短き者達

雨彩 色時

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あたたかい

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 吹雪の中、家で暖を取っていると外からノックが激しく鳴り響く。今、この家には女性一人しかいない。風の音と無視するのが賢いだろう。
 村から離れた家は助けを呼ぶのも遅れてしまう。


「お願いしますっ!! 一晩だけで良いのでっ!!」

 ノック音は徐々に外の人が弱っていく様を感じさせ、女性の罪悪感を植え付けた。女性は優しいと村人から評判である。それ故に人が助けを乞うと体は自然と動く。ゆっくりとドアを開けると数歩離れたところに人が倒れていた。
 諦めて別の家へと訪ねに行こうとしたのだろう。女性はドアを開けることに躊躇した自分を恥じた。


「…んっ、ここは」
「目が覚めた? ごめんなさい。私がもっと早く貴方を中に入れていれば」
「気にしないで下さい。女性一人では、仕方がありませんよ」

 謝罪をする彼女に対して、青年は笑顔で返す。そうだ。と青年は思い付いたように提案してきた。


「一晩の恩返しにとても素敵なモノを見せてあげましょう」
「あら、それは嬉しい。何かしら?」
「雪は白だけじゃないんですよ」
「白じゃない雪? そんな雪があるの? 早く見せて!」
「残念ながら、早朝でないと見せられないのです」
「朝起きる楽しみが一つ増えて嬉しいわ。待ってて、そろそろ温かいスープが出来るから持ってくるわね」

 素敵なモノに心を躍らせて、彼女は部屋を出る。朝が楽しみで寝付けなくなる子供みたいだ。


「本当に彼女は優しい人だ。素敵なモノを早く彼女に見せてあげたい」

 彼女の後ろ姿を見て嬉しさが伝染したのか、青年も心が温かくなりそうだった。この温もりは雪をも溶かしてくれるだろうか。

 二人はスープを飲みながら、眠くなるまで楽しく談笑した。

___________
_____
_


 吹雪は止み、視界一面に白い雪が積もっている。陽射しが、ほんのりと暖かい。


「ねぇ、どんなモノを見せてくれるの?」
「まだ目を開けちゃダメですよ」

 青年が言い終えると同時に彼女は突然、腹部に激痛を感じる。痛みで目を開けると優しい笑みをした青年が目の前にいる。談笑の時と同じ笑みだ。


「ほらっ! 下を見てください! 真っ赤な雪です。凄く素敵でしょ」

 青年は沢山の赤い雪を両手で持ち、見せびらかす。


「優しい人の血は本当にあたたかいなー」

 赤い雪を上へと撒き散らし、その広げた腕で彼女を抱き締めた。青年はいつも思う。
 なぜか優しい人は最後、冷たくなる。
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