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何も見えない。いや、見たくない。この音だけが耳を支配する。壇上に立つ僕に向けられてるであろう音。それは煩わしいモノだ。ずっと欲しかった音のたずだった。
いつからだろうか。こんなにも煩くなったのは。
_____________
______
_
幼い僕は人の目をよく見た。何をして欲しいのか?何をしたら喜ばれるのか?何をしたら、何をしたら。
ずっとその目だけを見ている。その目に従って生活した。その度に目の数は増えることも知っているのに。
「君は凄いね。よく周りを見ている」
「よく気が付いたね。君になら安心して任せられる」
「君なら出来るよね」
僕は応えた。その目に怯えながらも応える。何者でも無い僕は、誰かの目だけを見て応えた。
それは僕の人生の中で大きく力を増した唯一のモノだから。それしか僕には無いから出来得る限りの事をする。
ある日、僕は力を抜いた。ほんの少しだけ疲れたからだ。ちょっとサボって楽をした。たったそれだけだ。
「どうして出来なかったんだ」
「期待していたのにガッカリだ」
「まぁ、君なら次は失敗しないよね」
その目は僕を突き刺す様に見る。ただ凶器のように見つめる。言葉ではなく目で僕を刺殺した。目で杭を打つ様にただ言葉を添えるだけで。
「すみません。分かりました。大丈夫です」
僕は目を逸らして、応える。手で刃を握りしめて、奥歯を噛み締めて、目尻を潰して応えた。
最初に僕は嘘を覚えた。嘘は便利である。騙された人は幸せそうに接してくれる。
「あの人は良い人だ」っと触れ回る。
次に僕は自分を殺す事を覚えた。嘘をより本物に近付ける為である。相手は僕を殺した事にも気付かずに嬉しそうに目の前で接した。
「彼は優しい人だ」っと触れ回る。
そんな僕は壇上に立つ程の成功を得た。誰もが僕を見る。誰もが嬉しそうに僕を見る。司会は僕の紹介を意気揚々とした。
「さぁ、皆さん。彼に盛大な拍手を」
1人2人と両手を広げて、その手を合わせて音を鳴らす。たった数十秒も経たない内にその音は全員が鳴らした。その音は僕を蜂の巣にする弾丸でしか無い。
何も知らない彼らにとって、それは美しい音なのだろう。僕は賞賛の証であるモノを落とした。
床に落ちた瞬間、鈍音が響く。弾丸は止まる。立て掛けられたマイクを僕は手に持っていた。
「皆さんすみません。慣れない壇上で、手が震えて大切なトロフィーを落としてしまいました。この場を借りてお詫びしたい。そして、改めて…ありがとうございます」
言い終えた僕は、トロフィーを拾い上げて笑う。会場は再び、弾丸を装弾して連射する。
次の日、僕自身を使って鈍い音を響かせた。その瞬間は鮮明に覚えている。
誰の目も無い。涼しい風が僕を包む。優しく目を瞑った。身体は暖かいモノに包まれた後に冷たくなったあの日を僕は覚えている。
もう目を開けれないことが幸せに満ちている。
瞼の裏側すらも真っ暗になった。
いつからだろうか。こんなにも煩くなったのは。
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幼い僕は人の目をよく見た。何をして欲しいのか?何をしたら喜ばれるのか?何をしたら、何をしたら。
ずっとその目だけを見ている。その目に従って生活した。その度に目の数は増えることも知っているのに。
「君は凄いね。よく周りを見ている」
「よく気が付いたね。君になら安心して任せられる」
「君なら出来るよね」
僕は応えた。その目に怯えながらも応える。何者でも無い僕は、誰かの目だけを見て応えた。
それは僕の人生の中で大きく力を増した唯一のモノだから。それしか僕には無いから出来得る限りの事をする。
ある日、僕は力を抜いた。ほんの少しだけ疲れたからだ。ちょっとサボって楽をした。たったそれだけだ。
「どうして出来なかったんだ」
「期待していたのにガッカリだ」
「まぁ、君なら次は失敗しないよね」
その目は僕を突き刺す様に見る。ただ凶器のように見つめる。言葉ではなく目で僕を刺殺した。目で杭を打つ様にただ言葉を添えるだけで。
「すみません。分かりました。大丈夫です」
僕は目を逸らして、応える。手で刃を握りしめて、奥歯を噛み締めて、目尻を潰して応えた。
最初に僕は嘘を覚えた。嘘は便利である。騙された人は幸せそうに接してくれる。
「あの人は良い人だ」っと触れ回る。
次に僕は自分を殺す事を覚えた。嘘をより本物に近付ける為である。相手は僕を殺した事にも気付かずに嬉しそうに目の前で接した。
「彼は優しい人だ」っと触れ回る。
そんな僕は壇上に立つ程の成功を得た。誰もが僕を見る。誰もが嬉しそうに僕を見る。司会は僕の紹介を意気揚々とした。
「さぁ、皆さん。彼に盛大な拍手を」
1人2人と両手を広げて、その手を合わせて音を鳴らす。たった数十秒も経たない内にその音は全員が鳴らした。その音は僕を蜂の巣にする弾丸でしか無い。
何も知らない彼らにとって、それは美しい音なのだろう。僕は賞賛の証であるモノを落とした。
床に落ちた瞬間、鈍音が響く。弾丸は止まる。立て掛けられたマイクを僕は手に持っていた。
「皆さんすみません。慣れない壇上で、手が震えて大切なトロフィーを落としてしまいました。この場を借りてお詫びしたい。そして、改めて…ありがとうございます」
言い終えた僕は、トロフィーを拾い上げて笑う。会場は再び、弾丸を装弾して連射する。
次の日、僕自身を使って鈍い音を響かせた。その瞬間は鮮明に覚えている。
誰の目も無い。涼しい風が僕を包む。優しく目を瞑った。身体は暖かいモノに包まれた後に冷たくなったあの日を僕は覚えている。
もう目を開けれないことが幸せに満ちている。
瞼の裏側すらも真っ暗になった。
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