短き者達

雨彩 色時

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逆転

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 俺は息を吐くように嘘をく。笑顔を見せると相手は安心する。声のトーンで相手は誘導される。俺が引くと相手は引き止めて、嘘に喰らい付く。

「そうなんですよ! 今、ご購入すればこんなにも安くお買い上げ出来ますよ?」


 この商品は偽物だ。何の価値も無い。俺の言葉も偽物だ。しかし、俺の言葉に価値が付く。この商品を俺の声で本物に仕上げるからだ。相手は何も言わずに商品を見てるが、俺の声に反応している。
 そう、。そこに意味なんて無い。でも、それで良いんだ。

「…やはり、お客様が満足出来ない品は売れませんね。次はもっとお客様に見合った品を見繕って来ますね」
「いや、待ってくれ」


 止めた。こいつは買う。もっと言うと俺が止めさせた。言葉に魅了されて、価値が付いたのだ。ガラクタ同然の商品をこいつは、堂々と家のどこかに飾るのだろう。そして、見せびらかすんだ。バカみたいに。

「買おう」
「本当ですか…!? お客様に売れて良かったです! 次のお客様には少し難しい商品と思いましたので…」
「まぁ、良い商品は見合った人が買わないとな」


 騙されるヤツには隙がある。真実の理由を必死に探すんだ。そして、俺の真実を理由にする。ある意味で、お利口な人達だ。
 お金は即金で貰う。これは俺の中でのルールだ。期間を与えるとバレたら終わり。その瞬間だけ騙せれば良いのだから。騙されたことに気が付かない人もいるが。

「そうなんですよ! 今、ご購入すればこんなにも安くお買い上げ出来ますよ?」
「そう。私に似合う?」
「もちろんですとも! だから、この商品をご紹介してます!」
「嘘ね」


 用心深い人も勿論いる。でも、俺は逃げない。俺は真実しか言わないからだ。

「本当ですよ。この装飾品を付けたら、一段とお客様の魅力が引き出されることを保証します。服装に関しても合わせやすいので、女性の方にはピッタリな品ですね」
「嘘ね」
「…っと、おっしゃいますと?」
「じゃあ、この商品を私が身に付けたら周りはどう見るかしら?」


 変な人も勿論いる。正解の無い質問をしてくるのだ。嘘と真実なんて関係無い。この人ので、売り買いが決まる。でも、俺は逃げない。
 俺はその気分を本物にさせるからだ。

「もちろん、最初に目に付くのはお客様の美貌でしょう。しかし残念ながら、それを超える商品を私は持ち合わせておりません。この商品は美貌の視線を一度、逸らせる効果があります」

「続けて」

「美貌の次に商品を見る。そして次は、お客様の全体を見るでしょう。そこが狙いです。この商品そのモノがお客様の身体の一部となる。自然体なあなたを周りにお見せすることが出来ると思ってます。目に惹きつける程の輝きはこの商品にはありません。しかし、お客様が身に付けるからこそ、輝くのです」


 全ての言葉を叩き込む。余計な事は考えさせない。ここで決める。決めなければ、売れない。

「じゃあ、あなたはどう見るのかしら?」
「私…ですか?」
「そう。この商品を理解しているなら、どう見るの?」
「それはもちろん、魅了されてお声掛けしてますよ。お客様としてではなく、女性として」
「お口が上手ね。そして、嘘も上手」


 こいつはダメだ。見透かしている。この商品に対して価値を見出せて無い。そろそろ、別の客に行くしかないだろう。

「でも、買ってあげる」
「…え?」
「どう? 似合う?」


 まだ購入もしてないのに商品を我が物顔で身に付けた。俺を見て、微笑んで、商品を主張する。思考が少しだけ止まってしまった。俺に隙が出来たのだ。

「あなたの言葉が本当なら…。今の私を見て、どうするんだっけ?」
「丁度今、お仕事が終わったんですよ。これから、私と…。いや、俺とデートしてくれないか? 支払いは今日、君の時間で良いよ」
「あら、素敵な口説き文句ね」


 言葉では沢山、嘘をいてきた。でも、気持ちだけは嘘をついた事はない。俺の隙に彼女は入り込んでしまった。嘘を本物に変えられた。
 たまには本物ってヤツも良いかも知れない。
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