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エピローグ
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駄目だ。もう体の感覚がない。それなのに、不良たちから殴られた頭だけが燃えるように熱い。
あの子は、ニシキは無事だろうか。
もう目の前の光景すら見ることはできないが、微かに声がする。俺を心配して、叫ぶ声だ。
ああ、良かった。無事だったのか。
それならもういいから、俺なんかのためにそんなに泣かなくていい。
仕事柄、命を懸けることは覚悟しているつもりだったが、やはり、死ぬのは怖いな。
自分がこの世からいなくなることはそれほど恐ろしくない。だが、残していく者たちのことを思うと、心が締め付けられる。
妻は、まだ小さい息子を一人で育てていけるだろうか。職場で一番しっかりしている女性だったからきっと心配はないだろうが、それでも申し訳ない気持ちになる。過去に囚われ続ける俺を、そのまま受け入れて引っ張ってくれた彼女にはいくら感謝しても仕方ない。
これは、きっと罰なんだろうな。これまでの人生で、大勢の人を傷つけてきた俺が幸せになどなっていいはずがなかった。
だけど、最後に少しは償えただろうか。視力はおろか、耳に聞こえる声すらも薄れ始めていたが、力強く握られた手の感触だけははっきりわかる。
なあ、沙良。俺たちの息子はこんなに立派に育ったよ。高校のとき、沙良が俺に絆をくれたからいままで生きてこられたんだ。だから、最後にその絆を守ることができてよかった。
警察官になって世間のために働いたところで、自分の中に溜め込んだ罪の意識は消えてくれない。それどころか、日増しに大きくなるばかりだった。
そんなときにニシキの存在を知った。
名前、年齢、施設育ちということを聞いてまさかと思った。調べてすぐに、その少年が沙良の産んだ子供だということがわかった。
だから俺は、街で見かける度に話しかけるようになったんだ。最初は罪滅ぼしのためだった。沙良に対する罪の意識がそうさせたんだと思う。だが、少年と話している内に、彼の抱えた苦悩や心の傷に触れ、純粋に彼を救いたいと思うようになった。
短い間だったが、俺は正しい道を示すことができただろうか。
その答えを見届けることはできそうにないけれど、どうか願う。他人を傷つけることで、自分自身を傷つけるような真似はしないでほしい。行動はきっと自分に返ってくるものだから、ほんの少しでいい、他人を救えるような人間になって欲しい。そうすればきっと、誰かが力になってくれるから。
あの子は、ニシキは無事だろうか。
もう目の前の光景すら見ることはできないが、微かに声がする。俺を心配して、叫ぶ声だ。
ああ、良かった。無事だったのか。
それならもういいから、俺なんかのためにそんなに泣かなくていい。
仕事柄、命を懸けることは覚悟しているつもりだったが、やはり、死ぬのは怖いな。
自分がこの世からいなくなることはそれほど恐ろしくない。だが、残していく者たちのことを思うと、心が締め付けられる。
妻は、まだ小さい息子を一人で育てていけるだろうか。職場で一番しっかりしている女性だったからきっと心配はないだろうが、それでも申し訳ない気持ちになる。過去に囚われ続ける俺を、そのまま受け入れて引っ張ってくれた彼女にはいくら感謝しても仕方ない。
これは、きっと罰なんだろうな。これまでの人生で、大勢の人を傷つけてきた俺が幸せになどなっていいはずがなかった。
だけど、最後に少しは償えただろうか。視力はおろか、耳に聞こえる声すらも薄れ始めていたが、力強く握られた手の感触だけははっきりわかる。
なあ、沙良。俺たちの息子はこんなに立派に育ったよ。高校のとき、沙良が俺に絆をくれたからいままで生きてこられたんだ。だから、最後にその絆を守ることができてよかった。
警察官になって世間のために働いたところで、自分の中に溜め込んだ罪の意識は消えてくれない。それどころか、日増しに大きくなるばかりだった。
そんなときにニシキの存在を知った。
名前、年齢、施設育ちということを聞いてまさかと思った。調べてすぐに、その少年が沙良の産んだ子供だということがわかった。
だから俺は、街で見かける度に話しかけるようになったんだ。最初は罪滅ぼしのためだった。沙良に対する罪の意識がそうさせたんだと思う。だが、少年と話している内に、彼の抱えた苦悩や心の傷に触れ、純粋に彼を救いたいと思うようになった。
短い間だったが、俺は正しい道を示すことができただろうか。
その答えを見届けることはできそうにないけれど、どうか願う。他人を傷つけることで、自分自身を傷つけるような真似はしないでほしい。行動はきっと自分に返ってくるものだから、ほんの少しでいい、他人を救えるような人間になって欲しい。そうすればきっと、誰かが力になってくれるから。
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