短き者達

雨彩 色時

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赤い男

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 俺はいつも底にいる。血生臭い底にいる。匂いは慣れた。むしろこの匂いが落ち着く。皆は俺のことをと呼ぶ。それは俺が6人殺した辺りからだ。赤い男に皆は恐怖する。
 皆が言うには、そのは真っ赤なシャツを着て片手には刃物を持っているらしい。それ以外の情報は無く、男性は勘違いされないように赤い服を着る者が極端に減る。何故かは簡単で、勘違いされない為だ。
 赤い服を着ていれば職務質問されたり、通報されたりと面倒事に巻き込まれる確率が上がる。それを分かって着る人は目立ちたがりか拘りが強い人だけだ。

「君ちょっと良いかな?」
「あー、赤い服だからですか?」
「そうだね。君も分かってるならそんな格好する覚悟があるんでしょ?」
「まぁ、これくらいで済むのなら俺は好みの服変えるつもりないですから」


 パトロールする警察官2人に呼び止められる俺は速やかに身分証明書である免許証を差し出す。彼らはを淡々と終わらせる。俺は必死に笑うのを耐えた。

「君の気持ちも分かるけど、一般の人も怖がるから赤い服は極力控えてね」
「分かりました。ご苦労様です」


 彼らが勘違いしてるであろう笑みを作って言葉を返す。お気に入りの服を注意されただけで、着ないなんて選択肢は俺にはない。平和ボケしてるこの世に堂々と俺は見せびらかすように歩き回った。赤い服を着てるだけで周りの視線は釘付けだ。

 赤い男の殺し方の共通点は刃物で首の血管を切る。ただそれだけで、対象は無差別だ。人気の無い場所で真正面から襲っている。返り血をかなり浴びてるはずなのに未だに逮捕出来ない。目撃者によると男性で赤い服しか印象が無く、恐怖で去ったと聞く。逃げることは正しい判断だ。

「終わりました? 用事があるので、そろそろ終わって欲しいんですけど」
「呼び止めて悪かったね。違う警察官もパトロールしてるから、また呼び止められるかも知れないけど、ごめんね?」


 彼らの警戒を低くさせる為に低姿勢で身分を証明する。ただこれだけで終わる。不審な行動をせずに堂々としていればこれだけだ。
 目の前の俺が真犯人な事に全く気付いてない。俺の殺す対象の共通点も公開されてないようだ。それはそうだろう。彼らには分かるまい。
 しかし、10人目を殺した翌日に俺は逮捕された。逮捕される理由は分かる。人を殺したからだ。だけど、一つだけ否認しなければならない。これは俺と殺された10人の為にだ。

「君は無差別に沢山の人間を殺した。君の快楽の為に」
「それは違います」
「何だと!? じゃあ、他に理由があるって言うのか!?」
「みんな死にたいと呟いていたんですよ。だから、その願望を叶えてあげた。ただそれだけです。遅かれ早かれですよ」


 俺はと口にした奴を殺す。ただそれだけだった。殺しは "罪" だが、これが "悪" とは思わない。救いであり、開放であると俺は思いたいのだ。でなければ、それこそ無差別殺人ではないか?

「死にたいと殺されるは全く別物だ」
「じゃあ、なぜ誰も抵抗しなかったと思いますか? 悲鳴も出さない。怖かったから? いいや違う。望んでいたんだ。明日が来る…生きる恐怖を終わらせたかった」


 俺が着ていた一枚の白いシャツは彼らの返り血で染まっている。この綺麗な色を否定はされたくない。だから、俺はそこだけは頑なに否認した。
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