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メカタニア戦記 君が為に捧げる花

暗雲

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 ルシファー討伐から数日して、アネモネ姫は『メカタニア王国』に帰還し、熱烈な歓迎を受ける。
 シャルル王はアネモネ姫、ガントレット公爵、サーラに特別勲章を授けた。
 その際、アネモネ姫はシャルル王に奇妙な質問を投げかけた。
 「国王陛下、これで本当に終わったのでしょうか?まだ何か疑念というか引っかかっている何かがあるようです」
 シャルル王は怪訝な表情を浮かべた。
 「アネモネ、今は民の笑顔に目を向けてやってくれ。もしかしたらその疑念は杞憂かもしれない」
 シャルル王の言葉にどこか納得がいかなかった。
 この嫌な感じはなんだ?
 結局、アネモネ姫は自分の中に感じる疑念が晴れることなく、ただルシファーの死を再確認して時が過ぎていった。
 数週間後、隣国『ウィンダム王国』の王子、パズール・フォン・ウィンダムが『メカタニア王国』を訪問した。
 シャルル王とアネモネ姫をはじめ、『メカタニア王国』に仕える民が心から王子をもてなした。
 そして夕暮れの城のデッキ、アネモネ姫は夕日を眺めていた。
 まだルシファーの末路が脳裏に思い浮かぶ。
 もうルシファーはいない。
 しかし、どこかにルシファーが生きているかもしれないという思いもある。
 「アネモネ姫」
 パズール王子が姿を表す。
 「どうかなさいましたか?式典の時も表情を暗くしていましたので?」
 アネモネ姫の疑念は表情からも読み取れた。
 「王子、ご心配をおかけしました」
 「とんでもない!私の思い違いかもしれませんし!」
 アネモネ姫は俯いた。
 「それが、少し引っかかりもあって・・・・・・」
 「その引っかかりとは?」
 「分かりませんが、嫌な予感がするのです」
 パズール王子はアネモネ姫の両手を手に取った。
 「アネモネ姫、私は民のために立ち直りたいのです。あなたとなら、きっと民を幸せにできる。誰かと、手と手を取り合う、優しい時代を作りたいのです。1日でも長く・・・・・・」
 「王子?」
 アネモネ姫は顔を赤くした。
 「民の為、あなたの為に、この命、捧げます」
 パズール王子の声はどこか優しく、そして言葉には強い意思を感じられた。
 「王子、私もです。こんな国と国がにらみ合っている時代だからこそ、あなたの力が・・・・・・」
 アネモネ姫は笑みを浮かべた。
 パズール王子の言葉、信じてみよう。
 シャルル王の言う通り、杞憂なのかもしれない。
 アネモネ姫は「私たちの為、民の為に!」の一言をパズール王子に贈る。
 「ふふふふふ!」
 パズール王子の笑い声はあの優しくも強さを兼ねた声ではなく、ルシファーの闇を感じさせる低い笑い声だった。
 「王子?」
 「ははははははは!」
 王子の様子が変だ。
 急に白い目を向けた。
 口からは謎の邪気が一斉に放出された。
 「王子!パズール王子!」
 邪気は人型の形になった。
 「王子の精神は、すでに死んでいる・・・・・・」
 この声、ルシファーか!
 アネモネ姫が感じていた嫌な予感、懸念の正体はこれだったのか!
 「お前は、ルシファー?!」
 「姫、覚えてくれてうれしいですな。このような醜態を晒すのは本来は嫌でしたが、私は敢えてこの姿を姫に晒しました。それは、あなたのことを尊敬しているためです。私はあなたに再会できて大変満足でしてね!」
 「ルシファー、生きていたなんて!」
 「死んでいました。しかし魂は生きていた。しかし姫、私はあなたの肉体に憧れたのです。美しく、強く、賢く、まるで私の理想です。尊敬しているあなたを殺すのは惜しい・・・・・・。せめて・・・・・・」
 「ルシファー!」
 ビームソードは?
 城の中だったからか、携帯していなかった。
 「さあ姫、私と心技体すべて一体になりましょう!」
 邪気はアネモネ姫の全身を包む。
 「いやあああああああああ!」
 アネモネ姫は悲鳴を上げながら、暗闇の中に包まれていった。
 感覚がなくなっていく。
 ダメージを受けたという感じもない。
 これが死ぬという感覚なのか。
 ルシファーに殺されたのか。
 目の前の光景はすべて暗闇、無だ。
 手足は宙に浮いている感覚で、暑くも寒くも感じない。
 どうやらルシファーは魂だけでも生き残り、パズール王子の肉体を乗っ取り、ついに自分の肉体までを乗っ取ったようだ。
 『メカタニア王国』はどうなったんだろうか?
 民衆は?
 父であるシャルル王は?
 どうなってしまったのか?
 この薄闇からでは、何も感じられない。
 だが、どうしてだろう。
 自分が守り抜いた、『メカタニア王国』が、壊れていく感覚がある。
 もっと早くに王子の異変に気が付いていれば、あるいは違う結果もあっただろうに、それどころか一瞬、王子に心を許してしまった。
 アネモネ姫は暗闇の中で、静かに眠る。
 シャルル王、ガントレット公爵、サーラ、ユナの顔を思い浮かべた。
 きっとみんなの顔を忘れてしまうだろう。
 さようなら、みんな・・・・・・。
 さようなら、『メカタニア』の民のみんな・・・・・・。
 アネモネ姫は考えることをやめた。
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