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携帯電話
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僕にとって携帯電話は緊急時の対応用具か音楽プレーヤーとしか思えない。それ以外にも様々な事を出来るのは知っている。あくまでそれは知識にはあって利用はしていない。
僕が携帯画面を見る時間なんて、1時間あるか怪しい。クラスの生徒が授業中にいじって、没収されて落ち込んでいる生徒を見て僕はなぜか羨ましいと思った。そして、そう思った自分が凄く惨めに感じた。
ある日のことである。下校中に財布の落とし物を拾ったから、交番に届けて名前を書いている最中に息を切らしながら入っている女子がいた。制服を見ると僕と同じ学校だ。
「えっと…あの…すいません、さい、ふ! 届いてませんでしたか!?」
交番に来る前に色々と探した様子だ。髪は乱れて、随分と険しい顔をしている。最後の頼みと言った感じで、返答次第ではそのまま倒れそうだった。
「…っ!? それ!!! それ私の財布!」
彼女は僕が拾った財布を人差し指を向けて近付いた。どうやら持ち主はすぐに見つかった様だ。僕も書類を記入するのは面倒と思っていたので、助かる。彼女は中身を確認してホッとした。物騒な世の中だから僕は気にしないが、目の前で確認するのは気持ちのいい行動ではない。
「ライブのチケットある…良かったぁ。ほっっっっとにありがとう」
「それ…」
僕はつい声を出してしまった。彼女の持つチケットは僕も持っていたからだ。お金よりも音楽ライブのチケットを確認するってことはかなりのファンだろう。
「ん? 何?」
「いや、何でも…。じゃあ持ち主は見つかりましたし、僕はこれで」
警察官に軽くお辞儀をして、その場を離れようとすると彼女は腕を掴んできた。
「お礼! お礼させてよ!」
僕の返答なんか待たずにそのまま腕を引っ張って、彼女は嬉しそうに歩き出す。チケットが見つかった事が体と表情で理解出来る。
「何か食べたい物ある? お礼に奢ってあげる!」
「いや、別に」
「何よそれ!? 全く…じゃあ私が選ぶけど文句言わないでよね?」
彼女に連れられてお店へ入る。女性が多く、僕は自然と肩身が狭く感じた。彼女は俺に何も聞かずに店員に注文した。店員が持ってきたのはパンケーキだ。
「ここのパンケーキ美味しいの。ねぇ、君さ。このバンド知ってるでしょ?」
「え? いや、知ってるけど。何で分かったの?」
「カバンに付いてるそれ。缶バッチ」
僕は目立たないと思って付けた一つの缶バッチを彼女はいつの間にか見えた様だ。当てた事が嬉しいのか笑顔で僕を見つめる。
「チケットありがとね。拾ってくれたのが君で本当に良かった」
「いや、拾ったのは財布だけど…。まぁ、うん。どういたしまして。僕も行くから気持ちは分かるよ」
「えっ!? 本当に!? じゃあ、一緒に行こ?」
僕は「うん」と返事をしたら彼女はまた嬉しそうに笑う。そんな彼女を見ていたら僕も笑みが溢れた。
「連絡先教えて」
連絡先なんて両親のしか無かった僕にとって、彼女の一件は凄く新鮮味があった。彼女とは好きなバンドはもちろん、お互いの事を教えたり通話もした。
徐々に学校内で会ったり、一緒に帰ったりと楽しい日々を過ごす。僕の朝はいつも携帯画面で天気を見ることから始まっていたが、彼女に"おはよう"を送る事が朝の始まりになった。授業中は彼女から返信がないか気にするようになる。
もし、没収なんてされたら僕はいつかの生徒の様にひどく落ち込むだろう。
僕が携帯画面を見る時間なんて、1時間あるか怪しい。クラスの生徒が授業中にいじって、没収されて落ち込んでいる生徒を見て僕はなぜか羨ましいと思った。そして、そう思った自分が凄く惨めに感じた。
ある日のことである。下校中に財布の落とし物を拾ったから、交番に届けて名前を書いている最中に息を切らしながら入っている女子がいた。制服を見ると僕と同じ学校だ。
「えっと…あの…すいません、さい、ふ! 届いてませんでしたか!?」
交番に来る前に色々と探した様子だ。髪は乱れて、随分と険しい顔をしている。最後の頼みと言った感じで、返答次第ではそのまま倒れそうだった。
「…っ!? それ!!! それ私の財布!」
彼女は僕が拾った財布を人差し指を向けて近付いた。どうやら持ち主はすぐに見つかった様だ。僕も書類を記入するのは面倒と思っていたので、助かる。彼女は中身を確認してホッとした。物騒な世の中だから僕は気にしないが、目の前で確認するのは気持ちのいい行動ではない。
「ライブのチケットある…良かったぁ。ほっっっっとにありがとう」
「それ…」
僕はつい声を出してしまった。彼女の持つチケットは僕も持っていたからだ。お金よりも音楽ライブのチケットを確認するってことはかなりのファンだろう。
「ん? 何?」
「いや、何でも…。じゃあ持ち主は見つかりましたし、僕はこれで」
警察官に軽くお辞儀をして、その場を離れようとすると彼女は腕を掴んできた。
「お礼! お礼させてよ!」
僕の返答なんか待たずにそのまま腕を引っ張って、彼女は嬉しそうに歩き出す。チケットが見つかった事が体と表情で理解出来る。
「何か食べたい物ある? お礼に奢ってあげる!」
「いや、別に」
「何よそれ!? 全く…じゃあ私が選ぶけど文句言わないでよね?」
彼女に連れられてお店へ入る。女性が多く、僕は自然と肩身が狭く感じた。彼女は俺に何も聞かずに店員に注文した。店員が持ってきたのはパンケーキだ。
「ここのパンケーキ美味しいの。ねぇ、君さ。このバンド知ってるでしょ?」
「え? いや、知ってるけど。何で分かったの?」
「カバンに付いてるそれ。缶バッチ」
僕は目立たないと思って付けた一つの缶バッチを彼女はいつの間にか見えた様だ。当てた事が嬉しいのか笑顔で僕を見つめる。
「チケットありがとね。拾ってくれたのが君で本当に良かった」
「いや、拾ったのは財布だけど…。まぁ、うん。どういたしまして。僕も行くから気持ちは分かるよ」
「えっ!? 本当に!? じゃあ、一緒に行こ?」
僕は「うん」と返事をしたら彼女はまた嬉しそうに笑う。そんな彼女を見ていたら僕も笑みが溢れた。
「連絡先教えて」
連絡先なんて両親のしか無かった僕にとって、彼女の一件は凄く新鮮味があった。彼女とは好きなバンドはもちろん、お互いの事を教えたり通話もした。
徐々に学校内で会ったり、一緒に帰ったりと楽しい日々を過ごす。僕の朝はいつも携帯画面で天気を見ることから始まっていたが、彼女に"おはよう"を送る事が朝の始まりになった。授業中は彼女から返信がないか気にするようになる。
もし、没収なんてされたら僕はいつかの生徒の様にひどく落ち込むだろう。
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