短き者達

雨彩 色時

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赤信号は恋する時間

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 いつも変わらない通学路は、かれこれ二年も経つ。そろそろ変わるべきではないのだろうか?恋人とか幼馴染とか友人と登校をする青春を送りたいものだ。独りで退屈な朝を毎日送っていると思ってしまう。
 そして、いつもの場所で彼女を見る。

 ここの赤信号は待ち時間が長い。彼女を横目に僕はいつも信号を待つ。こんな下手な片想いも二年経とうとしてるいるのだから、情けないものだ。
 彼女も二年間毎日この赤信号を待っている常連だ。同じ学校で学年なのは制服を見て分かるが、学校で独りの僕は教室から極力出ないし、友人もいない。もっと言えば同じクラスメイトの顔や名前は覚えてない。登校する彼女しか僕は知らないのに一目惚れして片想い中である。


 彼女はいつも小説を読みながら登校している。校門前に近付くと生活指導の先生に危ないからやめなさいと何度か注意されているのを見たことあるが、読まずに登校している彼女は見たことがないし、僕にとって違和感でしかない。
 そんな彼女にとってこの赤信号は、落ち着いて読書が出来る最高の時間なのだろう。


 最近、彼女が読んでいる小説は僕も知っている。かなりページが進んでいるようだ。どんでん返しで、面白かった箇所がそろそろ来てもおかしくない。そんなことはお構い無しに信号は青になった。
 僕が歩を進めると彼女はいつも二、三歩遅れて進み出す。その辺りから、振り向かない限り彼女を見ることが僕には出来ない。

 前に一度、彼女から少し離れて青信号を渡った時のことだ。彼女は青信号に気付かず、ずっと読書をしていた。青ですよなんて彼女に知らせることが出来るのなら、僕はいつも独りじゃないだろう。心配になって近くの自販機で飲み物を買い、観察していると三回目でやっと彼女の横を通るサラリーマンで気付いたようで歩き出したのを見た。
 その光景を見て、僕の片想いがざわめいたのを感じてからは、いつも彼女の横で赤信号を待っている。


 次の日、あの小説はそろそろ読み終える様子だ。赤信号を待っているとパタンっと本が閉じる音。読み終えるなんてことは今までになかった。僕は彼女から視線をそらす。


「あー面白かった」
「それは良かった」

 彼女の独り言に自然と反応してしまった。彼女に視線をやると恥ずかしそうにしていた。


「えっと…読みます?」
「読んだことがあります」
「本当!? 貴方の感想を聞かせて!」

 二年の時を経て、初めて会話した。初めては始まりに繋がり、変化していくものである。
 信号が青になる。そして、彼女と足並びが揃った。いつもなら後ろにいる彼女は横いた。

 明日から赤信号の時、彼女と何を喋ろうか。
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