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第二章 青少年の健全な育成における突出した戦力の有害性とその対処
04 『そのようなサービスは行っておりません』
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ジローメの洞窟とは、王都の北西に位置するジローメ山にできた空洞郡を指す。
ジローメ山などとたいそうに言っても、地面から見て200メートルもない、往復時間含めて手ごろなハイキングに最適といった程度の小山だ。もちろん魔物の危険さえなければ、ではあるが。
東京タワーの半分以下といえば大体わかるだろうか。
ここを訪れるのは山菜を取りにくる町民が主で、用事もないのに洞窟の中にまで足を運ぶことはない。だが、たま~に洞窟から出てきた肉食の動物に追い掛け回されたという報告があがってくるため、定期的に近衛騎士団が巡回に来ている。
警察機構のないこの国において治安の維持は基本的に軍の仕事なのだが、ここは騎士団の管轄になっている。なんでも、新人の手慣らしにも丁度良いのだそうだ。
一般に知られている入り口は先ほど勇者一行が陣取った場所なので、俺たちはちょろっと山沿いに移動したところにある枝道から入ることにする。
草木を掻き分けながらとはいえ、30分もかからぬ場所までの移動である。この辺りには危険のある野生動物なんかも生息していないので、まぁ気軽なお散歩だな。
「ぢょ……まっで…………ゲホッ」
だというのに、何でここまでバテてんだこの女?
「お前さ。体力無いにも程があるぞ。なんなの、病弱っ子アピール?」
「ぞんなんじゃな……うぇっ。ぎぼぢわるぃ」
「たったこんだけ歩いたくらいで吐くほど気もち悪くなるか、普通」
「ぅええ…………。だっで、ごんだに歩いだの久じぶりで」
「乳母日傘で生きてたのかよ。あぁ、良いからコレ飲んで一息つけ」
水入れを放り投げてやる。……あっ、顔面で受けやがった。いやいや、今のは俺悪くないだろ。「優しさが足りないですよぅ」鼻頭を撫でながら座り込んでやがる。
おかしい。いくら元の体力がないとは言っても、こいつも召喚された以上は身体能力が上がってるはずなんだが。倍になってこれとか、日常生活に支障きたすレベルじゃないのか?
「ホラ、私ってお淑やか系じゃないですか。だから肉体労働的なのとは相性悪いんですよぅ」
「生きてりゃ運動する機会もあったろうに、今までどうしてたんだ」
「私って、バテるの早いですけど、回復するのも早いんです。だから体育の授業とかは休み休みで誤魔化してましたねぇ」
なるほどね。最大ヒットポイントが低いけど、常時自動回復がかかってるようなもんか。手数型相手なら強くても、一撃大火力系には良いカモだな。
「まぁ、目的地はソコだ。息整えるくらいは待ってやるから、少し休憩しとけ」
「と言っても中に入ったらまた移動なんですよね? ヤだなぁ」
「贅沢言うな。獣道と違って歩きやすくはなるはずだ」
「そもそもですね、なぁんで私まで付いてこなきゃならなかったんでしょ? ハインツさんが1人で来れば良かったじゃないですか」
「お前が言ったんだろ。スキルを成長させたいって」
ちょろっと試した結果、コイツの鑑定とか言うスキルには、やはり熟練度のような物が設定されていることが判明した。使えば使うほどに判別できる情報量が増えていくらしい。
スキルを成長させていけば、いつかは他の勇者の情報も全て読み取れるようになるかもしれない。現状ヤツ等のスキルを知る術がない以上、その可能性が高い鑑定に頼らざるを得ないのだ。
女神由来の能力ってところが、すっっっっげぇ気に入らないけどな。
で、その鑑定スキルを成長させる方法だが、単純に使っていれば良いという訳ではないようだ。同じ物に何度使っても最初の1回分しか成長しないらしい。
となるといろんな物をコイツに見せる必要があるのだが、室内に居ては限界がある。
その為、不肖ながら今回の偵察に同行させたのである。
「いや、確かにいろんな物を見たいとは言いましたよ? でもそれはこんなサバイバリィな体験でやりたかったんじゃなくてですね。
……もっとこぅ、綺麗なお花とか、可愛い小動物とかを、安全な室内でのんびりと――」
「あっ、その辺の草も見とけ。それ上手く煎じたら神経系の毒薬に使える」
「だからっ! そういう物騒なモンを見たいんじゃないんですってばぁ」
アレコレ注文の多いやつめ。無視していたらちゃんと鑑定したようだ。「アオツヅラフジ……へぇ。結構可愛い花なのに毒なんだ」言いつつちょいちょい突っついてる。毒と聞いてビビったか? ちょっと触った程度でどうこうなるモンでもないんだが、…………おもろいから黙っとこう。
「さて、そろそろ落ち着いたろ? 出発するぞ」
「らじゃで~す。……はぁ。足痛いなぁ」
「文句の多いやつめ。ホレ。ちょい足見せろ」
「ななな、なに言ってんですか突然っ。見せるわけ無いでしょっ! 事案ですか!? おまわりさん、こいつですっ」
「誰がキサマなんぞに欲情するかっ! あぁ、もう良い。動くな」
騒ぐ絹川を無視し、手のひらを足に向け意識を集中する。急な運動で固まった筋肉を揉み解し、血流がスムーズに行われるようにイメージ。
「あっ、なんかあったかい」
「……っと、コレくらいで良いか。少しは楽になったろ」
「えっと、今のって魔法ですか? こんなこともできるんですねぇ」
「魔法に必要なのは事象への理解と明確なイメージだ。何をどうしたらどうなるか。コレを意識した上で魔力を流してやりゃ、大抵の事はできる」
「ほぁ~、すごいっすね。あっ、でも王女様は呪文を暗記するのが大変って言ってましたよ?」
「だからアイツはポンコツなんだよ。
呪文ってのはな、物理法則をまったく理解してないヤツが魔法を使う時に、無理やりイメージを固定させるってだけのモンだ。現にギリスタックの爺さんは呪文なんぞ使ってなかったろ?」
「そいえばそうですねぇ」
『火の呪文を唱えれば直径50センチの火の玉が出る』それだけの知識しかない人間が、火の呪文を唱える。そうすりゃその『火の呪文によって起こると思っているイメージ』が、無意識に魔力を動かして魔素に反応。可燃物質の収集やら温度の上昇やらを自動でやってくれて、結果として50センチの火の玉ができる。
けれど魔力の操り方を知ってれば、イメージだけで魔素に働きかけることができる。細かい動きは魔素任せだが、そっちのほうが融通は利く。
つまり呪文ってのは、本来の原因と結果を逆転させたような反応を起こすものだ。
もともとは魔力の扱い方を知るまでの補助輪みたいな扱いなんだが、魔法の下手なヤツほど呪文を絶対視する傾向にある。
ちなみに俺が同じコトを魔法でやる場合。
魔力で大気中の元素に含まれてる魔素に働きかけ、可燃性の気体を生成・収集。圧力を高めた上で分子運動を活発化させて発火温度まで上昇させる。慣れれば一瞬でできるし、規模も火力も自由自在だ。
当然誰にもやり方教えていないし、教えたところでできるとも思わん。
まぁPCでやりたいことがある時に、自分でソースコード書いてプログラム実行するのと、その辺で目的に沿ったアプリ落としてきてやってもらうのの違いみたいなもんだから、どっちだって良いんだけどな。
「魔力の使い方を覚えとけば、やりたいことに合った呪文を知らなくても魔法を使える。まぁ、時間があれば覚えといて損は無いぞ」
「ほいっす。んじゃ、そのうち教えてくださいな」
「俺の授業料は高いぞ」
「お、おともだち割引とかは?」
「そのようなサービスは行っておりません」
だいたい、いつから友達になった。
さて、地団駄踏むくらい回復したならもう良いだろう。
さっさと勇者たちに追いつかないとな。
ジローメ山などとたいそうに言っても、地面から見て200メートルもない、往復時間含めて手ごろなハイキングに最適といった程度の小山だ。もちろん魔物の危険さえなければ、ではあるが。
東京タワーの半分以下といえば大体わかるだろうか。
ここを訪れるのは山菜を取りにくる町民が主で、用事もないのに洞窟の中にまで足を運ぶことはない。だが、たま~に洞窟から出てきた肉食の動物に追い掛け回されたという報告があがってくるため、定期的に近衛騎士団が巡回に来ている。
警察機構のないこの国において治安の維持は基本的に軍の仕事なのだが、ここは騎士団の管轄になっている。なんでも、新人の手慣らしにも丁度良いのだそうだ。
一般に知られている入り口は先ほど勇者一行が陣取った場所なので、俺たちはちょろっと山沿いに移動したところにある枝道から入ることにする。
草木を掻き分けながらとはいえ、30分もかからぬ場所までの移動である。この辺りには危険のある野生動物なんかも生息していないので、まぁ気軽なお散歩だな。
「ぢょ……まっで…………ゲホッ」
だというのに、何でここまでバテてんだこの女?
「お前さ。体力無いにも程があるぞ。なんなの、病弱っ子アピール?」
「ぞんなんじゃな……うぇっ。ぎぼぢわるぃ」
「たったこんだけ歩いたくらいで吐くほど気もち悪くなるか、普通」
「ぅええ…………。だっで、ごんだに歩いだの久じぶりで」
「乳母日傘で生きてたのかよ。あぁ、良いからコレ飲んで一息つけ」
水入れを放り投げてやる。……あっ、顔面で受けやがった。いやいや、今のは俺悪くないだろ。「優しさが足りないですよぅ」鼻頭を撫でながら座り込んでやがる。
おかしい。いくら元の体力がないとは言っても、こいつも召喚された以上は身体能力が上がってるはずなんだが。倍になってこれとか、日常生活に支障きたすレベルじゃないのか?
「ホラ、私ってお淑やか系じゃないですか。だから肉体労働的なのとは相性悪いんですよぅ」
「生きてりゃ運動する機会もあったろうに、今までどうしてたんだ」
「私って、バテるの早いですけど、回復するのも早いんです。だから体育の授業とかは休み休みで誤魔化してましたねぇ」
なるほどね。最大ヒットポイントが低いけど、常時自動回復がかかってるようなもんか。手数型相手なら強くても、一撃大火力系には良いカモだな。
「まぁ、目的地はソコだ。息整えるくらいは待ってやるから、少し休憩しとけ」
「と言っても中に入ったらまた移動なんですよね? ヤだなぁ」
「贅沢言うな。獣道と違って歩きやすくはなるはずだ」
「そもそもですね、なぁんで私まで付いてこなきゃならなかったんでしょ? ハインツさんが1人で来れば良かったじゃないですか」
「お前が言ったんだろ。スキルを成長させたいって」
ちょろっと試した結果、コイツの鑑定とか言うスキルには、やはり熟練度のような物が設定されていることが判明した。使えば使うほどに判別できる情報量が増えていくらしい。
スキルを成長させていけば、いつかは他の勇者の情報も全て読み取れるようになるかもしれない。現状ヤツ等のスキルを知る術がない以上、その可能性が高い鑑定に頼らざるを得ないのだ。
女神由来の能力ってところが、すっっっっげぇ気に入らないけどな。
で、その鑑定スキルを成長させる方法だが、単純に使っていれば良いという訳ではないようだ。同じ物に何度使っても最初の1回分しか成長しないらしい。
となるといろんな物をコイツに見せる必要があるのだが、室内に居ては限界がある。
その為、不肖ながら今回の偵察に同行させたのである。
「いや、確かにいろんな物を見たいとは言いましたよ? でもそれはこんなサバイバリィな体験でやりたかったんじゃなくてですね。
……もっとこぅ、綺麗なお花とか、可愛い小動物とかを、安全な室内でのんびりと――」
「あっ、その辺の草も見とけ。それ上手く煎じたら神経系の毒薬に使える」
「だからっ! そういう物騒なモンを見たいんじゃないんですってばぁ」
アレコレ注文の多いやつめ。無視していたらちゃんと鑑定したようだ。「アオツヅラフジ……へぇ。結構可愛い花なのに毒なんだ」言いつつちょいちょい突っついてる。毒と聞いてビビったか? ちょっと触った程度でどうこうなるモンでもないんだが、…………おもろいから黙っとこう。
「さて、そろそろ落ち着いたろ? 出発するぞ」
「らじゃで~す。……はぁ。足痛いなぁ」
「文句の多いやつめ。ホレ。ちょい足見せろ」
「ななな、なに言ってんですか突然っ。見せるわけ無いでしょっ! 事案ですか!? おまわりさん、こいつですっ」
「誰がキサマなんぞに欲情するかっ! あぁ、もう良い。動くな」
騒ぐ絹川を無視し、手のひらを足に向け意識を集中する。急な運動で固まった筋肉を揉み解し、血流がスムーズに行われるようにイメージ。
「あっ、なんかあったかい」
「……っと、コレくらいで良いか。少しは楽になったろ」
「えっと、今のって魔法ですか? こんなこともできるんですねぇ」
「魔法に必要なのは事象への理解と明確なイメージだ。何をどうしたらどうなるか。コレを意識した上で魔力を流してやりゃ、大抵の事はできる」
「ほぁ~、すごいっすね。あっ、でも王女様は呪文を暗記するのが大変って言ってましたよ?」
「だからアイツはポンコツなんだよ。
呪文ってのはな、物理法則をまったく理解してないヤツが魔法を使う時に、無理やりイメージを固定させるってだけのモンだ。現にギリスタックの爺さんは呪文なんぞ使ってなかったろ?」
「そいえばそうですねぇ」
『火の呪文を唱えれば直径50センチの火の玉が出る』それだけの知識しかない人間が、火の呪文を唱える。そうすりゃその『火の呪文によって起こると思っているイメージ』が、無意識に魔力を動かして魔素に反応。可燃物質の収集やら温度の上昇やらを自動でやってくれて、結果として50センチの火の玉ができる。
けれど魔力の操り方を知ってれば、イメージだけで魔素に働きかけることができる。細かい動きは魔素任せだが、そっちのほうが融通は利く。
つまり呪文ってのは、本来の原因と結果を逆転させたような反応を起こすものだ。
もともとは魔力の扱い方を知るまでの補助輪みたいな扱いなんだが、魔法の下手なヤツほど呪文を絶対視する傾向にある。
ちなみに俺が同じコトを魔法でやる場合。
魔力で大気中の元素に含まれてる魔素に働きかけ、可燃性の気体を生成・収集。圧力を高めた上で分子運動を活発化させて発火温度まで上昇させる。慣れれば一瞬でできるし、規模も火力も自由自在だ。
当然誰にもやり方教えていないし、教えたところでできるとも思わん。
まぁPCでやりたいことがある時に、自分でソースコード書いてプログラム実行するのと、その辺で目的に沿ったアプリ落としてきてやってもらうのの違いみたいなもんだから、どっちだって良いんだけどな。
「魔力の使い方を覚えとけば、やりたいことに合った呪文を知らなくても魔法を使える。まぁ、時間があれば覚えといて損は無いぞ」
「ほいっす。んじゃ、そのうち教えてくださいな」
「俺の授業料は高いぞ」
「お、おともだち割引とかは?」
「そのようなサービスは行っておりません」
だいたい、いつから友達になった。
さて、地団駄踏むくらい回復したならもう良いだろう。
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