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彼女の優しい嘘の理由 31
しおりを挟む「俺と沙良、両方の下駄箱に手紙が入れられていたことがあった。いずれも差し出し人の名前が書かれていないその手紙には、簡素な文字で『胎児の夢』とだけ書かれていたよ。初め、俺はその手紙の犯人を彩香だと思い込んでいた。でも違ったよ」
俺はかぶりを振ってから、康一郎を睨みつけた。
「その手紙を書いたのも、お前だ」
しかし、康一郎は顔色一つ変えなかった。もしかしたらと期待したのだが、やはり動揺をみせることはしない。俺は小さな落胆をすぐに振り払い、続けた。
「手紙には『胎児の夢』、つまり沙良の妊娠を示唆する言葉が書かれていた。だから、妊娠の事実を知る人間にしかその手紙を書くことはできなかったんだ。だからこそ、彩香が犯人だと俺は思い込んだ。俺が妊娠の話を打ち明けたのは彼女にだけだったから。でも、彩香は犯人じゃなかった。そもそも、他校の生徒が下駄箱に手紙を忍ばせるなんて、普通に考えたら無理な話だ」
俺は、手紙を受け取った直後、そんな当たり前のことに気付けないくらい頭に血が昇っていたのだ。
「だが、彩香が犯人じゃないとすれば、手紙は誰が出したのかという疑問が残る。妊娠の事実を知る人間は、当事者である俺と沙良。それに話を聞いた彩香と、沙良の本当の妊娠相手である江藤先生の四人ということになる。まず、彩香には手紙を出すことが不可能だったとなると、残るは三人。俺と沙良と江藤先生だけが残るわけだが、調べてみてわかったよ。この時点で、江藤先生は既に亡くなっていた。そうなると、手紙を出せるのは実質、俺と沙良の二人だけになってしまう。俺は当然手紙なんて出していない。そうなると、犯人は沙良ってことにるよな。でも、それはありえないと俺は思っている」
「なぜだ?」
「沙良は、手紙にひどく怯えていたんだ。とても演技とは思えないくらいに」
いまになって思うと、あの怯え方の理由は、死んだはずの江藤先生からの手紙だと考えたためなのだとわかる。江藤先生を殺害した沙良は、それで妊娠の真実を知る者は誰もいなくなったと高を括ったに違いない。そんな折に、妊娠を示唆する怪文書が送りつけられれば、動揺もするだろう。死人からの手紙と思って。
「だけど、もう一人手紙を出せた人間がいたんだ。それは江藤先生の協力者だ。さっきも言ったように、脅しに使う写真を提供し、俺と沙良の下駄箱の場所を把握できて、しかも手紙を入れることが可能な同じ高校に通う人間。そして協力者として、江藤先生から沙良の妊娠の事実を聞かされていた人物」
康一郎は、話の意図が掴めたのか、間髪入れずに言った。
「その協力者がどうして俺になるんだ。枯井戸さんが、俺の紹介した興信所に預けたという写真。それと同じ物を江藤先生が持っていたという理由だけで、俺が協力者になるのか?」
「それも重要な要素の一つだけどな。いまは手紙の話をしているんだよ。手紙を出したのが康一郎だと思ったのには、ちゃんとした理由があるんだ」
俺はそして、ポケットに忍ばせていた一冊の本を取り出す。
「これは昨日、彩香から借り受けた本だ。かなり有名な一冊らしくてな、『日本三大奇書』の一冊に数えられているそうだ」
知ってるだろう、と康一郎に問うと、肩を竦めてしらを切ろうとする。あまりにもわざとらしい態度だった。
「それならわからせてやるよ。手紙に書かれていた『胎児の夢』とは、『ドグラ・マグラ』という小説に出てくる言葉の引用だったんだ。そして、その小説の巻頭歌は、今回の事件を想わせる内容だった」
『胎児よ 胎児よ 何故踊る
母親の心がわかって おそろしいのか』
昨夜、彩香に言われてこのページを読んだとき、俺は体中に電気が走ったような錯覚に襲われた。それくらい、この巻頭歌は今回の事件の的を射ているのだ。
「彩香は昔から読書が趣味だった。だから『胎児の夢』と書かれた不気味な手紙が俺と沙良の元に届いたと聞かされて気付いたんだろう。沙良がなにか〝おそろしい″ことを考えているんじゃないかってな」
「それはまた、凄い偶然じゃないか」
「ああ。それが本当に偶然なら凄いよ」
もちろん、俺は偶然などと思っていない。この手紙に仕組まれた巧妙な罠こそ、康一郎の化けの皮を剥がす武器となるのだ。
俺は意気込みとは裏腹に、冷静さを欠くことなく話した。
「この手紙は、そもそも俺や沙良には意味がわからないものだ。『胎児の夢』なんて書かれても、この小説を知っている人間以外には意味をなさない。精々『胎児』って部分に動揺するのが関の山だろう」
だが、手紙に込められた本当の意図は、別にあった。
「この手紙は、そもそも俺や沙良にではなく、彩香に宛てられた手紙だったんだ。俺が手紙を受け取ったら、差し出し人を捜そうとする。その矛先が彩香に向くことも、お前は想定していたんだ」
俺が彩香に対してどういう思いを抱いていたのか、康一郎は知っていた。同時に、彩香が同じ気持ちを持っていたことにも、気付いていたのだろう。だから、沙良を貶める内容の手紙が俺に届けば、それを彩香による犯行だと俺が思い込むと、康一郎は読んでいたのだ。それだけの理由が彩香にはあったから。そして激昂した俺が、手紙について、彩香に問い質すことまで視野に入れていたのだ。
「そこでお前は、手紙の内容に秘密を忍ばせた」
それこそが『胎児の夢』の本当の意味だった。本が読めない俺には解けず、読書が趣味の彩香には解ける暗号。電話で手紙の内容を話したとき、確かに彩香は心当たりがあるような反応を示したが、それは手紙の差出人に心当たりがあったのではなく、その一文に心当たりがあったのだ。
「彩香の趣味が読書だということも、もちろんお前は知っていた。好きな女の子から、本を貸してもらっても読むことができないと、中学時代に俺が打ち明けたんだからな」
忘れたとは言わせない。俺はそう言って言葉を切った。それはもう言い逃れのできないほどの追及であった。
康一郎の計画は完璧過ぎたのだ。完璧なまでに計算され尽くしていたために、そこに偶然の入り込む隙がなくなってしまった。写真の件も手紙の件も、上手く立ち回り過ぎていて、その糸を手繰っていくと、行きつく先は一つだった。
康一郎は観念したのか、ふう、と息を吐いて片目を瞑った。
「馬鹿だ馬鹿だと思っていたが、そうではなかったみたいだな」
その言葉を聞いて、俺は目もくれず康一郎の胸倉を掴み上げた。
ようやく認めた。その事実だけで、いまにも殴りかかってしまいそうになるのを必死に抑え、放り投げるようにその手を離した。
「ふざけんなっ。お前、なんで笑っていやがる。どうしてこの状況でそんな顔ができるんだよっ!」
康一郎は、纏わり付くような厭らしい笑みをその口元に作った。
「じゃあどんな顔をしたらいい。どんな顔をしたらお前は許してくれるんだ?」
「俺が許すだと?」
耳を疑い、逆に聞き返した。
「俺が許すと、本気で思っているのか?」
沙良の身に起きた悲劇。それに意図的に関与した康一郎を、どうして許せるというのだろう。
俺が怒りに顔を歪めると、康一郎は先ほどまでと打って変わって少し伏し目がちになって呟いた。
「俺がしたことが、そんなに許せないか?」
「ああ、許せないね。沙良を傷付けたお前を、許せるわけがないじゃないか!」
康一郎はかぶりを振った。
「失念しているみたいだから言っておくが、更級沙良は、弟が惨殺魔であることを隠していたんだ。それどころか、犯行を隠蔽までしていた。そんな人間に、被害者を気取る権利があると思うか?」
「お前の言う通り、確かに沙良は過ちを犯した。だけど、それが心と体を弄ばれていい理由にはならない。やり方こそ間違っていたが、家族を守りたいと思う気持ちがそんなに間違っているのか?」
純粋な疑問として俺はそう問う。なにかを諭すような問い掛けではなく、それが本来の家族のあり方ではないのかという淡い願望。それは渇望の表れだった。
「七季の言う通りだ。だが、家族だからこそ更級沙良は弟の過ちを正さねばならなかった。罪を償わせるべきだったんだ。たとえ世間がどんな目で見ようとも、家族だけは暖かく迎え入れてくれる。ちゃんとそう伝えていれば、弟は罪を償ったんじゃないのか?」
康一郎の言葉は俺の根幹、芯に響いた。その指摘した点こそ、沙良が犯した最大の過ちだと俺も思う。弟の犯した罪を隠蔽してしまったことから、すべての歯車は狂ってしまったのだから。
「こういう言い方はしたくないがな、因果応報じゃないのか?」
吐き捨てるように康一郎はそう言った。
「それは違う。沙良がどんなに間違っていたとしても、それで彼女を苦しめていい理由にはならない。惨殺魔と沙良の繋がりに気付いていたなら、警察に通報することだってできたはずだ。それなのにお前はしなかった。江藤先生を焚きつけて、沙良が苦しむよう仕向けたんだ。そんなやり方を選んでおいて、道徳を説くような真似するなよ」
胸が熱くなるのを感じた。それは、純然たる怒りなのだろうと俺は理解した。
「そんなつもりはないんだがな」
康一郎は頭を掻きながら、呟くように言う。
「正しいことをしたなんて思ってない。間違っていることくらい百も承知さ。それでも、どうしても許せなかったんだ。必死になって惨殺魔を捕まえようとしている枯井戸さんを見ていたら、その間、七季の恋人としてのうのうと日々を過ごしていた更級沙良が許せなかったんだよ。それでは、あまりに枯井戸さんが不憫すぎる」
俺が言葉に詰まるのを見たためか、康一郎は、これでもかとばかりに続ける。
「七季の言うように警察に通報したところで、弟は未成年という武器を翳して、本来受けるべき社会的制裁から免れるだろう。更級沙良にしたって、直接動物の命を奪っていたわけではないから、結局、有耶無耶で事件は流れるに決まってる」
康一郎は顔を顰め、嘆かわしいとばかりに声に力を込めた。
「惨殺魔は動物だけではなく、人の命も軽んじた。更級沙良は、その犯罪の片棒を担いでいたんだ」
まるで名演説を聴かされているような気分だった。康一郎のように弁が立つ人間は、言葉で人の心を掌握することができる。
だが俺は笑った。腹の底からおかしくて、康一郎の有難いご高説を笑い声でかき消した。流石は中上康一郎、尤もらしい解釈を当てつけたものだと、腹を抱えて笑ってやった。
怪訝に顔を歪めた康一郎を見て、ようやく俺はイニシアチブを掴めたことに気付き、思わずまた笑みがこぼれた。
「それなら聞くが、どうして"俺を利用したんだ"」
その言葉に、康一郎は明らかに動揺の色を見せた。
「おいおい、まさか気付いていないとでも思ったのか? そんなわけないだろう。そもそも考えてみればでき過ぎた話だったんだよ」
それは、すべての始まりを思い起こせば見えてくる、不自然なまでの偶然。現実は小説より奇なりというが、それにしてもタイミングが良すぎたのだ。
「俺が沙良に告白するよう仕向けたのも康一郎だよな?」
その日のことを、俺は思い出していた。トランプの罰ゲームと称して、沙良に告白した日のことを。
「あの日、罰ゲームを提案したのは康一郎、お前だった。そして、俺はいままでに康一郎がトランプで負けたところを一度として見たことがない。それだけの実力があれば、あるいは誰か特定の人間を負けるように仕向けることも、できたんじゃないか?」
いつもそうだった。康一郎は、こと勝負事においては負けたことがない。だから、あんな提案ができたのだ。負けたら女子生徒に告白するなんていう、リスキーな提案が。
「康一郎は、初めから俺を負かすつもりだった。そして、告白の相手は適当に身繕ってやると嘯いて、当初の計画通りに沙良を名指ししたんだ。丁度その頃、沙良は江藤先生の言いつけで適当な男と肉体関係を持つよう強要されていた。偽物の妊娠相手をでっち上げるために」
そして、白羽の矢が立てられたのが、俺だった。
頭の中で、一緒にその賭けをした面子を思い浮かべる。
「この役目、女性と話しをするのが苦手な艮は適任とは言えないし、達夫に関しては、そもそも彼女がいる。康一郎はそのことを知っていたから、この計画に二人は向かないと判断したんだ」
つまり、ただの消去法だった。
「ここからは、あくまで俺の推測だけどな。惨殺魔の写真を江藤先生に渡した段階で、康一郎と江藤先生は協力関係にあった。その後、お前は先生から相談を持ち掛けられたんだ。沙良を妊娠させてしまったのだが、どうしたらいいだろうと。そこでお前は考えた。もし、援助交際の件が露呈してしまえば、協力者であるお前もただでは済まない。だから知恵を貸すことにしたんだ。別の男に身代わりを務めさせるという、最低な方法を」
俺はそこまで話してから、咳払いをした。自分の惨めさに声が震えてしまいそうになるのを必死に堪えた。
「要するに、沙良の妊娠相手をすげ変えてしまえばいい。そうやって江頭先生に吹き込んだんだ。そして、吹き込まれた江藤先生は沙良に誰か別の男と肉体関係を持つように強要した。同時にお前は、あろうことか友達を利用して、沙良に告白する相手を用意した」
つまり、すべては仕組まれたことだったのだ。沙良と過ごした時間すら、康一郎によって作り出された幻に過ぎない。やつこそ誰よりもずっと人でなしだと俺は感じた。
「康一郎。お前は俺を利用したんだよ。俺が苦しむことを百も承知で、それでも生贄に選んだ。それなのに、どうして俺がお前を許さなければいけないんだ?」
悪ふざけでは到底済まされない。いままでどんな悪戯の被害に遭っても、まあ仕方ないと笑っていた俺だが、今回は度が過ぎている。
康一郎から視線を外し、俺は広い部屋の中を歩いた。窓際まで歩くと、立ち止まって顔を上げる。
「お前は、そんなにも沙良が憎いのか? 俺を利用してまで、陥れたいほどに」
俺の動きに合わせるように、康一郎も顔と体を順番に向けた。
「七季には悪いことをしたと思っている。だが、さっきも言ったように俺は犯罪の片棒を担いでいた更級沙良が許せなかったんだ。命を軽んじるその浅ましい考えが気に入らないんだよ」
いままでの演技がかった態度ではなく、心の底から言葉が洩れたような、そんな呻きを康一郎は出した。
俺は思わず嘆息して言った。
「沙良を憎んでいるのは、紛れもなく本当なんだな」
彼女が感じたであろう傷みを想像すると、胸が苦しくなって、俺の言葉からも自然と覇気が消えた。だが、それだけが原因ではなかった。この期に及んで、まだそんな〝嘘〟を吐き続ける康一郎が許せないのだ。
「沙良が犯罪の手伝いしていたことが許せないだって? そんな嘘を誰が信じるものか」
これが最後の詰めだ。俺はそう自分に言い聞かせる。恐らく次に明かす真実が、康一郎が最も厳重に隠し通してきたものなのだろう。沙良を憎んだ理由も、本当はやすい正義感などではない。いまこそすべてを明らかにするときだ。
「康一郎の言葉には矛盾が隠れている。そもそも、犯罪が許せないというのなら、江藤先生がやっていた行為を容認する意味がわからない。沙良を苦しめるためという理由で、それ以外の女子生徒にも手を出していた江藤先生を、どうして許すことができる?」
達夫の彼女である棚田さんは、最初こそ金で体を許したが、怖くなってやめてほしいと懇願したそうだ。けれど江藤先生はやめなかった。
「犯罪が許せないというのなら、まずは江藤先生を取り締まるべきだった。それとも、女子高生に如何わしい行為を強要する大人は犯罪者ではないというのか?」
康一郎は黙り込む。
「それだけじゃない。動物殺しが許せないなら、沙良を苦しめる前に、弟の平良を裁くのが順番としては正しいはずだ。それをせずにお前は沙良だけをピンポイントに責めた。そこには、なにか別の理由があると考えるのが自然だ」
俺は窓のサッシに手を預けてから、窓辺に背をもたれ掛けた。
「普通に考えれば、康一郎と沙良の間になにか遺恨があったと考えられるが、中学時代からお前を知っている俺の耳に入っていないということは、表立ってわかるような遺恨ではないんだろう。そうして考えている内に、二人には一つだけ接点があることに気が付いたんだ」
康一郎を見ると、先ほどまでの余裕は消え、表情は青ざめていた。
俺は、その隙を見逃すまいとして声高に告げた。
「二人の接点。それは中上奏子の存在だ。お前の妹にして沙良の部活動の後輩。奏子の存在を当てはめると、すべてに合点がいくんだよ」
康一郎はなにか弁解を図ろうとしているようだったが、それを無視して俺は大きく息を吸い込んだ。次につづく言葉を準備して、最後の詰めを打つ。
「お前は、妹である奏子を異性として愛していた。だから、奏子の愛情を一身に受ける沙良が許せなかったんだ」
そう告げた瞬間、康一郎は大袈裟に肩を震わせた。こんなにも取り乱した康一郎を見たのは初めてで、その態度こそが口よりもずっと雄弁に事実を物語っているように思えた。
それでも、俺は心の機微を感じ得ないまま、ただひたすらに康一郎を責めるための言葉を口にし続ける。
「前に、好きな女性の話をしたことがあったよな。あのとき、康一郎は好きな女性がいると答えた。でも、その想いは決して届かないとも言っていた。あのときは、まさかそれが兄妹を意味しているとは夢にも思わなかったけどな」
康一郎は何度もかぶりを振っていた。
だが、その動作が真実を表しているようには見えなかった。
「お前が沙良を許せない理由は惨殺魔の手助けをしていたからなんて高尚な理由じゃない。妹の―――奏子の愛が沙良に向けられていることが悔しかったんだ。だから復讐を決意した。お前はただ、自分の嫉妬心を沙良にぶつけただけなんだよ」
「違うっ!」
康一郎は頭を掻き毟りながら叫んだ。
「違う。俺は……俺は」
「認めろよ。お前の偽善はただのメッキに過ぎない。剥がれれば結局、自分勝手な嫉妬心が露見するだけだ」
そんな些細な私情こそが、これだけ複雑な策略の原動力だった。
康一郎は、妹である奏子を愛していた。だが、想いが実ることはないとわかっていたのだろう。血縁者と結ばれることはないのだと自分自身に言い聞かせた。だから、『好きな人はいるが想いは通じない』と、俺たちに話したのだ。
しかし、奏子が部活動の先輩に思いを寄せていると知ってからは心穏やかではいられなくなった。康一郎は、善くも悪くも真面目な人間だ。そんな男が、妹を愛してしまう自分を許せるはずがない。その感情を抑え込むのに必死になったことだろう。
それなのに、妹は〝同性愛〟に走った。康一郎の中では、同性愛も禁忌と捉えているのだろう。いつだったか、友人たちとふざけ合っていたときに言っていた。
『同姓愛なんて最低だ、虫唾が走る』
と。
そのときは、そんな台詞にも疑念は抱かなかったが、妹のことを念頭に入れて考えると、その台詞は恨みの言葉に聞こえてくる。
そして、妹の気持ちを知った康一郎は、怒りの矛先を奏子ではなく沙良に向けた。中上グループの情報網を使い、沙良の弱みを洗っている内に、出てきたのが惨殺魔だった。康一郎はその情報を巧みに利用した。警察に突き出してしまっては面白くないと考え、策を講じたのだ。中学時代の同級生である彩香が惨殺魔を追っていたことを思い出した康一郎は、彼女まで利用しようと考えた。惨殺魔の姿を写真に収めたことを知り、興信所を紹介し彩香から写真を手に入れた。そうして手に入れた写真を江藤先生に渡し、それを使って沙良を脅させたのだ。
江藤先生の言いなりになるしかなかった沙良は、たび重なる凌辱に耐え続け、やがて妊娠してしまった。そのときになって初めて、康一郎は壁にぶつかったのだ。江藤先生の悪事が露呈し、自分が関わっていたことまで明るみに出ることを恐れ、妊娠相手の代替案を江藤先生に授けた。そして、その相手役まで用意した。俺という、生贄を。
康一郎の計画通り俺たちは付き合うこととなり、その思惑通りに沙良の妊娠相手は俺ということになった。康一郎の策略は、万全に進んでいるかに思われた。だが、ここで再びアクシデントが生じた。それまで黙って江藤先生の言いなりなっていた沙良が、江藤先生をその手に掛けてしまったのだ。沙良が殺人を犯すというシナリオまでもが康一郎に仕組まれたことなのか、それはわからない。だが、どちらにしても、江藤先生の死は康一郎にプラスに働いた。教え子を妊娠させるような軽率な行動を取る協力者がこの世からいなくなり、康一郎がやったことを知る存在は消えたのだ。
その訃報を聞かされた康一郎は、真っ先に沙良を疑ったに違いない。だが、警察に通報することはできない。通報するためには、事件の内容を詳しく知っていなければならない。沙良が江藤先生を殺す理由はただ一つ。それは、たび重なる凌辱である。もし警察にそれらの動機を話して、沙良が犯人だと告発したとしても、それを康一郎が知っていることに不審の目が向けられる可能性があった。それを警戒した康一郎は、沙良の犯罪を紐解くための鍵を間接的に残した。それが『胎児の夢』という短い手紙だったのだ。
あの手紙を読んだ俺が、真っ先に彩香を怪しむと踏み、読書が趣味の彩香にだけ通じる暗号を潜ませた。
彩香は、暗号から沙良がなにか恐ろしいことを考えていると知り、俺にも知らせるために本を渡した。そうして、沙良に対する不信感を強めていった俺は、昨日、すべての罪を暴いたのだ。
人殺しを知られた沙良は、もう学校に来ることはなくなる。つまり、奏子と会うこともなくなるということになる。
これこそが、康一郎が描いたシナリオである。
俺はつくづく思った。策士も、ここまでくると小賢しいと。
辛酸をなめる思いで、康一郎を見据えた。
「お前がすべて裏で操っていた。そう考えれば辻褄が合うんだよ」
康一郎は、高笑いでもしそうな勢いで言った。
「それがどうした? お前が示した論理はどれも憶測の域を出ない話じゃないか。立証なんてできやしない。そんな証拠、なに一つとして残していないからな。お前が警察に通報したって、俺はしらを切り通す自信がある。わかるか? 既に終わったことなんだよ。七季がしていることは、それを蒸し返しているに過ぎない」
雄弁に語る康一郎に対し、俺は嘲るように言った。
「お前を裁くのに、証拠なんて必要ないんだよ」
そして腕時計を確認し、「いい時間だな」と告げる。
すると、康一郎も部屋に据えられた時計に目を向けた。どうやらまだ気付いていないようだ。
ガチャ、と小さな物音がして、俺はチラとそちらを見る。次いでギィィイ、と不協な音が続き、そこでようやく康一郎も事体に気付いたようだ。振り返り、ハッとして目を剥く。しかし、それはあまりにも遅かった。
いつもの冷静な康一郎だったら、あるいは気付けていたかもしれない。ずっと部屋の外で息を潜めていた妹の存在に。
「かな……こ?」
目の前の事実が受け入れられないのか、喉の奥から漏れた声は酷く擦れていた。
「兄さん」
康一郎とは対照的に、奏子は落ち着いた声でそう呼びかける。
かと思うと、二人は、まるで抱き合うように密着した。奏子は部屋に入ってくるなり、康一郎の元へと一目散に駆け寄ったのだ。
それは一見すると、愛する人との抱擁を思わせる光景だった――――が、しかし、奏子の手に握られた鋭利な刃物が雰囲気を一切合切破壊していた。
不快な音、低い呻き、歪んだ表情、滴る赤い血。
「兄さん。私は、あなたを絶対に許さないっ」
部屋に入った奏子は、勢いを殺さないまま、康一郎に体当たりしたのだ。その手に持った刃物が、鈍い音とともに康一郎の体に沈んでいた。ジクジクと赤い円が傷口を中心にして広がっていく。真っ白いシャツが血に染まった。
「更級先輩を、よくもっ!」
容赦なく手首を返し、奏子は傷口を押し広げた。
低く、くぐもった悲鳴が部屋に響いた。康一郎の傷口から溢れた血は、床に赤い血だまりを作る。
「七季、てめえ、やり、やがったぁ……な」
康一郎は息も絶え絶えに、首をもたげて俺を睨んだ。その目は虚ろで、まるで焦点が定まっていない。
俺は首肯した。これはすべて仕組んだことだ。せめてもの復讐に、俺自身があつらえた演出。
「愛する人に刺されるなんて、ロマンチックじゃないか」
その言葉に返答する間もなく、康一郎は、とうとう耐えかねたように膝から崩れ落ちた。床の赤い水たまりが、ビシャンと音を立てて波打った。そうして彼の体は床に沈む。傷口から不自然に生えた、黒い柄の部分が異様さをより強調させた。
それで終わりだ。なんとも呆気ない幕引き。興味が失せ、俺は顔を上げると、佇む少女が視界に入った。
奏子は、震える右手を自らの左手で強く握り締めながら、床に沈んだ兄を憎々しげに睨みつけている。
「……驚かないんですね」
そう言って、いきなり顔を上げた奏子と目が合った。
「それとも、私がこうするって、読んでいたんですか?」
俺はかぶりを振り、「驚いているさ」と嘘を吐いた。
実際は、康一郎に復讐をするなら、この方法が最も効果的だと考えていた。だから、昨日の夜に奏子に電話をかけた。大事な話しがあると言って。
俺は今朝早く、中上家の前で奏子と落ち合い、その場で俺の知るほとんどすべてを掻い摘んで説明したのだ。
奏子は当然、驚いていた。
沙良がそんな状況に陥っていたことなど露ほども知らず、ましてや自分の兄が、沙良を苦しめることに協力していたなど、俄かには信じられないという表情をしていた。だから、俺は言ったのだ。
『これから康一郎と話しをする。奏子は、少し経ってから家に戻ってきてくれ。くれぐれも気付かれないように、俺たちが話しをしている部屋の前で、聞き耳を立ててくれればいい』
そうすれば真実が知れるさ、と。
康一郎と話している最中に窓辺に移動したのは、奏子に家に戻ってくるように合図するためだった。そして、奏子が家に入ったのを確認した俺は、いよいよ本題を切り出したのである。その結果、俺たちの会話を聞いた奏子がどういう行動に出るのか、考えるまでもなくわかった。
沙良を心から慕っていた奏子は、彼女を傷付けた相手を決して許さないだろう。それがたとえ、実の兄だったとしても。
これこそが康一郎に対する最も効果的な復讐だった。
俺は再び奏子を見た。首を傾げ、そのまま問う。
「俺のことは、殺さなくてもいいのか?」
「どうしてですか? 藪坂先輩を殺しても、仕方ありませんよ」
「だけど、俺は沙良を守ってやれなかった。奏子との約束を果たせなかったんだ。そんな俺を、奏子は許せるのか?」
「甘えないで下さい。他人の面倒まで見きれませんよ。それに、死んで楽になろうなんて虫がよすぎるんじゃないですか?」
そんな風に考えているつもりはなかった。だけど、その言葉が痛烈に心に響いたということは、つまり内心では楽になりたいと思っていたのかもしれない。この惨めさから解放されたい、と。
「本当に情けない人。逃げてばかりで、結局なにも果たせていないじゃないですか」
その通りだ、と俺は思う。返す言葉も見付からない。死にたければ自殺でもなんでもすればいいのに、その勇気もない。それを弱さと呼ばず、なんと呼ぶだろう。
そんな俺を見兼ねたように、奏子は言った。
「更級先輩は態度こそ柔和だけど、他人と一定の距離を保ち続けようとする。そんなクールなところも、私は好きでした。だけど、私が一番いい表情だなって思ったのは、藪坂先輩の話をしているときの、困ったような笑顔の先輩でした」
だから、俺のことは見逃すのだと奏子は言った。
「それに、藪坂先輩にちょっかい出したなんて知られたら、更級先輩に叱られちゃいますから」
そう言って奏子が最後に見せた笑顔は、ほんの少し沙良に似ているように思えた。どこか悲しげで、物憂げな瞳。だけど、とても魅力的で、女性的な表情だった。
俺はかぶりを振ってから、康一郎を睨みつけた。
「その手紙を書いたのも、お前だ」
しかし、康一郎は顔色一つ変えなかった。もしかしたらと期待したのだが、やはり動揺をみせることはしない。俺は小さな落胆をすぐに振り払い、続けた。
「手紙には『胎児の夢』、つまり沙良の妊娠を示唆する言葉が書かれていた。だから、妊娠の事実を知る人間にしかその手紙を書くことはできなかったんだ。だからこそ、彩香が犯人だと俺は思い込んだ。俺が妊娠の話を打ち明けたのは彼女にだけだったから。でも、彩香は犯人じゃなかった。そもそも、他校の生徒が下駄箱に手紙を忍ばせるなんて、普通に考えたら無理な話だ」
俺は、手紙を受け取った直後、そんな当たり前のことに気付けないくらい頭に血が昇っていたのだ。
「だが、彩香が犯人じゃないとすれば、手紙は誰が出したのかという疑問が残る。妊娠の事実を知る人間は、当事者である俺と沙良。それに話を聞いた彩香と、沙良の本当の妊娠相手である江藤先生の四人ということになる。まず、彩香には手紙を出すことが不可能だったとなると、残るは三人。俺と沙良と江藤先生だけが残るわけだが、調べてみてわかったよ。この時点で、江藤先生は既に亡くなっていた。そうなると、手紙を出せるのは実質、俺と沙良の二人だけになってしまう。俺は当然手紙なんて出していない。そうなると、犯人は沙良ってことにるよな。でも、それはありえないと俺は思っている」
「なぜだ?」
「沙良は、手紙にひどく怯えていたんだ。とても演技とは思えないくらいに」
いまになって思うと、あの怯え方の理由は、死んだはずの江藤先生からの手紙だと考えたためなのだとわかる。江藤先生を殺害した沙良は、それで妊娠の真実を知る者は誰もいなくなったと高を括ったに違いない。そんな折に、妊娠を示唆する怪文書が送りつけられれば、動揺もするだろう。死人からの手紙と思って。
「だけど、もう一人手紙を出せた人間がいたんだ。それは江藤先生の協力者だ。さっきも言ったように、脅しに使う写真を提供し、俺と沙良の下駄箱の場所を把握できて、しかも手紙を入れることが可能な同じ高校に通う人間。そして協力者として、江藤先生から沙良の妊娠の事実を聞かされていた人物」
康一郎は、話の意図が掴めたのか、間髪入れずに言った。
「その協力者がどうして俺になるんだ。枯井戸さんが、俺の紹介した興信所に預けたという写真。それと同じ物を江藤先生が持っていたという理由だけで、俺が協力者になるのか?」
「それも重要な要素の一つだけどな。いまは手紙の話をしているんだよ。手紙を出したのが康一郎だと思ったのには、ちゃんとした理由があるんだ」
俺はそして、ポケットに忍ばせていた一冊の本を取り出す。
「これは昨日、彩香から借り受けた本だ。かなり有名な一冊らしくてな、『日本三大奇書』の一冊に数えられているそうだ」
知ってるだろう、と康一郎に問うと、肩を竦めてしらを切ろうとする。あまりにもわざとらしい態度だった。
「それならわからせてやるよ。手紙に書かれていた『胎児の夢』とは、『ドグラ・マグラ』という小説に出てくる言葉の引用だったんだ。そして、その小説の巻頭歌は、今回の事件を想わせる内容だった」
『胎児よ 胎児よ 何故踊る
母親の心がわかって おそろしいのか』
昨夜、彩香に言われてこのページを読んだとき、俺は体中に電気が走ったような錯覚に襲われた。それくらい、この巻頭歌は今回の事件の的を射ているのだ。
「彩香は昔から読書が趣味だった。だから『胎児の夢』と書かれた不気味な手紙が俺と沙良の元に届いたと聞かされて気付いたんだろう。沙良がなにか〝おそろしい″ことを考えているんじゃないかってな」
「それはまた、凄い偶然じゃないか」
「ああ。それが本当に偶然なら凄いよ」
もちろん、俺は偶然などと思っていない。この手紙に仕組まれた巧妙な罠こそ、康一郎の化けの皮を剥がす武器となるのだ。
俺は意気込みとは裏腹に、冷静さを欠くことなく話した。
「この手紙は、そもそも俺や沙良には意味がわからないものだ。『胎児の夢』なんて書かれても、この小説を知っている人間以外には意味をなさない。精々『胎児』って部分に動揺するのが関の山だろう」
だが、手紙に込められた本当の意図は、別にあった。
「この手紙は、そもそも俺や沙良にではなく、彩香に宛てられた手紙だったんだ。俺が手紙を受け取ったら、差し出し人を捜そうとする。その矛先が彩香に向くことも、お前は想定していたんだ」
俺が彩香に対してどういう思いを抱いていたのか、康一郎は知っていた。同時に、彩香が同じ気持ちを持っていたことにも、気付いていたのだろう。だから、沙良を貶める内容の手紙が俺に届けば、それを彩香による犯行だと俺が思い込むと、康一郎は読んでいたのだ。それだけの理由が彩香にはあったから。そして激昂した俺が、手紙について、彩香に問い質すことまで視野に入れていたのだ。
「そこでお前は、手紙の内容に秘密を忍ばせた」
それこそが『胎児の夢』の本当の意味だった。本が読めない俺には解けず、読書が趣味の彩香には解ける暗号。電話で手紙の内容を話したとき、確かに彩香は心当たりがあるような反応を示したが、それは手紙の差出人に心当たりがあったのではなく、その一文に心当たりがあったのだ。
「彩香の趣味が読書だということも、もちろんお前は知っていた。好きな女の子から、本を貸してもらっても読むことができないと、中学時代に俺が打ち明けたんだからな」
忘れたとは言わせない。俺はそう言って言葉を切った。それはもう言い逃れのできないほどの追及であった。
康一郎の計画は完璧過ぎたのだ。完璧なまでに計算され尽くしていたために、そこに偶然の入り込む隙がなくなってしまった。写真の件も手紙の件も、上手く立ち回り過ぎていて、その糸を手繰っていくと、行きつく先は一つだった。
康一郎は観念したのか、ふう、と息を吐いて片目を瞑った。
「馬鹿だ馬鹿だと思っていたが、そうではなかったみたいだな」
その言葉を聞いて、俺は目もくれず康一郎の胸倉を掴み上げた。
ようやく認めた。その事実だけで、いまにも殴りかかってしまいそうになるのを必死に抑え、放り投げるようにその手を離した。
「ふざけんなっ。お前、なんで笑っていやがる。どうしてこの状況でそんな顔ができるんだよっ!」
康一郎は、纏わり付くような厭らしい笑みをその口元に作った。
「じゃあどんな顔をしたらいい。どんな顔をしたらお前は許してくれるんだ?」
「俺が許すだと?」
耳を疑い、逆に聞き返した。
「俺が許すと、本気で思っているのか?」
沙良の身に起きた悲劇。それに意図的に関与した康一郎を、どうして許せるというのだろう。
俺が怒りに顔を歪めると、康一郎は先ほどまでと打って変わって少し伏し目がちになって呟いた。
「俺がしたことが、そんなに許せないか?」
「ああ、許せないね。沙良を傷付けたお前を、許せるわけがないじゃないか!」
康一郎はかぶりを振った。
「失念しているみたいだから言っておくが、更級沙良は、弟が惨殺魔であることを隠していたんだ。それどころか、犯行を隠蔽までしていた。そんな人間に、被害者を気取る権利があると思うか?」
「お前の言う通り、確かに沙良は過ちを犯した。だけど、それが心と体を弄ばれていい理由にはならない。やり方こそ間違っていたが、家族を守りたいと思う気持ちがそんなに間違っているのか?」
純粋な疑問として俺はそう問う。なにかを諭すような問い掛けではなく、それが本来の家族のあり方ではないのかという淡い願望。それは渇望の表れだった。
「七季の言う通りだ。だが、家族だからこそ更級沙良は弟の過ちを正さねばならなかった。罪を償わせるべきだったんだ。たとえ世間がどんな目で見ようとも、家族だけは暖かく迎え入れてくれる。ちゃんとそう伝えていれば、弟は罪を償ったんじゃないのか?」
康一郎の言葉は俺の根幹、芯に響いた。その指摘した点こそ、沙良が犯した最大の過ちだと俺も思う。弟の犯した罪を隠蔽してしまったことから、すべての歯車は狂ってしまったのだから。
「こういう言い方はしたくないがな、因果応報じゃないのか?」
吐き捨てるように康一郎はそう言った。
「それは違う。沙良がどんなに間違っていたとしても、それで彼女を苦しめていい理由にはならない。惨殺魔と沙良の繋がりに気付いていたなら、警察に通報することだってできたはずだ。それなのにお前はしなかった。江藤先生を焚きつけて、沙良が苦しむよう仕向けたんだ。そんなやり方を選んでおいて、道徳を説くような真似するなよ」
胸が熱くなるのを感じた。それは、純然たる怒りなのだろうと俺は理解した。
「そんなつもりはないんだがな」
康一郎は頭を掻きながら、呟くように言う。
「正しいことをしたなんて思ってない。間違っていることくらい百も承知さ。それでも、どうしても許せなかったんだ。必死になって惨殺魔を捕まえようとしている枯井戸さんを見ていたら、その間、七季の恋人としてのうのうと日々を過ごしていた更級沙良が許せなかったんだよ。それでは、あまりに枯井戸さんが不憫すぎる」
俺が言葉に詰まるのを見たためか、康一郎は、これでもかとばかりに続ける。
「七季の言うように警察に通報したところで、弟は未成年という武器を翳して、本来受けるべき社会的制裁から免れるだろう。更級沙良にしたって、直接動物の命を奪っていたわけではないから、結局、有耶無耶で事件は流れるに決まってる」
康一郎は顔を顰め、嘆かわしいとばかりに声に力を込めた。
「惨殺魔は動物だけではなく、人の命も軽んじた。更級沙良は、その犯罪の片棒を担いでいたんだ」
まるで名演説を聴かされているような気分だった。康一郎のように弁が立つ人間は、言葉で人の心を掌握することができる。
だが俺は笑った。腹の底からおかしくて、康一郎の有難いご高説を笑い声でかき消した。流石は中上康一郎、尤もらしい解釈を当てつけたものだと、腹を抱えて笑ってやった。
怪訝に顔を歪めた康一郎を見て、ようやく俺はイニシアチブを掴めたことに気付き、思わずまた笑みがこぼれた。
「それなら聞くが、どうして"俺を利用したんだ"」
その言葉に、康一郎は明らかに動揺の色を見せた。
「おいおい、まさか気付いていないとでも思ったのか? そんなわけないだろう。そもそも考えてみればでき過ぎた話だったんだよ」
それは、すべての始まりを思い起こせば見えてくる、不自然なまでの偶然。現実は小説より奇なりというが、それにしてもタイミングが良すぎたのだ。
「俺が沙良に告白するよう仕向けたのも康一郎だよな?」
その日のことを、俺は思い出していた。トランプの罰ゲームと称して、沙良に告白した日のことを。
「あの日、罰ゲームを提案したのは康一郎、お前だった。そして、俺はいままでに康一郎がトランプで負けたところを一度として見たことがない。それだけの実力があれば、あるいは誰か特定の人間を負けるように仕向けることも、できたんじゃないか?」
いつもそうだった。康一郎は、こと勝負事においては負けたことがない。だから、あんな提案ができたのだ。負けたら女子生徒に告白するなんていう、リスキーな提案が。
「康一郎は、初めから俺を負かすつもりだった。そして、告白の相手は適当に身繕ってやると嘯いて、当初の計画通りに沙良を名指ししたんだ。丁度その頃、沙良は江藤先生の言いつけで適当な男と肉体関係を持つよう強要されていた。偽物の妊娠相手をでっち上げるために」
そして、白羽の矢が立てられたのが、俺だった。
頭の中で、一緒にその賭けをした面子を思い浮かべる。
「この役目、女性と話しをするのが苦手な艮は適任とは言えないし、達夫に関しては、そもそも彼女がいる。康一郎はそのことを知っていたから、この計画に二人は向かないと判断したんだ」
つまり、ただの消去法だった。
「ここからは、あくまで俺の推測だけどな。惨殺魔の写真を江藤先生に渡した段階で、康一郎と江藤先生は協力関係にあった。その後、お前は先生から相談を持ち掛けられたんだ。沙良を妊娠させてしまったのだが、どうしたらいいだろうと。そこでお前は考えた。もし、援助交際の件が露呈してしまえば、協力者であるお前もただでは済まない。だから知恵を貸すことにしたんだ。別の男に身代わりを務めさせるという、最低な方法を」
俺はそこまで話してから、咳払いをした。自分の惨めさに声が震えてしまいそうになるのを必死に堪えた。
「要するに、沙良の妊娠相手をすげ変えてしまえばいい。そうやって江頭先生に吹き込んだんだ。そして、吹き込まれた江藤先生は沙良に誰か別の男と肉体関係を持つように強要した。同時にお前は、あろうことか友達を利用して、沙良に告白する相手を用意した」
つまり、すべては仕組まれたことだったのだ。沙良と過ごした時間すら、康一郎によって作り出された幻に過ぎない。やつこそ誰よりもずっと人でなしだと俺は感じた。
「康一郎。お前は俺を利用したんだよ。俺が苦しむことを百も承知で、それでも生贄に選んだ。それなのに、どうして俺がお前を許さなければいけないんだ?」
悪ふざけでは到底済まされない。いままでどんな悪戯の被害に遭っても、まあ仕方ないと笑っていた俺だが、今回は度が過ぎている。
康一郎から視線を外し、俺は広い部屋の中を歩いた。窓際まで歩くと、立ち止まって顔を上げる。
「お前は、そんなにも沙良が憎いのか? 俺を利用してまで、陥れたいほどに」
俺の動きに合わせるように、康一郎も顔と体を順番に向けた。
「七季には悪いことをしたと思っている。だが、さっきも言ったように俺は犯罪の片棒を担いでいた更級沙良が許せなかったんだ。命を軽んじるその浅ましい考えが気に入らないんだよ」
いままでの演技がかった態度ではなく、心の底から言葉が洩れたような、そんな呻きを康一郎は出した。
俺は思わず嘆息して言った。
「沙良を憎んでいるのは、紛れもなく本当なんだな」
彼女が感じたであろう傷みを想像すると、胸が苦しくなって、俺の言葉からも自然と覇気が消えた。だが、それだけが原因ではなかった。この期に及んで、まだそんな〝嘘〟を吐き続ける康一郎が許せないのだ。
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康一郎を見ると、先ほどまでの余裕は消え、表情は青ざめていた。
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「二人の接点。それは中上奏子の存在だ。お前の妹にして沙良の部活動の後輩。奏子の存在を当てはめると、すべてに合点がいくんだよ」
康一郎はなにか弁解を図ろうとしているようだったが、それを無視して俺は大きく息を吸い込んだ。次につづく言葉を準備して、最後の詰めを打つ。
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そう告げた瞬間、康一郎は大袈裟に肩を震わせた。こんなにも取り乱した康一郎を見たのは初めてで、その態度こそが口よりもずっと雄弁に事実を物語っているように思えた。
それでも、俺は心の機微を感じ得ないまま、ただひたすらに康一郎を責めるための言葉を口にし続ける。
「前に、好きな女性の話をしたことがあったよな。あのとき、康一郎は好きな女性がいると答えた。でも、その想いは決して届かないとも言っていた。あのときは、まさかそれが兄妹を意味しているとは夢にも思わなかったけどな」
康一郎は何度もかぶりを振っていた。
だが、その動作が真実を表しているようには見えなかった。
「お前が沙良を許せない理由は惨殺魔の手助けをしていたからなんて高尚な理由じゃない。妹の―――奏子の愛が沙良に向けられていることが悔しかったんだ。だから復讐を決意した。お前はただ、自分の嫉妬心を沙良にぶつけただけなんだよ」
「違うっ!」
康一郎は頭を掻き毟りながら叫んだ。
「違う。俺は……俺は」
「認めろよ。お前の偽善はただのメッキに過ぎない。剥がれれば結局、自分勝手な嫉妬心が露見するだけだ」
そんな些細な私情こそが、これだけ複雑な策略の原動力だった。
康一郎は、妹である奏子を愛していた。だが、想いが実ることはないとわかっていたのだろう。血縁者と結ばれることはないのだと自分自身に言い聞かせた。だから、『好きな人はいるが想いは通じない』と、俺たちに話したのだ。
しかし、奏子が部活動の先輩に思いを寄せていると知ってからは心穏やかではいられなくなった。康一郎は、善くも悪くも真面目な人間だ。そんな男が、妹を愛してしまう自分を許せるはずがない。その感情を抑え込むのに必死になったことだろう。
それなのに、妹は〝同性愛〟に走った。康一郎の中では、同性愛も禁忌と捉えているのだろう。いつだったか、友人たちとふざけ合っていたときに言っていた。
『同姓愛なんて最低だ、虫唾が走る』
と。
そのときは、そんな台詞にも疑念は抱かなかったが、妹のことを念頭に入れて考えると、その台詞は恨みの言葉に聞こえてくる。
そして、妹の気持ちを知った康一郎は、怒りの矛先を奏子ではなく沙良に向けた。中上グループの情報網を使い、沙良の弱みを洗っている内に、出てきたのが惨殺魔だった。康一郎はその情報を巧みに利用した。警察に突き出してしまっては面白くないと考え、策を講じたのだ。中学時代の同級生である彩香が惨殺魔を追っていたことを思い出した康一郎は、彼女まで利用しようと考えた。惨殺魔の姿を写真に収めたことを知り、興信所を紹介し彩香から写真を手に入れた。そうして手に入れた写真を江藤先生に渡し、それを使って沙良を脅させたのだ。
江藤先生の言いなりになるしかなかった沙良は、たび重なる凌辱に耐え続け、やがて妊娠してしまった。そのときになって初めて、康一郎は壁にぶつかったのだ。江藤先生の悪事が露呈し、自分が関わっていたことまで明るみに出ることを恐れ、妊娠相手の代替案を江藤先生に授けた。そして、その相手役まで用意した。俺という、生贄を。
康一郎の計画通り俺たちは付き合うこととなり、その思惑通りに沙良の妊娠相手は俺ということになった。康一郎の策略は、万全に進んでいるかに思われた。だが、ここで再びアクシデントが生じた。それまで黙って江藤先生の言いなりなっていた沙良が、江藤先生をその手に掛けてしまったのだ。沙良が殺人を犯すというシナリオまでもが康一郎に仕組まれたことなのか、それはわからない。だが、どちらにしても、江藤先生の死は康一郎にプラスに働いた。教え子を妊娠させるような軽率な行動を取る協力者がこの世からいなくなり、康一郎がやったことを知る存在は消えたのだ。
その訃報を聞かされた康一郎は、真っ先に沙良を疑ったに違いない。だが、警察に通報することはできない。通報するためには、事件の内容を詳しく知っていなければならない。沙良が江藤先生を殺す理由はただ一つ。それは、たび重なる凌辱である。もし警察にそれらの動機を話して、沙良が犯人だと告発したとしても、それを康一郎が知っていることに不審の目が向けられる可能性があった。それを警戒した康一郎は、沙良の犯罪を紐解くための鍵を間接的に残した。それが『胎児の夢』という短い手紙だったのだ。
あの手紙を読んだ俺が、真っ先に彩香を怪しむと踏み、読書が趣味の彩香にだけ通じる暗号を潜ませた。
彩香は、暗号から沙良がなにか恐ろしいことを考えていると知り、俺にも知らせるために本を渡した。そうして、沙良に対する不信感を強めていった俺は、昨日、すべての罪を暴いたのだ。
人殺しを知られた沙良は、もう学校に来ることはなくなる。つまり、奏子と会うこともなくなるということになる。
これこそが、康一郎が描いたシナリオである。
俺はつくづく思った。策士も、ここまでくると小賢しいと。
辛酸をなめる思いで、康一郎を見据えた。
「お前がすべて裏で操っていた。そう考えれば辻褄が合うんだよ」
康一郎は、高笑いでもしそうな勢いで言った。
「それがどうした? お前が示した論理はどれも憶測の域を出ない話じゃないか。立証なんてできやしない。そんな証拠、なに一つとして残していないからな。お前が警察に通報したって、俺はしらを切り通す自信がある。わかるか? 既に終わったことなんだよ。七季がしていることは、それを蒸し返しているに過ぎない」
雄弁に語る康一郎に対し、俺は嘲るように言った。
「お前を裁くのに、証拠なんて必要ないんだよ」
そして腕時計を確認し、「いい時間だな」と告げる。
すると、康一郎も部屋に据えられた時計に目を向けた。どうやらまだ気付いていないようだ。
ガチャ、と小さな物音がして、俺はチラとそちらを見る。次いでギィィイ、と不協な音が続き、そこでようやく康一郎も事体に気付いたようだ。振り返り、ハッとして目を剥く。しかし、それはあまりにも遅かった。
いつもの冷静な康一郎だったら、あるいは気付けていたかもしれない。ずっと部屋の外で息を潜めていた妹の存在に。
「かな……こ?」
目の前の事実が受け入れられないのか、喉の奥から漏れた声は酷く擦れていた。
「兄さん」
康一郎とは対照的に、奏子は落ち着いた声でそう呼びかける。
かと思うと、二人は、まるで抱き合うように密着した。奏子は部屋に入ってくるなり、康一郎の元へと一目散に駆け寄ったのだ。
それは一見すると、愛する人との抱擁を思わせる光景だった――――が、しかし、奏子の手に握られた鋭利な刃物が雰囲気を一切合切破壊していた。
不快な音、低い呻き、歪んだ表情、滴る赤い血。
「兄さん。私は、あなたを絶対に許さないっ」
部屋に入った奏子は、勢いを殺さないまま、康一郎に体当たりしたのだ。その手に持った刃物が、鈍い音とともに康一郎の体に沈んでいた。ジクジクと赤い円が傷口を中心にして広がっていく。真っ白いシャツが血に染まった。
「更級先輩を、よくもっ!」
容赦なく手首を返し、奏子は傷口を押し広げた。
低く、くぐもった悲鳴が部屋に響いた。康一郎の傷口から溢れた血は、床に赤い血だまりを作る。
「七季、てめえ、やり、やがったぁ……な」
康一郎は息も絶え絶えに、首をもたげて俺を睨んだ。その目は虚ろで、まるで焦点が定まっていない。
俺は首肯した。これはすべて仕組んだことだ。せめてもの復讐に、俺自身があつらえた演出。
「愛する人に刺されるなんて、ロマンチックじゃないか」
その言葉に返答する間もなく、康一郎は、とうとう耐えかねたように膝から崩れ落ちた。床の赤い水たまりが、ビシャンと音を立てて波打った。そうして彼の体は床に沈む。傷口から不自然に生えた、黒い柄の部分が異様さをより強調させた。
それで終わりだ。なんとも呆気ない幕引き。興味が失せ、俺は顔を上げると、佇む少女が視界に入った。
奏子は、震える右手を自らの左手で強く握り締めながら、床に沈んだ兄を憎々しげに睨みつけている。
「……驚かないんですね」
そう言って、いきなり顔を上げた奏子と目が合った。
「それとも、私がこうするって、読んでいたんですか?」
俺はかぶりを振り、「驚いているさ」と嘘を吐いた。
実際は、康一郎に復讐をするなら、この方法が最も効果的だと考えていた。だから、昨日の夜に奏子に電話をかけた。大事な話しがあると言って。
俺は今朝早く、中上家の前で奏子と落ち合い、その場で俺の知るほとんどすべてを掻い摘んで説明したのだ。
奏子は当然、驚いていた。
沙良がそんな状況に陥っていたことなど露ほども知らず、ましてや自分の兄が、沙良を苦しめることに協力していたなど、俄かには信じられないという表情をしていた。だから、俺は言ったのだ。
『これから康一郎と話しをする。奏子は、少し経ってから家に戻ってきてくれ。くれぐれも気付かれないように、俺たちが話しをしている部屋の前で、聞き耳を立ててくれればいい』
そうすれば真実が知れるさ、と。
康一郎と話している最中に窓辺に移動したのは、奏子に家に戻ってくるように合図するためだった。そして、奏子が家に入ったのを確認した俺は、いよいよ本題を切り出したのである。その結果、俺たちの会話を聞いた奏子がどういう行動に出るのか、考えるまでもなくわかった。
沙良を心から慕っていた奏子は、彼女を傷付けた相手を決して許さないだろう。それがたとえ、実の兄だったとしても。
これこそが康一郎に対する最も効果的な復讐だった。
俺は再び奏子を見た。首を傾げ、そのまま問う。
「俺のことは、殺さなくてもいいのか?」
「どうしてですか? 藪坂先輩を殺しても、仕方ありませんよ」
「だけど、俺は沙良を守ってやれなかった。奏子との約束を果たせなかったんだ。そんな俺を、奏子は許せるのか?」
「甘えないで下さい。他人の面倒まで見きれませんよ。それに、死んで楽になろうなんて虫がよすぎるんじゃないですか?」
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「更級先輩は態度こそ柔和だけど、他人と一定の距離を保ち続けようとする。そんなクールなところも、私は好きでした。だけど、私が一番いい表情だなって思ったのは、藪坂先輩の話をしているときの、困ったような笑顔の先輩でした」
だから、俺のことは見逃すのだと奏子は言った。
「それに、藪坂先輩にちょっかい出したなんて知られたら、更級先輩に叱られちゃいますから」
そう言って奏子が最後に見せた笑顔は、ほんの少し沙良に似ているように思えた。どこか悲しげで、物憂げな瞳。だけど、とても魅力的で、女性的な表情だった。
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