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第三章 文化的侵略行為に対する超文化的防衛戦略
09 『その神様に、祈りを』
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絹川の話は続く。
「先ほど私は皆さんに、自分のお給料が一体誰のお財布から出ている物なのかを思い出してもらいました。給仕をする皆さんは、お客様がお店で食事をして、代金を支払って、その中からお金を頂いているのだと。
それなのにミースィさん。アナタはただお客様の希望を聞くだけ、それをそのまま伝えるだけ。できた料理を運んで、何も考えず清算作業をやるだけなんですか? そして最後にちょろっとお見送りをする、ただそれだけでお金を貰っているんですか?
それの何処にアナタがお金をもらえる要素がありますか?」
「そ、そんなこと言ったって……。給仕の仕事はそういうモンじゃないサね」
少女の強い語調に勢いをそがれた女は、尻すぼみに言葉を搾り出す。けれど絹川は、瞳を閉じ、ゆっくりとされど大きく頭を横に振った。
「いいえ、違います。
私は今も言いました。そして何回でも言います。
アナタ方給仕を主とする方たちのお給料は、お客様のお財布から出ています。お客様が食べたい物を食べて、そして支払って頂いた代金からです。
ならば皆さんがやること、真っ先にやらなければならないことは。注文を聞くことでも、それを厨房に通すことでも、料理を運ぶことでも無いのです。
…………皆さんは、お客様に売らなければならない。
お客様に商品を、この場合はお料理を買っていただく。そしてお金を払って頂いてはじめて、お給料が発生するんでしょう? だったらそれが一番のお仕事内容に決まってるじゃないですか。
売って、買ってもらって、お金を払って頂いて……。皆さんはその中からお給料を貰っている人たちなんですよ?
注文をとるのも、オーダーを通すのも、配膳もお見送りも、全部売るための手段であって目的ではありません。
どうか忘れないでください。
皆さんは、お料理を売る人たちなんです」
所々に抑揚をつけられた言葉が、参加者たちに聞き入ることを強いている。
もはや誰一人無駄口を叩く者はいなかった。件のハスっぱな女とて、今は椅子の腰をおろし壇上に立つ絹川を見つめている。
接客についての講習会。そう聞いて集まった一同はきっと、ちょっとしたテクニックや小手先の技などを教えてもらえると思っていたのだろう。かく言う俺がそうだった。だが実際始まった話は、予想を大きく外す内容だったのだ。
ふと、開始前のやり取りが思い出される。「最初は適当にガツンとかまして」か。確かに皆、殴られでもしたかのような顔をしている。
壇上から会場を見回している絹川とふと目があった気がした。こんな大勢の中で俺の顔などわかるわけが無い。だから口元がほころんでいるように見えたのだって、きっと俺の気のせいだ。
…………講習会は続く。
さて、私は皆さんに2つの事を言いました。皆さんはお客様からお給料を貰っているということ。商品を売るのが仕事であるということ。
この2つが、接客業という仕事における大前提です。全ての考えはこの上に成り立つ物だと思っていてください。
では次に、ちょっとした言い回しを教えましょう。これは、私の生まれ故郷の言葉なのですが、客商売をする者たちの間でたまに使われる標語でもあります。良ければ覚えて帰ってくださいね。
『お客様は、神様』です。……あぁ、ちゃんと説明しますから大丈夫。皆さんの信じている神様がどうこうって話じゃありません。あくまでもたとえ話です。
ちなみにコレ、地元でも色々と妙な解釈をしてしまっている方も居りまして。言葉通りに「俺は客だから神様なんだぞ~」って威張ってきたり、「お客様は神様なんだから敬わないと」って何も考えずに服従しちゃう人も居るんです。もちろんどっちも間違っています。
私は、お客様は神様だって喩えているこの言葉、とっても的を得ていると思うんですよ。
皆さん。例えばアナタが、神様に叶えてもらいたいお願いがあるとしますよね。そんな時どうします? 健康になりたいとか、仕事がうまくいきますようにとかって願い事があったら、どういう行動に出るでしょう。…………そう、その通り。お祈りしますよね。教会に行ったりして。
お客様という神様にも、同じことをするんです。
この神様が私たちに振りまいてくれるご利益は……。お金をくれること。皆さん飲食店で働く人間全てに、お給料って言うありがた~いお恵みをもたらしてくれる神様たちなんです。だから、そのご威光にあやかりたい私たちは、正しくお祈りをしなければなりません。
お祈りの仕方は人によって様々。お客様1人ひとりによって違います。
「グラスが空になっていますね。もう一杯お酒お注ぎいたしましょうか?」「今日はあまり召し上がっていらっしゃいませんけれどお腹空いてませんか。追加でお料理お持ちいたしましょうか?」「料理長の新作のお料理とってもおいしかったですよ。一度試してみては如何ですか?」……例えばこんなお祈りが、お客様には有効です。
正しくお祈り出来たとき、きっとお客様は更なる代金を皆さんにお支払いあそばされるでしょう。
神様から、よりお恵みを頂きたければ、きちんとお祈りをすることが、何よりも大切。
お客様は神様って言うこの言葉は、つまりそういう意味だと私は思ってます。
さて、もう皆さんは、お客様は神様ですという言葉の意味を理解しましたね。
それでは、皆さんがいつも行っているかもしれない教会について考えて見ましょう。神様……あぁ、お客様のことじゃない、皆さんが信仰している神様のことですよ? その神様に祈りをささげる神殿が、例えばゴミが落ちていたり、床やテーブルが汚れていたらどうでしょう?
そんなところでささげた祈りが、果たしてきちんと届くでしょうか。もちろん中には、それでも良いと言ってくださるあり難い神様もいらっしゃるかもしれません。けれど、出来る限り美しく整えてからささげる祈りと、その辺りの整理整頓を適当にしてささげる祈りでは、どちらが神様の心に響くか。……考えればわかりますよね?
お店の中もそれと一緒。お客様にお祈りをささげる場所なのです。出来る限り清潔にしておくのは当然です。
アナタが気にしない汚れでも、お客様にとって問題ありませんか? コレくらいならかまわないだろと見過ごした隅のホコリは、祈りをささげる場に相応しいですか? このぐらいで大丈夫と妥協した整理整頓で、お金を頂きたいという真摯な願いはお客様に届きますか?
…………だからこそ、お店の中は清潔にしなければならないんです。
――お客様には元気良く挨拶しなさい、なんて教わった人が居ると思います。その言葉を真に受けて、ただ単に「いらっしゃいませ」や「ありがとうございます」という言葉を叫んではいませんか?
私は、気持ちのこもっていないそんな絶叫は必要ないと思います。むしろ大声が耳障りです。
でも、次にお客様を目の前にしたときにこう思ってみてください。その人は、自分にお金をくれる人だ。美味しい物を食べに行けるのも、好きな事をして遊べるのも、欲しかった服が買えるのも。全部、お客様がお給料を自分にくれるからだって思うんです。
どうでしょう。お腹の底から、ありがとうございますって言いたくなりません? お客様がお店に来てくださった時、精一杯の気持ちでいらっしゃいませって言いたくなりませんか?
大声で元気良くなんて、ただやってるだけじゃあ意味は無いです。そんな形だけの挨拶をする前に、ありったけの気持ちを言葉にしてみてください。その言葉は叫ばなくても大丈夫。気持ちを伝えればよいんです。
きっと出来ますよ。だってその人は、お金をくれる神様なんですから。
――ごくたまに、「お客様の笑顔が一番です」なぁんて事を言っている飲食店さんがいらっしゃいます。それは、ある意味間違いである意味大正解です。
考えても見てください。お客様が笑顔になってくれる「だけ」で良いんですか? そんな店、慈善事業でもなければ1月保たずに潰れます。だってお金貰わなくても良いんですよ?
私たちは、出来るだけたくさんお金を貰いたいです。そのために商売しているんです。働いているんです。だったら、お客様に嫌な思いをさせるのではなく、出来るだけ良い気分で帰ってもらったほうが、もう一度来てくれる可能性は高くなるじゃないですか。もう一度ご飯を買いに来てくれる確立が上がるじゃないですか。
だからこそ、お客様には精一杯笑顔になっていただきたい。満足をしていただきたい。気持ちの良い時間を過ごして頂きたいんです。
順番を間違えてはいけません。笑顔になってもらいたいから、お金を貰ってご飯を出すんじゃありません。ご飯を出してお金を貰うのに一番良いから、笑顔になってもらいたいんです。
お客様を笑顔にするのは、はっきり言って完全に自分たちのためです。そのためにも、自分の出来る精一杯のおもてなしが出来ると良いですね。
最後に、皆さんにもう1つだけお伝えしたいことがあります。
お客様は神様ですが、私たちと同じヒトです。でも、その好みは本当に様々。
賑やかなのが好きな人も居れば、静かじゃなければ落ち着かない人も居るでしょう。気安く話しかけて欲しいお客様も居れば、放っておいて欲しいと願う方もいらっしゃいます。
その全ての希望を同時に叶えて、いらっしゃったお客様全員を完璧に満たすというのは、接客業における究極だと思ってよいでしょう。そんなのは、流石に無理ですよね?
でも、それに近づけることは出来ます。その為に皆さんが今日にでも出来ることがあります。
お客様を、見てください。
もちろん、ジロジロ眺めていろってことじゃありません。お客様を常に意識の中に入れておくということです。そのお客様が今何をしているのか。どんな表情なのか。何かの作業をしながらでも、常に見ておくことです。
そうすれば、いろんなことに気付くはずです。満足しているかな? 欲しい物はないかな? 店内は暑すぎたり寒すぎたりしてないかな? 居心地が悪いと思っていないかな?
……良く、気配りなんて言葉を使います。それを行うにはまず最初に、気が付かなければいけません。そして気付くためには、お客様を見ていることが一番の近道なんです。
さんざばらお金の話をし続けた私がこんな事を言うのはアレですけど……。見るという行為は、愛情です。
どうか、アナタのお店にいらしてくれたお客様に、愛情を持ってください。
見て、あげてください。
そうすればきっと、皆さんはより素晴らしい接客ができるようになるでしょう。
「――以上で、私からの講義は終了です。
皆さん、長い時間真剣に聞いてくださって、本当にありがとうございました」
壇上に立つ、紛れもないヒトに勇気を与える者が頭を下げ。
そして会場を拍手が包んだ。
「先ほど私は皆さんに、自分のお給料が一体誰のお財布から出ている物なのかを思い出してもらいました。給仕をする皆さんは、お客様がお店で食事をして、代金を支払って、その中からお金を頂いているのだと。
それなのにミースィさん。アナタはただお客様の希望を聞くだけ、それをそのまま伝えるだけ。できた料理を運んで、何も考えず清算作業をやるだけなんですか? そして最後にちょろっとお見送りをする、ただそれだけでお金を貰っているんですか?
それの何処にアナタがお金をもらえる要素がありますか?」
「そ、そんなこと言ったって……。給仕の仕事はそういうモンじゃないサね」
少女の強い語調に勢いをそがれた女は、尻すぼみに言葉を搾り出す。けれど絹川は、瞳を閉じ、ゆっくりとされど大きく頭を横に振った。
「いいえ、違います。
私は今も言いました。そして何回でも言います。
アナタ方給仕を主とする方たちのお給料は、お客様のお財布から出ています。お客様が食べたい物を食べて、そして支払って頂いた代金からです。
ならば皆さんがやること、真っ先にやらなければならないことは。注文を聞くことでも、それを厨房に通すことでも、料理を運ぶことでも無いのです。
…………皆さんは、お客様に売らなければならない。
お客様に商品を、この場合はお料理を買っていただく。そしてお金を払って頂いてはじめて、お給料が発生するんでしょう? だったらそれが一番のお仕事内容に決まってるじゃないですか。
売って、買ってもらって、お金を払って頂いて……。皆さんはその中からお給料を貰っている人たちなんですよ?
注文をとるのも、オーダーを通すのも、配膳もお見送りも、全部売るための手段であって目的ではありません。
どうか忘れないでください。
皆さんは、お料理を売る人たちなんです」
所々に抑揚をつけられた言葉が、参加者たちに聞き入ることを強いている。
もはや誰一人無駄口を叩く者はいなかった。件のハスっぱな女とて、今は椅子の腰をおろし壇上に立つ絹川を見つめている。
接客についての講習会。そう聞いて集まった一同はきっと、ちょっとしたテクニックや小手先の技などを教えてもらえると思っていたのだろう。かく言う俺がそうだった。だが実際始まった話は、予想を大きく外す内容だったのだ。
ふと、開始前のやり取りが思い出される。「最初は適当にガツンとかまして」か。確かに皆、殴られでもしたかのような顔をしている。
壇上から会場を見回している絹川とふと目があった気がした。こんな大勢の中で俺の顔などわかるわけが無い。だから口元がほころんでいるように見えたのだって、きっと俺の気のせいだ。
…………講習会は続く。
さて、私は皆さんに2つの事を言いました。皆さんはお客様からお給料を貰っているということ。商品を売るのが仕事であるということ。
この2つが、接客業という仕事における大前提です。全ての考えはこの上に成り立つ物だと思っていてください。
では次に、ちょっとした言い回しを教えましょう。これは、私の生まれ故郷の言葉なのですが、客商売をする者たちの間でたまに使われる標語でもあります。良ければ覚えて帰ってくださいね。
『お客様は、神様』です。……あぁ、ちゃんと説明しますから大丈夫。皆さんの信じている神様がどうこうって話じゃありません。あくまでもたとえ話です。
ちなみにコレ、地元でも色々と妙な解釈をしてしまっている方も居りまして。言葉通りに「俺は客だから神様なんだぞ~」って威張ってきたり、「お客様は神様なんだから敬わないと」って何も考えずに服従しちゃう人も居るんです。もちろんどっちも間違っています。
私は、お客様は神様だって喩えているこの言葉、とっても的を得ていると思うんですよ。
皆さん。例えばアナタが、神様に叶えてもらいたいお願いがあるとしますよね。そんな時どうします? 健康になりたいとか、仕事がうまくいきますようにとかって願い事があったら、どういう行動に出るでしょう。…………そう、その通り。お祈りしますよね。教会に行ったりして。
お客様という神様にも、同じことをするんです。
この神様が私たちに振りまいてくれるご利益は……。お金をくれること。皆さん飲食店で働く人間全てに、お給料って言うありがた~いお恵みをもたらしてくれる神様たちなんです。だから、そのご威光にあやかりたい私たちは、正しくお祈りをしなければなりません。
お祈りの仕方は人によって様々。お客様1人ひとりによって違います。
「グラスが空になっていますね。もう一杯お酒お注ぎいたしましょうか?」「今日はあまり召し上がっていらっしゃいませんけれどお腹空いてませんか。追加でお料理お持ちいたしましょうか?」「料理長の新作のお料理とってもおいしかったですよ。一度試してみては如何ですか?」……例えばこんなお祈りが、お客様には有効です。
正しくお祈り出来たとき、きっとお客様は更なる代金を皆さんにお支払いあそばされるでしょう。
神様から、よりお恵みを頂きたければ、きちんとお祈りをすることが、何よりも大切。
お客様は神様って言うこの言葉は、つまりそういう意味だと私は思ってます。
さて、もう皆さんは、お客様は神様ですという言葉の意味を理解しましたね。
それでは、皆さんがいつも行っているかもしれない教会について考えて見ましょう。神様……あぁ、お客様のことじゃない、皆さんが信仰している神様のことですよ? その神様に祈りをささげる神殿が、例えばゴミが落ちていたり、床やテーブルが汚れていたらどうでしょう?
そんなところでささげた祈りが、果たしてきちんと届くでしょうか。もちろん中には、それでも良いと言ってくださるあり難い神様もいらっしゃるかもしれません。けれど、出来る限り美しく整えてからささげる祈りと、その辺りの整理整頓を適当にしてささげる祈りでは、どちらが神様の心に響くか。……考えればわかりますよね?
お店の中もそれと一緒。お客様にお祈りをささげる場所なのです。出来る限り清潔にしておくのは当然です。
アナタが気にしない汚れでも、お客様にとって問題ありませんか? コレくらいならかまわないだろと見過ごした隅のホコリは、祈りをささげる場に相応しいですか? このぐらいで大丈夫と妥協した整理整頓で、お金を頂きたいという真摯な願いはお客様に届きますか?
…………だからこそ、お店の中は清潔にしなければならないんです。
――お客様には元気良く挨拶しなさい、なんて教わった人が居ると思います。その言葉を真に受けて、ただ単に「いらっしゃいませ」や「ありがとうございます」という言葉を叫んではいませんか?
私は、気持ちのこもっていないそんな絶叫は必要ないと思います。むしろ大声が耳障りです。
でも、次にお客様を目の前にしたときにこう思ってみてください。その人は、自分にお金をくれる人だ。美味しい物を食べに行けるのも、好きな事をして遊べるのも、欲しかった服が買えるのも。全部、お客様がお給料を自分にくれるからだって思うんです。
どうでしょう。お腹の底から、ありがとうございますって言いたくなりません? お客様がお店に来てくださった時、精一杯の気持ちでいらっしゃいませって言いたくなりませんか?
大声で元気良くなんて、ただやってるだけじゃあ意味は無いです。そんな形だけの挨拶をする前に、ありったけの気持ちを言葉にしてみてください。その言葉は叫ばなくても大丈夫。気持ちを伝えればよいんです。
きっと出来ますよ。だってその人は、お金をくれる神様なんですから。
――ごくたまに、「お客様の笑顔が一番です」なぁんて事を言っている飲食店さんがいらっしゃいます。それは、ある意味間違いである意味大正解です。
考えても見てください。お客様が笑顔になってくれる「だけ」で良いんですか? そんな店、慈善事業でもなければ1月保たずに潰れます。だってお金貰わなくても良いんですよ?
私たちは、出来るだけたくさんお金を貰いたいです。そのために商売しているんです。働いているんです。だったら、お客様に嫌な思いをさせるのではなく、出来るだけ良い気分で帰ってもらったほうが、もう一度来てくれる可能性は高くなるじゃないですか。もう一度ご飯を買いに来てくれる確立が上がるじゃないですか。
だからこそ、お客様には精一杯笑顔になっていただきたい。満足をしていただきたい。気持ちの良い時間を過ごして頂きたいんです。
順番を間違えてはいけません。笑顔になってもらいたいから、お金を貰ってご飯を出すんじゃありません。ご飯を出してお金を貰うのに一番良いから、笑顔になってもらいたいんです。
お客様を笑顔にするのは、はっきり言って完全に自分たちのためです。そのためにも、自分の出来る精一杯のおもてなしが出来ると良いですね。
最後に、皆さんにもう1つだけお伝えしたいことがあります。
お客様は神様ですが、私たちと同じヒトです。でも、その好みは本当に様々。
賑やかなのが好きな人も居れば、静かじゃなければ落ち着かない人も居るでしょう。気安く話しかけて欲しいお客様も居れば、放っておいて欲しいと願う方もいらっしゃいます。
その全ての希望を同時に叶えて、いらっしゃったお客様全員を完璧に満たすというのは、接客業における究極だと思ってよいでしょう。そんなのは、流石に無理ですよね?
でも、それに近づけることは出来ます。その為に皆さんが今日にでも出来ることがあります。
お客様を、見てください。
もちろん、ジロジロ眺めていろってことじゃありません。お客様を常に意識の中に入れておくということです。そのお客様が今何をしているのか。どんな表情なのか。何かの作業をしながらでも、常に見ておくことです。
そうすれば、いろんなことに気付くはずです。満足しているかな? 欲しい物はないかな? 店内は暑すぎたり寒すぎたりしてないかな? 居心地が悪いと思っていないかな?
……良く、気配りなんて言葉を使います。それを行うにはまず最初に、気が付かなければいけません。そして気付くためには、お客様を見ていることが一番の近道なんです。
さんざばらお金の話をし続けた私がこんな事を言うのはアレですけど……。見るという行為は、愛情です。
どうか、アナタのお店にいらしてくれたお客様に、愛情を持ってください。
見て、あげてください。
そうすればきっと、皆さんはより素晴らしい接客ができるようになるでしょう。
「――以上で、私からの講義は終了です。
皆さん、長い時間真剣に聞いてくださって、本当にありがとうございました」
壇上に立つ、紛れもないヒトに勇気を与える者が頭を下げ。
そして会場を拍手が包んだ。
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