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コラボ企画

コラボ企画⑦

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「おかえりなさい、郡司くん」

未央は亮介に笑顔を向けた。亮介はただいまと小さく言うとさっさと自分の部屋に行ってしまった。さっきとはずいぶん違うそっけない様子が気になったが、大家にあいさつして、部屋へと戻った。郡司くん、どうしたんだろう。ずいぶん雰囲気が違ったな。別人みたいだった。さみしそうで、なにか怖がっている。そんな目だった。なにかあったんだろうか。

気になって縁側からそっと部屋をのぞいても出てくる気配はない。
サクラを抱っこして縁側から月を見る。

「きょうもきれいな満月だね」

窓を網戸にして、ちゃぶ台で新作メニューの草案を書き始める。見た目はこうで、味はこうで、作り方はこうで……。色鉛筆を使って色付け、電卓を弾いてグラムの計算。始めると止まらなくなってしまうのが悪い癖だ。

フードは、シルクスイートを使ったマフィンか安納芋ペーストを練り込んだベイクドチーズケーキ。
ドリンクは、スイートポテトのスムージーと、むらさきいものホットラテ!うん、まずはこれでやってみよう。

案を一通り考えたところでうーんと伸びをする。ちゃぶ台の下にいたサクラも出てきてちゅーるを要求した。

サクラをなでながら「郡司くん、変だったよね。なんでもないといいけど」

亮介の部屋の音は何も聞こえない。逆にそれが気になったので、もう一度縁側から覗くと、部屋の電気は消えて暗くなっていたいた。

未央はガラガラと雨戸を閉める。明日、コーヒースタンドに寄ってみよう。ベッドに横になりながらスマホでニュースをチェックしていたとき──

「きゃああああーーーー!!」

なになに? なんの声? 亮介の部屋からどったんばったんと暴れる音がする、事件? 強盗? 火事?

「こないでー!! あっちいってよー!! いやなのー!!」

え? 声は郡司くんだけど……口調どうしました?「私の部屋にくる? ちょっとお茶でも飲んで落ち着こ?」

亮介はぱああっとうれしそうな顔をして未央を見た。うそでしょ半べそかいてる。昼間の優しくて堂々とした王子さまはどこいきました?

ちゃぶ台を囲んで座り、麦茶を出す。亮介はゴクゴク一気に飲み干すと、ちーんとうつむいてまた動かなくなってしまった。

「……ゴキブリ、苦手?」

重々しい雰囲気に、いてもたってもいられず、未央は自ら口を開いた。

「未央、すまん。俺恥ずかしいところ見せちゃって……」

「苦手なもんくらいあるよね」

「昔から虫が苦手なんだ……。兄に頭にゴキブリを乗せられたこともある。それがトラウマで……」

頭にゴキブリ、それはトラウマだ。郡司くんお兄さんがいるんだな。ぶっ飛んだ兄だというのはよくわかった。

「俺の声、聞いたか?」

「声って?」

「その……叫び声」

「あぁ、えっと……なにも聞いてないよ。ここの部屋けっこう壁厚いから」

「いいんだ、本当のこと言ってくれ。聞いたんだろ? 俺の黄色い声」

待って待って。あなた誰ですか? 本当に郡司くん? 王子さまはどこ?

「あの……郡司くん。酔ってるの?」

きっ、と亮介は未央をにらんでブンブン首を振っている。わかった、酔ってないんだね。
「お願いだ、秘密にしてほしい。俺が……俺が……ゴキブリを見て黄色い声を出したことをっ!!」

亮介は、ばっと頭を下げた。そこまでするか? いや、そこまでしたいんだな秘密に。

「顔上げて? 誰にも言わない。ていうか私何も聞いてないから。ね? 大丈夫だから」

「ほんとうか? 秘密にしてくれるのか?」

亮介は、潤んだ瞳で子犬のような顔を向けている。サクラの冷ややかに亮介を見つめる目がおかしくて仕方なくて、太ももをつねって耐えた。あんた人の言葉わかるの?

「うん。うん、もちろん」

「よかった、感謝するぜ」

「もう遅いし、お開きにしよっか」

ぶんぶんと亮介は首を横に振っている。

「帰らない」

「えっ!? なんで!?」

「また出るかもしれない。バ◯サンたくまでは、部屋に入らない」

「じゃ……じゃあ」

「未央、きょう一晩泊めて」

「えええええーーーーっ!!」

未央がうろたえている間に、亮介はその場にゴロンと横になった。ここで寝るの? 畳の上、そのままじゃ痛くない? ゆさゆさと揺すっても起きる気配はない。

仕方ないので、押し入れからタオルケットを出して亮介にかけた。
サラサラの髪の毛、長いまつ毛。透き通るような白い肌。ほんとすてき……。

少しだけ顔をツンツンしようと思って顔を近づけるとバッと亮介が手を引き寄せて、あっという間に抱きしめられてしまった。「ひゃあ、郡司くん?」

「言っただろ? 夜の俺、優しくないって」

そう耳元でささやかれて、ビクッとする。

「待って、郡司くん。付き合ってないひととは……ね。ほら」

亮介は抱きしめる腕に力を入れた。ぎゅうぎゅうと抱きしめられて、痛いくらい。さすがに付き合ってもいないのに、それはできない……。離れようと思っても、力が強くて逃げられない。

「じゃあ、付き合ってくれるか?」

「ほええ?」

あまりの驚きに頭が白くなる。

「添い寝、付き合え」

「へっ、そ……添い寝?」

亮介は体を離すと、手を引いて未央をベッドに寝かせ、布団に潜りこんできた。

「ぐっ、郡司くん……」

「未央、ぎゅっとしろ」

「……っ」

言葉にならなかったけど、未央は亮介のシャンプーの香りにクラクラだった。首に手をまわしてぎゅっと抱きつく。

──すーすー。

亮介の寝息が聞こえる。この状況で手を出されないのもなんだか悲しいが、彼の胸に顔をうずめる。温かい。

こうして抱きしめられているとうれしい。郡司くんだからかな。未央はお亡くなりになったさっきのブツに感謝して、眠りについた。翌朝、未央は朝食を用意していた。ごはんと味噌汁とほうれん草のおひたしに目玉焼き。いつもはおにぎりやお茶漬けで済ませることも多いけど、ちょっとだけはりきって。

寝ている亮介を見て顔がにやける。寝てる姿も美しいってどうなの。

「うー……」

「郡司くん、おはよう。朝ごはん食べれそう?」

亮介は起きあがってベッドに座り、顔を手で覆ってうんうんうなっている。

「大丈夫?」

「ごっ……ごめんなさいっ!!」

ベットから勢いよく降りて正座して、亮介は頭を下げてきた。

「どうしたのいきなり?」

「すみません、きのうのこと……」

「大丈夫、誰にも言わないから」

「ほんとにすみません。僕……、口調変じゃなかったです?」

「え? 口調?」

そういえばずいぶん俺さまだったような。

「ごめんなさい未央さん。僕、実は──」

亮介はポツリポツリと、自分の秘密を話し始めた。



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