短き者達

雨彩 色時

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水は滴り。出会いは波打つ。

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 僕はカメラで写真をよく撮る。昔見たの空をカメラに収める為だ。しかし、これが厄介なもので本物の空を全く思い出せない。

 何色だったのか、朝昼夜なのか、雨か晴れすらも。まず本物の空そのモノを見たのか、自問自答した結果はカメラに収めればいいと言うことに至った。
 休日の時間や学校の放課後を利用して、空を見上げて色んな場所から撮る。他の人が僕の写真を見れば、全てが空ばかりで退屈かも知れない。


 ちなみに今日は凄く暑い。雲一つない晴天で、太陽は生き生きと暑さを笑顔のように振り撒く。自然と僕は涼しい場所に引き寄せられ、学校のプールに着く。
プールから泳ぐ音が聞こえて無意識に目が吸い寄せられるとそこにはスクール水着の女子生徒が水面から出てきた。
 目線が合うとプールから身体を出してゴーグルを外してこちらに近付いてくる。

「それ。見せて」


 僕の頭上に?が見えたのか、彼女は僕のカメラに指をさす。本能的にカメラを守ろうとすると彼女は奪い取ろうと引っ張ってきた。

「ちょっ!急になんだよっ!」
「けーすーの」


 お互いカメラの取り合いになる。彼女が何の為にカメラを取るか全く理解出来ない。

「濡れた手でカメラに触る…なって!」
「盗撮した癖に逃げるんじゃないわよ!」


 一つの単語でやっと彼女の行動が僕には理解出来た。しかし、それは遅い。理解した時には足を滑らせていた。


 激しく全身が水を覆うのが分かる。
 一瞬の出来事で、肺の酸素が一気に気泡に変わる。脳は酸素を求めて全身に命令をする。

「…ばっ!!おまえっ!!」


 顔の水を手で拭って視界を取り戻すと自然と声が出てきたが、彼女は周りにいなかった。そして、違和感に気付く。首が軽い。言葉より身体が先に動き、カメラを探る。すると頭部に障害物が当たり、確認する為に浮上した。

 毛先の水が滴り、視界が悪いが分かる。彼女だ。後、一歩の距離に彼女がいる。
 彼女は無言で水中に潜り込み、僕のお腹を力いっぱいに蹴って離れていく。蹴れた僕は反射的に水中で体を丸める。
 痛みに慣れて、怒りが原動力となり彼女を探すと僕のカメラを外でいじっていた。すぐさま僕もプールから上がる。

「おい、勝手にいじんなよっ!」
「なにこれ。空ばっか」
「これで分かったろ。謝れよ」
「嫌よ。紛らわしいアンタが悪いの」


 彼女とこれ以上話しても無駄と思い、何も言わずにカメラを取り返して操作に問題がないか確認する。

「ねぇ、何で空ばっかりなのよ」


 彼女の言葉を無視してレンズに傷がないか確認する。

「ねぇ、壊れてない?」


 彼女の言葉を無視して防水で良かったと心底思う。

「次、無視したら落とすわよ」
「……。関係ないだろ」
「気になるじゃない」
「好きなんだよ。空が」


 極力の会話を避ける為に言葉を濁す。本物の空なんて言っても理解されないし、されたいとも思わない。プールに突き落とされて終わっても癪なので、カメラに異常はないし、誤解も解けたので空を見上げて撮影を開始する。

 太陽は眩しく輝き、僕らを照らしている。空は応えるように大きく明るく空間を包む。その空間を切り取るようにシャッターを押す。

「ねぇ、私も撮ってよ」


レンズにブレた彼女が写り込む。その写真からは少し拗ねてる面影がある。

「僕は空しか興味ないから」
「あら、空ばかり撮ってたら技術は上がらないわよ」


 レンズから目を外して、彼女を見るとからかう微笑みを浮かべていた。

「やっと、ちゃんと目を見てくれたわね」
「技術なんて求めてない」
「求めてない人は私を見ないわよ。つまり、あなたはどこかで求めていたの。何かをね?」


 僕の全てを知っている口振りで説明をする。そして、自分自身もそうじゃないのかと錯覚する始末だ。理解して欲しいと思っているのかも知れないと。

「それにカメラが他のモノも撮って欲しそうにしてるもの」


 僕はカメラに視線を戻し、レンズを彼女に合わせる。写る彼女は濡れた長い髪に滴る水のせいなのか、とても美しい。シャッターを切ろうとすると目の前は真っ暗に変わる。

「勝手に撮ったらダメよ。ちゃんと許可を取らないとね」
「君から言ったんじゃないか」
「女心なんて変わるモノよ」


 彼女が言い終わると下校のチャイムが鳴った。彼女は僕を通り過ぎて、脱衣所へ向かう。

「待って!撮らせて欲しい」
「何を?」


 手で笑みを隠そうとする彼女。答えを知っているのに問いかける。

「君…を撮らせて欲しい」
「いいわよ。それより、まだ名前で呼んでくれないの?それ、わざと?」


 僕は彼女の顔を見ながら、回想に入る。思い出を一つ一つ照合して目の前の彼女を見つけていく。

「思い出した…かな?」


 僕の瞳孔が開いたのを見て、また笑みを浮かべる。その笑みを逃さず、僕はシャッターを切る。

「なら、もうこれは必要ないわね」


 そう言うと僕のカメラを奪い、当たり前の様に道路の方へ投げ込んだ。これは必然なのだろうか?
 フェンスを飛び越え、道路に飛び出した僕のカメラは車に轢かれて粉々の姿になる。

「次はもっと早く思い出してくれなきゃ、ダメよ。空に妬いちゃうところだったわ」


 もうカメラも必要ない。彼女が妬くこともない。ずっとお互い探していたのだ。そして、また出会えた。
 驚きと懐かし味を同時に感じて、僕は瞼を閉じた。


 瞼を閉じて初恋の人本物の空は心に収めた。

「空には飽きたところだよ」

 これからは君と僕のアルバムを作ろう。
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