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弐 探偵事務所の仕事
第7話 初仕事②
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座敷童子とようやく話ができたのは少年が全クリアしてから。それまでガン無視だった。少年が全クリア到達するのに然程時間はかからなかった。せいぜい二十分。座敷童子よ、世界の危機とやらはどうしたんだ。もう世界滅亡しちゃってるよ。
「どうか、どうか‼ そのゲームをわたくしめにいただけませんか⁉」
見た目女子校生が見た目中学生に土下座している絵面。
「やだね」
「どおかぁぁ‼」
「ねぇ、こんなに言ってるんだしさ? ね?」
わたしは優しくなだめるように彼に言う。ぎろりと睨まれた。はいはい、だめなの。わかったよ。全然譲ってはくれないだろうし、ここは座敷童子に諦めてもらうしかない。
「働かさずもの食うべからず」
少年がポツリと呟いた。
「瑠月が言ってた。働かずに居を構えても飯は来ない。誰も存在を認めてくれない。この御時世、一人で生きていけない。だからこそ、世に出て初めて存在価値を与えられる」
少年はポツリとポツリと呟きながらも視線は目下のゲームに集中している。座敷童子はその言葉を受け止めたのか、ゆっくりと起き上がり部屋の中へ。
そうして、なんの因果か座敷童子はついてくることに。
「よくよく考えれば座敷童子を追い出したの、大丈夫かな?」
「けっ。ほっとけ。本人が追い出してくれて頼んだんだろ? あたしもあの家に未練ねぇし」
クチャクチャとガムを噛みながら座敷童子は、振り向くことなく歩く。
「とりあえず、新しい寝床探そう」
わたしはポケットからスマホを取り出す。座敷童子は噛んでいたガムを紙用紙に吐き出した。
「それはいい。当てなら目の前にある」
ビッと指さされ、わたしは目を白黒する。座敷童子はニィと歯を見せ笑った。悪戯っ子のように。
「まさか、わたしの家に!」
「んな訳あっか。その、事務所だよ」
あっさり振られて撃沈。彼女は新しい住まいをあの事務所にすると。確かに赤字続きの事務所なら幸運をもたらす座敷童子が来れば願ったりかなったり。
実際事務所の経営はほんとに酷かった。昼間はOLを勤めている雪香さんが経営管理や書類整理をしているのだが、ざっとその書類を見て空いた口が塞がらなかった。
去年の秋頃から今月までの約五ヶ月間仕事なし。代わりに社長である探偵がなぜか、会社のお金を使って着物やら新しい煙管を買っていたりと、ろくでもない。
雪香さんが激昂し問い詰めても「たかが五万使った程度でそうカッカするな。雪女がそう怒って溶けたら誰が掃除するんだ?」と揚げ足とるので雪香さんが凍らせたことも。すぐに脱出したらしいけど、あの探偵ほんとにろくでもない。だからこそ、座敷童子という存在はもはや存在しているだけで神のよう。きっと探偵も気にいるはずだ。
束の間――座敷童子を連れて探偵事務所へと帰ってきたわたしたちを出迎えてくれたのは温かな眼差しでもなく、外から帰ってきた人間に向けるべき眼差しでもない。座敷童子を見てじっと目を細めた。
「おいそいつ――」
「キャァァァ‼ 女の子が! ここに女の子が二人もぉ‼」
雪香さんが座敷童子にひし、と抱きつく。座敷童子は「グェ」とカエルのような声を出す。雪香さんは抱き枕のように擦り寄ってグリグリと撫でる。
「この黒曜石のような黒髪、10代特有の艶肌感、このもっちりとしたお尻――」
「うわぁぁぁ! あんたどこ触ってんだ!」
雪香から離れようとバシバシ叩くも動じない。その間をさくようにして現れたのは探偵。
「こらこらこら、事務所内で謎の花を咲かせない雪香くん!」
「あ~ん、もっとモチモチお尻触らせて~」
「このババアやばいやつだ」
「ババアじゃないわ! 口の聞き方わかってないわね! 一から調教してあげるー‼」
雪香さんがかの有名なアニメの泥棒主人公のように宙に浮き、わたしたちめがけて飛んでくる。それをデコピン一つで跳ね返した探偵。宙に飛んでいた雪香さんがゆっくり地面にドスンと落ちていく。
「全く。一言二言、三言……文句を言いたい! まず! そいつを山でも海でもどこへでも捨ててこい!」
「何言ってんですか⁉ 座敷童子ですよ、幸運を運ぶ女神様ですよ」
座敷童子を鋭く指差して鋭く睨みつける。はぁと深いため息をついた。等の差された本人はさも気にしてないようにガムを噛んでる。探偵は嫌味を続けた。
「はぁ~。いいか! 諸君っ、神はこの世で一つ! この事務所内に我が同等の力を持つものは在ってはならない! それに座敷童子は幸運どころか不幸も呼び寄せるやつだ。招き入れるな。座敷童子などという小物が入ってたちまち俺の貼った結界が破れてみろ! たちまち世界中の悪が俺に群がる!」
何を言ってるんだこの人は。
なんて言葉はしなかった。誰も。みんなこの人の厨ニ病テンションに慣れたらしい。
探偵はシッシッと小童でも追い出すかのように悪態つく。座敷童子は鼻で笑った。自分の心を見透かされにやりと不敵に笑った。座敷童子が着ているのは全身赤い中学のズンボラジャージ。
ここで座敷童子という妖怪の豆知識だが、座敷童子が赤い服を着ているとその家は不幸になる。座敷童子は良く悪くも吉と凶の命運を決める妖怪だ。
赤いジャージを着ている座敷童子。あの家が追い出したい理由は、二つになった。一つはゲーム三昧で家にこもっているから、二つは凶を呼ぶ赤いジャージを着ているから。恐らく後者だ。なんてものを引き寄せたんだ。赤字続きの事務所内に入っては困る。
「これお気に入りなんだ。あんな真っ白いの着るかよ」
「座敷童子がよくもまぁ、そんな赤々としたものを」
「赤が好きなんだよ。まぁおいおい置いといて、ここでは働くなりするからさここに泊まらせてくれよ」
「だめだ、邪悪なるものを体に宿すこの神にそんな態度か。俺がこれを宿してこの地は守られてるんだ。ここは小物が来るところじゃない。せいぜい二十万の家賃だ。払えるか? 払えないなら……――」
「働くっつてんだろ。聞こえなかったかよ」
探偵がムッとした顔した。座敷童子もそれに呼応してムッとする。睨みっ子対決。禍々しい黒い渦が渦巻いている。一触即発の空気だ。
奥の部屋からドタバタと騒がしい物音がし、雪香さんが子供のような無邪気な顔で何かを取ってきた。
「これ! あたしが中学のときに買ったやつ! 似合うはずよ」
雪香さんはタンスの奥深くにしまっていたものを引っ張り上げそれを有無を言わさず座敷童子の胸に預ける。座敷童子はそのまま雪香さんにカラフルなピンクの部屋に引っ張られ中からキャキャと黄色い声が。
「どうか、どうか‼ そのゲームをわたくしめにいただけませんか⁉」
見た目女子校生が見た目中学生に土下座している絵面。
「やだね」
「どおかぁぁ‼」
「ねぇ、こんなに言ってるんだしさ? ね?」
わたしは優しくなだめるように彼に言う。ぎろりと睨まれた。はいはい、だめなの。わかったよ。全然譲ってはくれないだろうし、ここは座敷童子に諦めてもらうしかない。
「働かさずもの食うべからず」
少年がポツリと呟いた。
「瑠月が言ってた。働かずに居を構えても飯は来ない。誰も存在を認めてくれない。この御時世、一人で生きていけない。だからこそ、世に出て初めて存在価値を与えられる」
少年はポツリとポツリと呟きながらも視線は目下のゲームに集中している。座敷童子はその言葉を受け止めたのか、ゆっくりと起き上がり部屋の中へ。
そうして、なんの因果か座敷童子はついてくることに。
「よくよく考えれば座敷童子を追い出したの、大丈夫かな?」
「けっ。ほっとけ。本人が追い出してくれて頼んだんだろ? あたしもあの家に未練ねぇし」
クチャクチャとガムを噛みながら座敷童子は、振り向くことなく歩く。
「とりあえず、新しい寝床探そう」
わたしはポケットからスマホを取り出す。座敷童子は噛んでいたガムを紙用紙に吐き出した。
「それはいい。当てなら目の前にある」
ビッと指さされ、わたしは目を白黒する。座敷童子はニィと歯を見せ笑った。悪戯っ子のように。
「まさか、わたしの家に!」
「んな訳あっか。その、事務所だよ」
あっさり振られて撃沈。彼女は新しい住まいをあの事務所にすると。確かに赤字続きの事務所なら幸運をもたらす座敷童子が来れば願ったりかなったり。
実際事務所の経営はほんとに酷かった。昼間はOLを勤めている雪香さんが経営管理や書類整理をしているのだが、ざっとその書類を見て空いた口が塞がらなかった。
去年の秋頃から今月までの約五ヶ月間仕事なし。代わりに社長である探偵がなぜか、会社のお金を使って着物やら新しい煙管を買っていたりと、ろくでもない。
雪香さんが激昂し問い詰めても「たかが五万使った程度でそうカッカするな。雪女がそう怒って溶けたら誰が掃除するんだ?」と揚げ足とるので雪香さんが凍らせたことも。すぐに脱出したらしいけど、あの探偵ほんとにろくでもない。だからこそ、座敷童子という存在はもはや存在しているだけで神のよう。きっと探偵も気にいるはずだ。
束の間――座敷童子を連れて探偵事務所へと帰ってきたわたしたちを出迎えてくれたのは温かな眼差しでもなく、外から帰ってきた人間に向けるべき眼差しでもない。座敷童子を見てじっと目を細めた。
「おいそいつ――」
「キャァァァ‼ 女の子が! ここに女の子が二人もぉ‼」
雪香さんが座敷童子にひし、と抱きつく。座敷童子は「グェ」とカエルのような声を出す。雪香さんは抱き枕のように擦り寄ってグリグリと撫でる。
「この黒曜石のような黒髪、10代特有の艶肌感、このもっちりとしたお尻――」
「うわぁぁぁ! あんたどこ触ってんだ!」
雪香から離れようとバシバシ叩くも動じない。その間をさくようにして現れたのは探偵。
「こらこらこら、事務所内で謎の花を咲かせない雪香くん!」
「あ~ん、もっとモチモチお尻触らせて~」
「このババアやばいやつだ」
「ババアじゃないわ! 口の聞き方わかってないわね! 一から調教してあげるー‼」
雪香さんがかの有名なアニメの泥棒主人公のように宙に浮き、わたしたちめがけて飛んでくる。それをデコピン一つで跳ね返した探偵。宙に飛んでいた雪香さんがゆっくり地面にドスンと落ちていく。
「全く。一言二言、三言……文句を言いたい! まず! そいつを山でも海でもどこへでも捨ててこい!」
「何言ってんですか⁉ 座敷童子ですよ、幸運を運ぶ女神様ですよ」
座敷童子を鋭く指差して鋭く睨みつける。はぁと深いため息をついた。等の差された本人はさも気にしてないようにガムを噛んでる。探偵は嫌味を続けた。
「はぁ~。いいか! 諸君っ、神はこの世で一つ! この事務所内に我が同等の力を持つものは在ってはならない! それに座敷童子は幸運どころか不幸も呼び寄せるやつだ。招き入れるな。座敷童子などという小物が入ってたちまち俺の貼った結界が破れてみろ! たちまち世界中の悪が俺に群がる!」
何を言ってるんだこの人は。
なんて言葉はしなかった。誰も。みんなこの人の厨ニ病テンションに慣れたらしい。
探偵はシッシッと小童でも追い出すかのように悪態つく。座敷童子は鼻で笑った。自分の心を見透かされにやりと不敵に笑った。座敷童子が着ているのは全身赤い中学のズンボラジャージ。
ここで座敷童子という妖怪の豆知識だが、座敷童子が赤い服を着ているとその家は不幸になる。座敷童子は良く悪くも吉と凶の命運を決める妖怪だ。
赤いジャージを着ている座敷童子。あの家が追い出したい理由は、二つになった。一つはゲーム三昧で家にこもっているから、二つは凶を呼ぶ赤いジャージを着ているから。恐らく後者だ。なんてものを引き寄せたんだ。赤字続きの事務所内に入っては困る。
「これお気に入りなんだ。あんな真っ白いの着るかよ」
「座敷童子がよくもまぁ、そんな赤々としたものを」
「赤が好きなんだよ。まぁおいおい置いといて、ここでは働くなりするからさここに泊まらせてくれよ」
「だめだ、邪悪なるものを体に宿すこの神にそんな態度か。俺がこれを宿してこの地は守られてるんだ。ここは小物が来るところじゃない。せいぜい二十万の家賃だ。払えるか? 払えないなら……――」
「働くっつてんだろ。聞こえなかったかよ」
探偵がムッとした顔した。座敷童子もそれに呼応してムッとする。睨みっ子対決。禍々しい黒い渦が渦巻いている。一触即発の空気だ。
奥の部屋からドタバタと騒がしい物音がし、雪香さんが子供のような無邪気な顔で何かを取ってきた。
「これ! あたしが中学のときに買ったやつ! 似合うはずよ」
雪香さんはタンスの奥深くにしまっていたものを引っ張り上げそれを有無を言わさず座敷童子の胸に預ける。座敷童子はそのまま雪香さんにカラフルなピンクの部屋に引っ張られ中からキャキャと黄色い声が。
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