おじいさんの電車

たくp

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引退

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 1955年、ようやく日本も戦後から立ち直ることができた。
 焼け野原の如く荒れた東京の街は形を取り戻していき、住宅などの復興もようやくひと段落ついたところだった。
 池上線の電車は戦前の車両ばかりが集まっていた。
 その中にはあのおじいさんの電車も第一線で活躍していた。
 低い唸りのモーターを響かせながら、毎日御嶽山駅を出発する風景を見かける。
 僕はその後、紆余曲折あってメーカーの設計の仕事を任されるようになった。
 紫電改のパイロットだったこともあり、航空機の技術を知る元軍人として、メーカーから歓迎された。
 若い頃に工学系の勉強もしていたのも雇われるきっかけだった。
 戦後の日本では航空機製造がご法度となり、おまけに日本陸軍・日本海軍は解体され、多くの陸軍・海軍関係者がメーカー、鉄道、自動車開発へと移り、これからの日本の発展に貢献することになるが、それはもう少し後の話だった。
 勿論のことだが、蒲田まで池上線を使う。
 おじいさんの電車がたまに来る時がある。
 日本の土を踏んで、ようやく実家に帰れるという時に出会ったおじいさんの電車、車体はくたびれた感じがより目立つようになり、窓枠もボロボロ具合が目立つようになり、かなり老体に鞭を打っているような感じだ。
 たまたま歩いていたら、近所のおじいさんが声をかけてくれた。
 「あんた、やたらあの電車を見つめるね?」
 「ええ、あんな電車があったんだって思いまして・・・・・・」
 「そうか、あの車両ももうすぐ引退なんて話があるようだがね」
 「えっ?」
 ついにおじいさんの電車も引退か。
 思えば夏の暑い日も、冬の寒い日も、大雨の日もおじいさんの電車に揺られた日々だった。
 おじいさんの電車にはどこか思い入れがある。
 鉄道が好きな訳じゃない。
 いつも乗っているとどこか安心感を感じる。
 古びた電車でところどころ状態が悪そうだが、それでも他の電車と違う温もりがあった。
 いつしか第二の故郷になっていた。
 でももうすぐ引退か。
 そうなってくると、この池上線の線路から姿を消し、いつも出会っていた風景も過去となってしまうのか。
 無理もない。
 かなり古い電車なのだから。
 でもいなくなると考えると寂しさがある。
 実家のような安心感が一つ消える。
 通りかかったおじいさんと別れた僕は少し寂しい思いをした。
 僕はこのまま家路へと向かう。

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