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番外編
もう1つの『クラスでバカにされてるオタクなぼくが、気づいたら不良たちから崇拝されててガクブル』④
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「誰かと思えば、この間のガキか」
ステージに上がった俺を見て、数瞬考える素振りを見せたroute10はそう言った。
「なんの用だ? 俺のイルなラップにやられて思わずビンビンになっちまったのか?」
「まあそんなところですかね。あなたに沢山チケット買わされたんで、特等席で見させてもらわないと損かなって思いまして」
「あ?」
route10は途端に目を細め、眼光鋭く俺を見た。
「くだらねぇこと言ってねぇで、邪魔だから下りろテメェ」
恐ろしさはある。それでも、怯むわけにはいかない。
「それはできません」
と俺は決然と告げる。
「あぁ? なにがしてぇんだクソガキ」
「自分で言ったんじゃないですか。挑んでみろって。だから俺はここに上ったんだよ」
一瞬呆気に取られたroute10だったが、次の瞬間には大口を開いて笑っていた。
「お前が俺に挑む? ラップバトルで? サイファーに参加したこともねぇど素人がか?」
確かに俺はラップの素人だ。だが、こう見えても口喧嘩で負けたことはない。
「少なくとも、あんたに負ける気はしないよ」
ーーーーーーーーーーー
ライブが始まったのを見計らい、あたしは会場の隅から移動を始める。相変わらず男たちの視線を集めながら、最近では垢抜けたというか、あまりにもオーラがあり過ぎて男たちも声をかけて良いものか戸惑っているのがありありと見て取れる女性に声をかける。
「冴子」
あたしの呼びかけに、彼女はくるりと振り返って笑みを浮かべた。相変わらずその一挙手一投足が様になっているなと感じてしまう。
「与儀さん、探しましたよ」
あたしはあんたみたいに目立たないからね、と心の中でボヤきながら、もう一人を探す。冴子と違って、絵里香を探すのは苦労した。と言っても、彼女が特別地味というわけではない。冴子が目立ちすぎるのだ。
発見した絵理香に近づきながら、周りを探したが居るはずの少年の姿がない。
「清田君は?」
ホントに地味なのはあの清田って男の子よね。冴子や絵里香を見つけるのはそう難しくないけれど、ただでさえ男の比率が多いこの会場で、あの目立たない男子を探すのは骨が折れそうね。
だからこそ、絵里香と一緒にいてくれるものだと思っていたのに、ここにいなかった。
「まさかあたしたちを誘っておいて、自分が来てないなんてことないわよね?」
「清田君なら、さっきまでここにいましたよ」
絵理香が答える。
「そうなの? じゃあ、お手洗いかなにか?」
あたしの言葉に、絵里香は首を横に振った。そして、腕を持ち上げると、人差し指を立ててなにかを指差した。
視線をそちらに向けると、そこには、いままさにステージに上がろうとする清田少年の姿があった。
「あのバカ、なにやってるのっ」
冴子は黙っていられず、そう言葉を漏らすと、
「絵里香。あんた側にいたんじゃないの? どうして止めなかったのよ」
と矛先を絵里香に向けた。
「止める間もなく、気づいたら行ってたんです。まさかステージに上がるなんて思わないですよ」
それはそうだろう。あの見た目陰キャの少年が、これだけの観衆を前にステージに上がり、しかも屈強なラッパーと対峙するなんて考えられるわけがない。
「与儀さん。あいつ、なにするつもりでしょう?」
冴子の疑問は愚問だった。清田という少年の目には見覚えがあった。
「冴子、あんたもわかってるんじゃないの?」
冴子も気付いているのだろう。あたしの言葉にそれ以上なにも返さなかった。
この感じには覚えがある。
なにかがとり憑いたみたいに、冴えないヤツが化ける瞬間。
ステージ上では清田と、route10というラッパーが正面きって睨み合っている。だが、先にroute10が視線を外し、余裕を見せつけるように笑みを浮かべ、マイクを口元に寄せた。
「随分とデカい口叩いてくれるじゃねぇか。ただ、素人相手に本気になったらダセェからな。ハンデだ。先攻後攻の順番は決めさせてやるよ」
「それじゃあ後攻で」
清田は即答でそう答えた。
「はぁ? なんで後攻なわけ? やるからには先攻でバンバン攻めた方がよくない?」
頭が悪い体育会系みたいな発言をする冴子に、あたしは説明する。
「ラップバトルの性質上、後攻が有利なのよ。それくらいは清田君もわかってるのね」
先攻から始まったバトルは、当然後攻で終わる。つまり、最後に発言できるのは後攻を取った方ということになる。得点といった明確な基準のないラップバトルの勝敗は、パンチラインと呼ばれる印象深いワードを審査員である観客にどれだけ与えられるかで決まると言ってもいい。当然、最後に発した言葉の方が聞いている人間の印象には残りやすいし、そこにパンチラインを持ってくれば尚更強い印象を与えることができる。
だが、それらはあくまである程度のスキルがあるという大前提の話だ。
果たして、どうなってしまうのだろうか。そんな風に考えていると、ステージ上で状況が動く。DJがターンテーブルをスクラッチすることで、ビートが提示される。そうしてDJが試しで流した三曲の中から、一番テンポの早いビートをroute10が選択した。先攻後攻を決める権利を清田君に譲った代わりに、バトルに使われるビートの選択はroute10が選んだようだ。
それにしても、とことん意地の悪いラッパーだわ。清田君がずぶの素人であると知っていて、わざとテンポの早いビートを選んだに違いない。当然だけど、ゆったりとしたビートよりもアップテンポのビートの方が音に乗るのは難しい。ましてや、その場で考えながら言葉を発しなければならないラップバトルともなると尚のことだ。
先攻後攻の選択をさせてやったと大きな面をしていたが、思っていたよりも小物なようだ。でもだからこそ、小狡いroute10を倒すことは容易ではない。バトルを始める前から会場を掌握している相手に、清田君はどう立ち向かうつもりなのかしら?
ステージに上がった俺を見て、数瞬考える素振りを見せたroute10はそう言った。
「なんの用だ? 俺のイルなラップにやられて思わずビンビンになっちまったのか?」
「まあそんなところですかね。あなたに沢山チケット買わされたんで、特等席で見させてもらわないと損かなって思いまして」
「あ?」
route10は途端に目を細め、眼光鋭く俺を見た。
「くだらねぇこと言ってねぇで、邪魔だから下りろテメェ」
恐ろしさはある。それでも、怯むわけにはいかない。
「それはできません」
と俺は決然と告げる。
「あぁ? なにがしてぇんだクソガキ」
「自分で言ったんじゃないですか。挑んでみろって。だから俺はここに上ったんだよ」
一瞬呆気に取られたroute10だったが、次の瞬間には大口を開いて笑っていた。
「お前が俺に挑む? ラップバトルで? サイファーに参加したこともねぇど素人がか?」
確かに俺はラップの素人だ。だが、こう見えても口喧嘩で負けたことはない。
「少なくとも、あんたに負ける気はしないよ」
ーーーーーーーーーーー
ライブが始まったのを見計らい、あたしは会場の隅から移動を始める。相変わらず男たちの視線を集めながら、最近では垢抜けたというか、あまりにもオーラがあり過ぎて男たちも声をかけて良いものか戸惑っているのがありありと見て取れる女性に声をかける。
「冴子」
あたしの呼びかけに、彼女はくるりと振り返って笑みを浮かべた。相変わらずその一挙手一投足が様になっているなと感じてしまう。
「与儀さん、探しましたよ」
あたしはあんたみたいに目立たないからね、と心の中でボヤきながら、もう一人を探す。冴子と違って、絵里香を探すのは苦労した。と言っても、彼女が特別地味というわけではない。冴子が目立ちすぎるのだ。
発見した絵理香に近づきながら、周りを探したが居るはずの少年の姿がない。
「清田君は?」
ホントに地味なのはあの清田って男の子よね。冴子や絵里香を見つけるのはそう難しくないけれど、ただでさえ男の比率が多いこの会場で、あの目立たない男子を探すのは骨が折れそうね。
だからこそ、絵里香と一緒にいてくれるものだと思っていたのに、ここにいなかった。
「まさかあたしたちを誘っておいて、自分が来てないなんてことないわよね?」
「清田君なら、さっきまでここにいましたよ」
絵理香が答える。
「そうなの? じゃあ、お手洗いかなにか?」
あたしの言葉に、絵里香は首を横に振った。そして、腕を持ち上げると、人差し指を立ててなにかを指差した。
視線をそちらに向けると、そこには、いままさにステージに上がろうとする清田少年の姿があった。
「あのバカ、なにやってるのっ」
冴子は黙っていられず、そう言葉を漏らすと、
「絵里香。あんた側にいたんじゃないの? どうして止めなかったのよ」
と矛先を絵里香に向けた。
「止める間もなく、気づいたら行ってたんです。まさかステージに上がるなんて思わないですよ」
それはそうだろう。あの見た目陰キャの少年が、これだけの観衆を前にステージに上がり、しかも屈強なラッパーと対峙するなんて考えられるわけがない。
「与儀さん。あいつ、なにするつもりでしょう?」
冴子の疑問は愚問だった。清田という少年の目には見覚えがあった。
「冴子、あんたもわかってるんじゃないの?」
冴子も気付いているのだろう。あたしの言葉にそれ以上なにも返さなかった。
この感じには覚えがある。
なにかがとり憑いたみたいに、冴えないヤツが化ける瞬間。
ステージ上では清田と、route10というラッパーが正面きって睨み合っている。だが、先にroute10が視線を外し、余裕を見せつけるように笑みを浮かべ、マイクを口元に寄せた。
「随分とデカい口叩いてくれるじゃねぇか。ただ、素人相手に本気になったらダセェからな。ハンデだ。先攻後攻の順番は決めさせてやるよ」
「それじゃあ後攻で」
清田は即答でそう答えた。
「はぁ? なんで後攻なわけ? やるからには先攻でバンバン攻めた方がよくない?」
頭が悪い体育会系みたいな発言をする冴子に、あたしは説明する。
「ラップバトルの性質上、後攻が有利なのよ。それくらいは清田君もわかってるのね」
先攻から始まったバトルは、当然後攻で終わる。つまり、最後に発言できるのは後攻を取った方ということになる。得点といった明確な基準のないラップバトルの勝敗は、パンチラインと呼ばれる印象深いワードを審査員である観客にどれだけ与えられるかで決まると言ってもいい。当然、最後に発した言葉の方が聞いている人間の印象には残りやすいし、そこにパンチラインを持ってくれば尚更強い印象を与えることができる。
だが、それらはあくまである程度のスキルがあるという大前提の話だ。
果たして、どうなってしまうのだろうか。そんな風に考えていると、ステージ上で状況が動く。DJがターンテーブルをスクラッチすることで、ビートが提示される。そうしてDJが試しで流した三曲の中から、一番テンポの早いビートをroute10が選択した。先攻後攻を決める権利を清田君に譲った代わりに、バトルに使われるビートの選択はroute10が選んだようだ。
それにしても、とことん意地の悪いラッパーだわ。清田君がずぶの素人であると知っていて、わざとテンポの早いビートを選んだに違いない。当然だけど、ゆったりとしたビートよりもアップテンポのビートの方が音に乗るのは難しい。ましてや、その場で考えながら言葉を発しなければならないラップバトルともなると尚のことだ。
先攻後攻の選択をさせてやったと大きな面をしていたが、思っていたよりも小物なようだ。でもだからこそ、小狡いroute10を倒すことは容易ではない。バトルを始める前から会場を掌握している相手に、清田君はどう立ち向かうつもりなのかしら?
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