短き者達

雨彩 色時

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映画館

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 僕は映画が大好きだった。この退屈な現実を忘れさせてくれるからかも知れない。面白そうな映画を見つけると休日を使って、一人で映画館へ足を運ぶ。ポップコーンとコーラを買って館内へ入ると大画面にはいつも圧倒される。
 面白そうな作品が予告で流れて見入ってしまったせいでつまずき、ポップコーンを床にぶち撒けてしまった。店員を呼んで謝罪する。新しいポップコーンを用意してくれると言ったが、上映開始が迫っており僕は大丈夫ですと断りを入れた。

 いつも楽しみにしていたポップコーンが無いのは残念な事だが、自業自得だから仕方がない。誰も隣にいない席を選んだはずが、僕の隣に歳の近い女性が座っていた。思い返すと隣のレジでチケットを買っていた人だ。同じ映画を同時刻に買ってしまったからだろう。

「すいません。失礼します」
「あ、はい。すいません」


 彼女の前を通って席へ座る。彼女も隣に人が座る事にビックリしたのか、少し視線が合った後にお互い前へ視線をやった。上映が始まろうとすると軽く肩を叩かれる。隣の彼女からだ。

「良かったら、ポップコーン食べて下さい」
「え、いや、そう言う訳には…」
「いつも結局残しちゃいますし、楽しく観なきゃ損ですよ。あ、始まります。遠慮せずに食べて下さいね」


 彼女はそう言い終えると映画に釘付けになった。僕も映画を観るが、せっかくの厚意で一口も手を付けないのは失礼とか人の物を食べるのはやっぱり…なんて考えて映画に集中出来なかった。

《つまらない事ばかり考えて、もっと楽しめよ》


 主人公が大画面で僕らに目線を向けてそう言う。彼女も楽しく観なければ損だと言っていた。僕は台詞に影響されたせいか、ポップコーンを食べる。この後はお互い映画を黙って観てるのに楽しんでいる事が伝わってきた。


 映画を観終わると彼女から声をかけられる。

「面白かったですね」
「そうですね。あなたのおかげです。良かったらお礼に食事でも」
「じゃあ、お言葉に甘えます」


 彼女は映画が終わると服を見て回る予定だったらしい。一緒に買い物を楽しんで、食事しながら映画の感想を語り合い、それは充実した時間だった。


____________
________
_


 僕は彼女と出会った映画館で、妻と観に行こうと約束した作品を観ている。それはコメディ映画で僕も妻も楽しみにしていた。チケットは一枚余ってしまい、空席が出来る。ポップコーンとコーラを用意して、席に座った。ポップコーンを溢すことなく。その作品は凄く面白い。周りの席からは笑い声が聞こえる。
 僕も面白いと感じた。なのに視界は潤い、よく見えない。笑いたいのに場違いな声は殺すように手で口元を押さえる。コメディ映画で目元にハンカチなんて作品に失礼だ。


 この作品と妻の為に僕は
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