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自滅

2自滅

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 「花音!!」

 どさっと抱き止められて、温かい胸の中のすぽっと収まる。

「大丈夫?」

 見上げればそこには大好きな人の顔。

 あ、いや、しゃ、社長の御曹司……ええええーっ!!!

「声、でっか」

 最後の叫びは我慢できなくて、声に出てしまったようだ。

「あ、あ、あ、あの……」
「だから言っただろ。驚かせるかもって」

 頭の整理は全くつかないし、仕事になんて戻れるはずもない。

 会議室の片づけを終え、申し訳ないけれど早退させてほしいと部長に願い出る。ふらふらと退勤し、篤人のマンションに戻ってきたのは15時を過ぎていた。 

 とにかくシャワーを浴びよう。頭の整理はそれからだ。

 ザッとシャワーを浴びながら、ほんの数時間前の会議のことを思い出す。
 情報漏洩は、やっぱり二人でやっていたんだ。恋愛関係は偽装だったってことかな。利害一致した末のことなのかな。

 篤人が片付けの途中で、別室に呼ばれていたから、帰ってきたら詳しいことがわかるはず。

 燎子が言った、泥棒ネコ。あれはいったいどういう意味なんだろう。

 私が燎子から、彼氏をとったことはない。いや、もしかしたら、しらないうちにとったことがあったのだろうか? 

 いやいや、そんなことない。
 少し温度を低めにしたシャワーを浴びて無理矢理目を覚ます。一度メイクもすべてオフしてルームウェアに着替えた。

 ソファに突っ伏して寝そべる。胸のドキドキがまだ燻っている。
 
 ローテーブルに置いていたスマホが鳴動するので、手を伸ばして画面を見ると、篤人からのメッセージだった。

『大丈夫? こっち落ち着いたらすぐ帰るから』

 事情を聞かれている篤人も、しばらくは帰ってこないだろう。証拠のボイスレコーダーや、写真を提示すれば自白するに違いない。

 終わった。全部。これで復讐劇の幕は降りた。2人は間違いなく解雇になる。

 スマホをローテーブルに置き、もう一度ソファに突っ伏した。

 今日、ホテルで食事をする気になれるのだろうか。

 そんな思いを抱えながら、降り始めた雨の音がだんだん強くなってきた。その音を聞きながら、うとうとと眠りに落ちた。

  物音がして、パッと身体を起こした。窓からはまだ明るい日が差している。よかった、そんなに眠っていないみたい。

リビングのドアを開けて、篤人が部屋に入ってくる。パタパタと駆け寄って篤人に抱きついた。

「ただいま。……大丈夫?」
「まだドキドキしてる」
「ホテル、どうする?」

「……行く」

 時間はまだ17時。篤人も少し早めに上がってきたという。ホテルのディナーの予約は19時らしい。

 シャワーを浴びた篤人。着替えを済ませたのは18時過ぎ。

 ソファに座ってテレビを見ていた私の隣に、篤人がすとんと座った。

「そろそろ行く?」
「ねぇ、篤人。ホテル行く前に聞きたいことがあるんだけど」
「うん」

「あの、篤人が御曹司っていうのは……」

「本当だよ。ついでに言うと母親は山田さん」
 
 黙っててごめんと篤人は罰が悪そうにつぶやいた。

「ううん。びっくりしただけだから」
「だよね、ほんとごめん」

「……風見さんと、燎子はどうなったの?」

 篤人は、燎子と伊吹が別室に連れて行かれたあと、内線で別室に来るよう呼ばれていたから、その後のことを知っているはず。

 ホテルに行く前にそれをきいておきたかった。

「とりあえず自宅謹慎だけど、懲戒解雇だと思う」

「そっ……か。ねぇ、燎子と話した?」
「少しだけ」

「私を恨んでた理由って何か言ってた?」

「えっと……」

 篤人は床に目を落とす。どくどくと血が脳内を巡る音がして、緊張で息が荒くなる。

「……うらやましかったみたいだよ。花音は、美濃さんに無いものを全部持ってるようにみえたんだって」

「全部?」
「きれいで、かわいくて頭もいいし、仕事もできる。自分にないもの全て持ってる花音がうらやましくて仕方なかった。そう言ってたよ」

 なに、それ。ほんとにそれだけ? 

「他には? 何か言ってた?」
「いや、それ以上はなにも……」
「そっ……か」

「もう、二度と会うこともないと思うし、もし何かしてきたとしても、俺が守るよ」

「うん……、ありがと」

 ぎゅっと静かに抱き寄せられて、篤人の胸におさまる。

「花音、もう行こう? これ以上こうしてたら抱きたくなる」

 くすくすと笑い合ってマンションを出て、タクシーでホテルに向かった。篤人はレストランで予定していたディナーを、ルームサービスにかえてくれていた。

ずいぶん疲弊していたので、のんびりと部屋で食事が取れるのはありがたかった。

「部屋は何階なの?」
「42階」

「ひぇっ!!」

 名古屋駅直結のラグジュアリーホテル。

 42階は最上階だ。

 そこに泊まるの!? いったい、いくらするの? そんな気持ちであわあわとエレベーターに乗り込み、いつの間にか部屋のドアの前に立っていた。
 
 ルームキーをかざして、部屋の中へ入ると、目の前に大きなリビング。大きなダイニングテーブルはパーティーができそうなほどだ。

 きれいな花が飾ってあって、いい香りがしている。

 大きな窓の外は、名古屋のきれいな夜景が広がっていた。

 人生で一度は泊まってみたいと思っていたこの部屋。あまりの美しさに、ガラスに手をついて息をつく。

「どう?」
「す、すごいね……この部屋一泊いくら……んっ」
 
 後ろから抱きしめられる。顎をぐいっと掴まれて、熱いキスが降ってきた。

「……お祝い、始めようか」
「うん!!」
 
 もうすぐルームサービスが来るから、と篤人が言う。ワインのメニュー表を一緒に見ながら、どれにしようかとあれこれ話し始める。ややあって部屋に料理が運ばれてきた。
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