59 / 63
自滅
2自滅
しおりを挟む
「花音!!」
どさっと抱き止められて、温かい胸の中のすぽっと収まる。
「大丈夫?」
見上げればそこには大好きな人の顔。
あ、いや、しゃ、社長の御曹司……ええええーっ!!!
「声、でっか」
最後の叫びは我慢できなくて、声に出てしまったようだ。
「あ、あ、あ、あの……」
「だから言っただろ。驚かせるかもって」
頭の整理は全くつかないし、仕事になんて戻れるはずもない。
会議室の片づけを終え、申し訳ないけれど早退させてほしいと部長に願い出る。ふらふらと退勤し、篤人のマンションに戻ってきたのは15時を過ぎていた。
とにかくシャワーを浴びよう。頭の整理はそれからだ。
ザッとシャワーを浴びながら、ほんの数時間前の会議のことを思い出す。
情報漏洩は、やっぱり二人でやっていたんだ。恋愛関係は偽装だったってことかな。利害一致した末のことなのかな。
篤人が片付けの途中で、別室に呼ばれていたから、帰ってきたら詳しいことがわかるはず。
燎子が言った、泥棒ネコ。あれはいったいどういう意味なんだろう。
私が燎子から、彼氏をとったことはない。いや、もしかしたら、しらないうちにとったことがあったのだろうか?
いやいや、そんなことない。
少し温度を低めにしたシャワーを浴びて無理矢理目を覚ます。一度メイクもすべてオフしてルームウェアに着替えた。
ソファに突っ伏して寝そべる。胸のドキドキがまだ燻っている。
ローテーブルに置いていたスマホが鳴動するので、手を伸ばして画面を見ると、篤人からのメッセージだった。
『大丈夫? こっち落ち着いたらすぐ帰るから』
事情を聞かれている篤人も、しばらくは帰ってこないだろう。証拠のボイスレコーダーや、写真を提示すれば自白するに違いない。
終わった。全部。これで復讐劇の幕は降りた。2人は間違いなく解雇になる。
スマホをローテーブルに置き、もう一度ソファに突っ伏した。
今日、ホテルで食事をする気になれるのだろうか。
そんな思いを抱えながら、降り始めた雨の音がだんだん強くなってきた。その音を聞きながら、うとうとと眠りに落ちた。
物音がして、パッと身体を起こした。窓からはまだ明るい日が差している。よかった、そんなに眠っていないみたい。
リビングのドアを開けて、篤人が部屋に入ってくる。パタパタと駆け寄って篤人に抱きついた。
「ただいま。……大丈夫?」
「まだドキドキしてる」
「ホテル、どうする?」
「……行く」
時間はまだ17時。篤人も少し早めに上がってきたという。ホテルのディナーの予約は19時らしい。
シャワーを浴びた篤人。着替えを済ませたのは18時過ぎ。
ソファに座ってテレビを見ていた私の隣に、篤人がすとんと座った。
「そろそろ行く?」
「ねぇ、篤人。ホテル行く前に聞きたいことがあるんだけど」
「うん」
「あの、篤人が御曹司っていうのは……」
「本当だよ。ついでに言うと母親は山田さん」
黙っててごめんと篤人は罰が悪そうにつぶやいた。
「ううん。びっくりしただけだから」
「だよね、ほんとごめん」
「……風見さんと、燎子はどうなったの?」
篤人は、燎子と伊吹が別室に連れて行かれたあと、内線で別室に来るよう呼ばれていたから、その後のことを知っているはず。
ホテルに行く前にそれをきいておきたかった。
「とりあえず自宅謹慎だけど、懲戒解雇だと思う」
「そっ……か。ねぇ、燎子と話した?」
「少しだけ」
「私を恨んでた理由って何か言ってた?」
「えっと……」
篤人は床に目を落とす。どくどくと血が脳内を巡る音がして、緊張で息が荒くなる。
「……うらやましかったみたいだよ。花音は、美濃さんに無いものを全部持ってるようにみえたんだって」
「全部?」
「きれいで、かわいくて頭もいいし、仕事もできる。自分にないもの全て持ってる花音がうらやましくて仕方なかった。そう言ってたよ」
なに、それ。ほんとにそれだけ?
「他には? 何か言ってた?」
「いや、それ以上はなにも……」
「そっ……か」
「もう、二度と会うこともないと思うし、もし何かしてきたとしても、俺が守るよ」
「うん……、ありがと」
ぎゅっと静かに抱き寄せられて、篤人の胸におさまる。
「花音、もう行こう? これ以上こうしてたら抱きたくなる」
くすくすと笑い合ってマンションを出て、タクシーでホテルに向かった。篤人はレストランで予定していたディナーを、ルームサービスにかえてくれていた。
ずいぶん疲弊していたので、のんびりと部屋で食事が取れるのはありがたかった。
「部屋は何階なの?」
「42階」
「ひぇっ!!」
名古屋駅直結のラグジュアリーホテル。
42階は最上階だ。
そこに泊まるの!? いったい、いくらするの? そんな気持ちであわあわとエレベーターに乗り込み、いつの間にか部屋のドアの前に立っていた。
ルームキーをかざして、部屋の中へ入ると、目の前に大きなリビング。大きなダイニングテーブルはパーティーができそうなほどだ。
きれいな花が飾ってあって、いい香りがしている。
大きな窓の外は、名古屋のきれいな夜景が広がっていた。
人生で一度は泊まってみたいと思っていたこの部屋。あまりの美しさに、ガラスに手をついて息をつく。
「どう?」
「す、すごいね……この部屋一泊いくら……んっ」
後ろから抱きしめられる。顎をぐいっと掴まれて、熱いキスが降ってきた。
「……お祝い、始めようか」
「うん!!」
もうすぐルームサービスが来るから、と篤人が言う。ワインのメニュー表を一緒に見ながら、どれにしようかとあれこれ話し始める。ややあって部屋に料理が運ばれてきた。
どさっと抱き止められて、温かい胸の中のすぽっと収まる。
「大丈夫?」
見上げればそこには大好きな人の顔。
あ、いや、しゃ、社長の御曹司……ええええーっ!!!
「声、でっか」
最後の叫びは我慢できなくて、声に出てしまったようだ。
「あ、あ、あ、あの……」
「だから言っただろ。驚かせるかもって」
頭の整理は全くつかないし、仕事になんて戻れるはずもない。
会議室の片づけを終え、申し訳ないけれど早退させてほしいと部長に願い出る。ふらふらと退勤し、篤人のマンションに戻ってきたのは15時を過ぎていた。
とにかくシャワーを浴びよう。頭の整理はそれからだ。
ザッとシャワーを浴びながら、ほんの数時間前の会議のことを思い出す。
情報漏洩は、やっぱり二人でやっていたんだ。恋愛関係は偽装だったってことかな。利害一致した末のことなのかな。
篤人が片付けの途中で、別室に呼ばれていたから、帰ってきたら詳しいことがわかるはず。
燎子が言った、泥棒ネコ。あれはいったいどういう意味なんだろう。
私が燎子から、彼氏をとったことはない。いや、もしかしたら、しらないうちにとったことがあったのだろうか?
いやいや、そんなことない。
少し温度を低めにしたシャワーを浴びて無理矢理目を覚ます。一度メイクもすべてオフしてルームウェアに着替えた。
ソファに突っ伏して寝そべる。胸のドキドキがまだ燻っている。
ローテーブルに置いていたスマホが鳴動するので、手を伸ばして画面を見ると、篤人からのメッセージだった。
『大丈夫? こっち落ち着いたらすぐ帰るから』
事情を聞かれている篤人も、しばらくは帰ってこないだろう。証拠のボイスレコーダーや、写真を提示すれば自白するに違いない。
終わった。全部。これで復讐劇の幕は降りた。2人は間違いなく解雇になる。
スマホをローテーブルに置き、もう一度ソファに突っ伏した。
今日、ホテルで食事をする気になれるのだろうか。
そんな思いを抱えながら、降り始めた雨の音がだんだん強くなってきた。その音を聞きながら、うとうとと眠りに落ちた。
物音がして、パッと身体を起こした。窓からはまだ明るい日が差している。よかった、そんなに眠っていないみたい。
リビングのドアを開けて、篤人が部屋に入ってくる。パタパタと駆け寄って篤人に抱きついた。
「ただいま。……大丈夫?」
「まだドキドキしてる」
「ホテル、どうする?」
「……行く」
時間はまだ17時。篤人も少し早めに上がってきたという。ホテルのディナーの予約は19時らしい。
シャワーを浴びた篤人。着替えを済ませたのは18時過ぎ。
ソファに座ってテレビを見ていた私の隣に、篤人がすとんと座った。
「そろそろ行く?」
「ねぇ、篤人。ホテル行く前に聞きたいことがあるんだけど」
「うん」
「あの、篤人が御曹司っていうのは……」
「本当だよ。ついでに言うと母親は山田さん」
黙っててごめんと篤人は罰が悪そうにつぶやいた。
「ううん。びっくりしただけだから」
「だよね、ほんとごめん」
「……風見さんと、燎子はどうなったの?」
篤人は、燎子と伊吹が別室に連れて行かれたあと、内線で別室に来るよう呼ばれていたから、その後のことを知っているはず。
ホテルに行く前にそれをきいておきたかった。
「とりあえず自宅謹慎だけど、懲戒解雇だと思う」
「そっ……か。ねぇ、燎子と話した?」
「少しだけ」
「私を恨んでた理由って何か言ってた?」
「えっと……」
篤人は床に目を落とす。どくどくと血が脳内を巡る音がして、緊張で息が荒くなる。
「……うらやましかったみたいだよ。花音は、美濃さんに無いものを全部持ってるようにみえたんだって」
「全部?」
「きれいで、かわいくて頭もいいし、仕事もできる。自分にないもの全て持ってる花音がうらやましくて仕方なかった。そう言ってたよ」
なに、それ。ほんとにそれだけ?
「他には? 何か言ってた?」
「いや、それ以上はなにも……」
「そっ……か」
「もう、二度と会うこともないと思うし、もし何かしてきたとしても、俺が守るよ」
「うん……、ありがと」
ぎゅっと静かに抱き寄せられて、篤人の胸におさまる。
「花音、もう行こう? これ以上こうしてたら抱きたくなる」
くすくすと笑い合ってマンションを出て、タクシーでホテルに向かった。篤人はレストランで予定していたディナーを、ルームサービスにかえてくれていた。
ずいぶん疲弊していたので、のんびりと部屋で食事が取れるのはありがたかった。
「部屋は何階なの?」
「42階」
「ひぇっ!!」
名古屋駅直結のラグジュアリーホテル。
42階は最上階だ。
そこに泊まるの!? いったい、いくらするの? そんな気持ちであわあわとエレベーターに乗り込み、いつの間にか部屋のドアの前に立っていた。
ルームキーをかざして、部屋の中へ入ると、目の前に大きなリビング。大きなダイニングテーブルはパーティーができそうなほどだ。
きれいな花が飾ってあって、いい香りがしている。
大きな窓の外は、名古屋のきれいな夜景が広がっていた。
人生で一度は泊まってみたいと思っていたこの部屋。あまりの美しさに、ガラスに手をついて息をつく。
「どう?」
「す、すごいね……この部屋一泊いくら……んっ」
後ろから抱きしめられる。顎をぐいっと掴まれて、熱いキスが降ってきた。
「……お祝い、始めようか」
「うん!!」
もうすぐルームサービスが来るから、と篤人が言う。ワインのメニュー表を一緒に見ながら、どれにしようかとあれこれ話し始める。ややあって部屋に料理が運ばれてきた。
11
お気に入りに追加
63
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
【R18】豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網〜策士な後輩から逃げられません!〜
湊未来
恋愛
「ねぇ、本当に陰キャの童貞だって信じてたの?経験豊富なお姉さん………」
30歳の誕生日当日、彼氏に呼び出された先は高級ホテルのレストラン。胸を高鳴らせ向かった先で見たものは、可愛らしいワンピースを着た女と腕を組み、こちらを見据える彼の姿だった。
一方的に別れを告げられ、ヤケ酒目的で向かったBAR。
「ねぇ。酔っちゃったの………
………ふふふ…貴方に酔っちゃったみたい」
一夜のアバンチュールの筈だった。
運命とは時に残酷で甘い………
羊の皮を被った年下オオカミ君×三十路崖っぷち女の恋愛攻防戦。
覗いて行きませんか?
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
・R18の話には※をつけます。
・女性が男性を襲うシーンが初回にあります。苦手な方はご注意を。
・裏テーマは『クズ男愛に目覚める』です。年上の女性に振り回されながら、愛を自覚し、更生するクズ男をゆるっく書けたらいいなぁ〜と。
10 sweet wedding
国樹田 樹
恋愛
『十年後もお互い独身だったら、結婚しよう』 そんな、どこかのドラマで見た様な約束をした私達。 けれど十年後の今日、私は彼の妻になった。 ……そんな二人の、式後のお話。
十年越しの溺愛は、指先に甘い星を降らす
和泉杏咲
恋愛
私は、もうすぐ結婚をする。
職場で知り合った上司とのスピード婚。
ワケアリなので結婚式はナシ。
けれど、指輪だけは買おうと2人で決めた。
物が手に入りさえすれば、どこでもよかったのに。
どうして私達は、あの店に入ってしまったのだろう。
その店の名前は「Bella stella(ベラ ステラ)」
春の空色の壁の小さなお店にいたのは、私がずっと忘れられない人だった。
「君が、そんな結婚をするなんて、俺がこのまま許せると思う?」
お願い。
今、そんなことを言わないで。
決心が鈍ってしまうから。
私の人生は、あの人に捧げると決めてしまったのだから。
⌒*。*゚*⌒*゚*。*⌒*。*゚*⌒* ゚*。*⌒*。*゚
東雲美空(28) 会社員 × 如月理玖(28) 有名ジュエリー作家
⌒*。*゚*⌒*゚*。*⌒*。*゚*⌒* ゚*。*⌒*。*゚
ワケあり上司とヒミツの共有
咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。
でも、社内で有名な津田部長。
ハンサム&クールな出で立ちが、
女子社員のハートを鷲掴みにしている。
接点なんて、何もない。
社内の廊下で、2、3度すれ違った位。
だから、
私が津田部長のヒミツを知ったのは、
偶然。
社内の誰も気が付いていないヒミツを
私は知ってしまった。
「どどど、どうしよう……!!」
私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。
ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~
taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。
お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥
えっちめシーンの話には♥マークを付けています。
ミックスド★バスの第5弾です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる