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第一章 自称、紳士的なハズだったオッサンが本性現すまでの一部始終
04 『あのガキが鼻っ柱へし折られてるとこを見たい』
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翌日、俺は休みを返上して執務室にこもっていた。不在の間に滞っていた書類の山を処理せねばならんのだ。
王都を出ていたのも仕事の内なのだから、その間の雑務くらい誰かがやってくれているだろうと思っていたのだが、どうにも甘かったようだ。俺でなけりゃ処理できん案件もあるのでしょうがないっちゃしょうがないんだが。
「リーゼン伯、そろそろご休憩なされては?」
昼飯も食わずに仕事をしていた俺を見かねたか、部下が茶を煎れてくれる。……あぁ、すきっ腹に茶が沁みる。こういう事してもらうと癒されるよなぁ。50過ぎのおっさん相手に言うセリフじゃないのだが。
「すまんな。確かに根を詰めすぎていたようだ」
「いえ。ご事情は理解しておりますので」
視察の報告書すら纏めきっていないところに今回の勇者騒ぎだからなぁ。正直時間がいくらあっても足らんよ。
休憩ついでに一服しようとデスク上の煙草入れに手を伸ばすと、窓の外から歓声が聞こえた。なんだ? 今日はイベントなどなかったはずだが。
「勇者たちが近衛騎士団の訓練に参加しているとのことです。恐らくそちらからでは」
思わず窓の外に視線をやった俺が、怪訝な表情を浮かべたのを感じたのだろう。茶を淹れながら報告される。
しっかし、訓練ねぇ。
召喚術によって呼び出されたあいつ等には戦う力がある。勇者召喚魔法とは、そういう術式なのだからあって当然だ。
このことは召喚に携わった王女も知ってるはずだから、勇者たちに事情を説明するときにでも教えたのだろう。まぁ、改めて教わらなかったとしても、自分の身体能力が上がってることくらいすぐに気が付いたろうが。
はっきり聞いたわけではないから正確にはわからんが、奴らはミドルティーンくらいに見えた。元の世界なら学生やってるような年頃だ。そんな若造が急に力を与えられたんだからな。そりゃあ調子に乗ってることだろう。
あの術式の副産物として強化される能力は、おおよそ元の身体能力が倍になる程度。元の世界なら一流格闘家クラスだろうし、一般騎士なら充分圧倒できるだろう。
だが隊長クラスは話が別だ。うちの騎士団は決して強くはないが、切った張ったでのし上がった人間ってのは体力だけでどうこうなるようなモンじゃない。元から武術でも修めてりゃあ話は別だが、身のこなしからしてただの学生だろうからな。
大方今頃は、騎士連中相手に無双したところで隊長格が出てきて、逆にへこまされている辺りだと見た。
俺も仕事がなけりゃ様子を見に行きたかったもんだ。和泉とかいうあのガキが鼻っ柱へし折られてるとこを見たい。
そんな俺の予想は、その日の夕方には覆されることとなる。
「圧倒しただと!?」
「はい。今しがた入った情報ですと、近衛団長以下、手も足も出なかったと」
「部隊長クラスの間違いではないのか?」
「情報元はこちらの手の者です。確かに近衛団長ミュッケ様が立ち会ったと。それでも勇者イズミ様の前には防戦一方。100数える間もなく打ち倒されたとの報告です」
……信じられん。
近衛団長ミュッケといえば、弱卒ぞろいの近衛騎士団の中で唯一、国軍上層部とだって渡り合える剛の者だぞ。個人的な実力ならこの国で5本の指に入る。
たとえ相手が超人的な身体能力の持ち主だったとしても、素人のにわか剣法など一蹴できる位の技量はあるはずだ。それが手も足も出なかった?
もともと何らかの武術を嗜んでいたのか? いや、それもあり得ない。たとえ一度会っただけとは言え、あのガキからは鍛錬を積んだ人間特有の臭いは一切感じなかった。それに、たとえトップアスリートだったとしても、平和な日本で生きていた者が、日常的に戦闘訓練を積んだ軍人に勝てる道理がない。
そもそも近衛団長ならば身体強化の魔法だって使えるはず。勇者の優位性など無いに等しい。ちょっとやそっと強化された程度で、圧倒できるような相手ではないんだぞ。
悠長に構えている場合ではなかった。一刻も早く勇者たちと話をする必要がある。
「勇者たちの今夜の予定はどうなっている?」
「王女と共に夕食の予定です。その後は特に決まっていないかと」
「よかろう。勇者たちの居室は?」
部下の指し示した場所は、王城の中でも割と外殻に近い一室。おあつらえ向きに1人1部屋が与えられているようだ。
部屋の入り口に歩哨くらいはいるだろうが、窓からの侵入であればまずバレない。魔法で防音してしまえば、中で騒いだとしても聞き耳を立てられることはないだろう。
多少の物音くらいでは、誰かに気づかれることはない。
俺は腹心の部下に今夜の予定を告げる。
「今日の執務はこれまで。私はこのまま自宅に戻り、今夜は誰とも会わずに休むことになる」
「かしこまりました。そのように取り計らいます」
コイツとも長い付き合いだ。万が一の時には、俺が自宅にいたという証人の1人2人用意してくれるだろう。
たとえ今夜、城で事件があったとしても、俺が疑われることはない。
…………覚悟だけはしておこう。
物理的にどうこうするのは、最後の手段だが。
王都を出ていたのも仕事の内なのだから、その間の雑務くらい誰かがやってくれているだろうと思っていたのだが、どうにも甘かったようだ。俺でなけりゃ処理できん案件もあるのでしょうがないっちゃしょうがないんだが。
「リーゼン伯、そろそろご休憩なされては?」
昼飯も食わずに仕事をしていた俺を見かねたか、部下が茶を煎れてくれる。……あぁ、すきっ腹に茶が沁みる。こういう事してもらうと癒されるよなぁ。50過ぎのおっさん相手に言うセリフじゃないのだが。
「すまんな。確かに根を詰めすぎていたようだ」
「いえ。ご事情は理解しておりますので」
視察の報告書すら纏めきっていないところに今回の勇者騒ぎだからなぁ。正直時間がいくらあっても足らんよ。
休憩ついでに一服しようとデスク上の煙草入れに手を伸ばすと、窓の外から歓声が聞こえた。なんだ? 今日はイベントなどなかったはずだが。
「勇者たちが近衛騎士団の訓練に参加しているとのことです。恐らくそちらからでは」
思わず窓の外に視線をやった俺が、怪訝な表情を浮かべたのを感じたのだろう。茶を淹れながら報告される。
しっかし、訓練ねぇ。
召喚術によって呼び出されたあいつ等には戦う力がある。勇者召喚魔法とは、そういう術式なのだからあって当然だ。
このことは召喚に携わった王女も知ってるはずだから、勇者たちに事情を説明するときにでも教えたのだろう。まぁ、改めて教わらなかったとしても、自分の身体能力が上がってることくらいすぐに気が付いたろうが。
はっきり聞いたわけではないから正確にはわからんが、奴らはミドルティーンくらいに見えた。元の世界なら学生やってるような年頃だ。そんな若造が急に力を与えられたんだからな。そりゃあ調子に乗ってることだろう。
あの術式の副産物として強化される能力は、おおよそ元の身体能力が倍になる程度。元の世界なら一流格闘家クラスだろうし、一般騎士なら充分圧倒できるだろう。
だが隊長クラスは話が別だ。うちの騎士団は決して強くはないが、切った張ったでのし上がった人間ってのは体力だけでどうこうなるようなモンじゃない。元から武術でも修めてりゃあ話は別だが、身のこなしからしてただの学生だろうからな。
大方今頃は、騎士連中相手に無双したところで隊長格が出てきて、逆にへこまされている辺りだと見た。
俺も仕事がなけりゃ様子を見に行きたかったもんだ。和泉とかいうあのガキが鼻っ柱へし折られてるとこを見たい。
そんな俺の予想は、その日の夕方には覆されることとなる。
「圧倒しただと!?」
「はい。今しがた入った情報ですと、近衛団長以下、手も足も出なかったと」
「部隊長クラスの間違いではないのか?」
「情報元はこちらの手の者です。確かに近衛団長ミュッケ様が立ち会ったと。それでも勇者イズミ様の前には防戦一方。100数える間もなく打ち倒されたとの報告です」
……信じられん。
近衛団長ミュッケといえば、弱卒ぞろいの近衛騎士団の中で唯一、国軍上層部とだって渡り合える剛の者だぞ。個人的な実力ならこの国で5本の指に入る。
たとえ相手が超人的な身体能力の持ち主だったとしても、素人のにわか剣法など一蹴できる位の技量はあるはずだ。それが手も足も出なかった?
もともと何らかの武術を嗜んでいたのか? いや、それもあり得ない。たとえ一度会っただけとは言え、あのガキからは鍛錬を積んだ人間特有の臭いは一切感じなかった。それに、たとえトップアスリートだったとしても、平和な日本で生きていた者が、日常的に戦闘訓練を積んだ軍人に勝てる道理がない。
そもそも近衛団長ならば身体強化の魔法だって使えるはず。勇者の優位性など無いに等しい。ちょっとやそっと強化された程度で、圧倒できるような相手ではないんだぞ。
悠長に構えている場合ではなかった。一刻も早く勇者たちと話をする必要がある。
「勇者たちの今夜の予定はどうなっている?」
「王女と共に夕食の予定です。その後は特に決まっていないかと」
「よかろう。勇者たちの居室は?」
部下の指し示した場所は、王城の中でも割と外殻に近い一室。おあつらえ向きに1人1部屋が与えられているようだ。
部屋の入り口に歩哨くらいはいるだろうが、窓からの侵入であればまずバレない。魔法で防音してしまえば、中で騒いだとしても聞き耳を立てられることはないだろう。
多少の物音くらいでは、誰かに気づかれることはない。
俺は腹心の部下に今夜の予定を告げる。
「今日の執務はこれまで。私はこのまま自宅に戻り、今夜は誰とも会わずに休むことになる」
「かしこまりました。そのように取り計らいます」
コイツとも長い付き合いだ。万が一の時には、俺が自宅にいたという証人の1人2人用意してくれるだろう。
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