魔女はカッターナイフを所持していた……」

 私はどんどん、頭が沸騰しそうになった。あのお祭りの中、リプロは誰と口論となり、追い込まれていったのだろう。

 お酒に酔いつぶれていた私を起こさないで自分一人で解決しようとした問題。

 南西を占めるリプロの地域を思いだした。リプロが占める南西は今、貧困や王族危機など問題を抱え、荒れている。追い込まれいったのはたぶん、この問題だろう。

 貧困など問題を抱えるようになったのは北東のある国による権力者が南西だけの貿易を閉ざしたからだ。

 食料が多い北東の貿易を閉ざされた南西は、冷蔵庫からだした氷が着々と溶けるように早く短く、崩壊していった。

 私は数秒考えることなく、その真犯人を突き止めた。

「始まりの魔女……あなたが再生の魔女を殺めたのですね」

 北東を占める魔女、といえば始まりの魔女しかいない。

「はぁ!? ちょっ! なんであたしぃ!?」

 跳ねるように椅子から立ち上がり、分厚い唇がわなわなと動いている。

 円卓にいる全員の目は確信へと変わっている。そんな中、ビギニングだけは己の無実を無限大に喋った。

「ふざけんな! 再生の魔女となんか話したことねぇよ! 今日会ったばかりの魔女と対立するかっつうの!」

「確かに。そうね」

 バースデーが顎に手を置き、神妙そうな面持ちした。私はバースデーがなぜビギニングに〝確かに。そうね〟という言葉をかけたのか疑問が浮かんだ。

「ビキニはずっと私の隣で豪快にお酒を飲んでいたわ。そう、悲鳴がするまでね。何度かお手洗いに行ってたけど、付き添いで私も行ってた。ビキニはしてない。絶対に」

 バースデーがこう言っては、覆すものはほぼない。

 ビギニングが勝ち誇った顔し、ドカッと椅子に腰掛ける。

 私は歯がゆい屈辱と真っ黒闇の絶望が大きな波しぶきをあげ、海岸に打ちひしがれる。

「ねぇ」

 残虐の魔女がポツリと口を開けた。大きな赤い目がまじまじと私を見ている。

「真実の魔女は〝応えはあなたが分かっている〟って言ってたよね?」

「本当になにも分からないの」

 首を横に振ってみせたが、残虐の魔女の視線は変わらない。

 何が言いたいのだろう。

「応えとは、つまり、記憶の中にある。君なら再生の魔女の記憶を探れるんじゃないのか?」

 それは、最初に思っていたことだ。

 魔法を使ってもいいのか、恐る恐るバースデーの顔を見た。

 コクリと大きく頷いてくれた。

 私は先輩魔女たちが目を見張る中、己の魔法を開放した。

 何度も唱える「親友を殺したのは一体誰ですか?」と。

 すると、さまざまな記憶が天から降ってくる。シャボン玉にようにフワフワと浮いてある球体。

 水色透明な球体の中に写ってあるのはリプロの記憶。

 上級魔女として努力していった日々や私との思い出、南西の人たちの温かい笑顔、それらが事細かく写っていた。

 そんな中、ある一つの球体に目をつく。

 この館での記憶だ。私が写っている。窓を指差し、リプロの読書の時間を邪魔していたあの時間だ。

 うるっと涙がでそうになった。

 また、景色が変わって一人でトイレに向かっていく映像。このとき、私は酔っていてついていかなかったときだ。その時、ある違和感を感じた。

 トイレの明かりがついている。なにやら、佇まっている。何を聞いたのか、急にトイレから走って逃げていった。

 そして、息をきらし辿り着いたのは休眠室。死んだ場所だ。そこでは思いもよらぬ映像が写っていた。

「これは―…!」
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