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淡い芽吹き
2淡い芽吹き
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精神状態はすこぶるいい。ずっとここにいられたらいいのにな。芽生えてしまった気持ちが、篤人の優しさを養分にどんどん大きくなっていく。
彼への気持ちを自覚している以上、同居するのはなんだかつらい。
でも逆に考えれば、いまは恋人契約中。思わず好きだと言ってしまっても契約だから……でごまかせそうな気もする。
ほんの少し、恋人気分が味わえたら十分だ。
でも、もっと積極的に彼を求めることだって、恋人なのだから問題ない。
復讐が終わるまで、どれだけ時間が残されているかわからないけれど、恋人としていられるのならその時間を大切にしたい。
もそもそとベッドから這い出て、ザッとシャワーを浴びる。リビングに戻ると、トーストの焼けるいい匂いが鼻をくすぐった。
「食べれそう?」
「うん……」
優しく篤人が声をかけてくれて、頬が緩む。
ダイニングテーブルの前に座って、ふたりでいただきますをした。穏やかな朝食の時間がすごく嬉しい。
「花音、例のモニターさんが来る会議のことだけど」
「来月の?」
そうそう、と篤人はコーヒーをひとくち口にしてから、また話し始める。
「花音は美濃さんに資料を渡したんだよね?」
「うん、こっちにきてる時にちゃんと渡したよ」
「それ、誰かみてた人とかいる?」
うーん……と腕を組む。あの時は、昼休憩中で、フロアにあまり人はいなかった。あ、でも……。
「いぶ、……んんっ、風見さんと3人でやりとりしていた時に渡したから、知ってるはず」
「ふーん……そっか」
「なんかあった?」
いや、と篤人は言葉を濁す。妹さんからなんらかの情報が入っているのかもしれない。
でも、それが進むということは少しずつこの関係の終わりへ向かうということになる。
恋人契約を思いっきり楽しみたい。デートとかしたいな。映画見たり、ドライブに行ったりしたい。旅行にだって行ってみたい。
「モニターの会議が、ヤマになりそう。そこでうまくいけばいいけど」
燎子がモニターさんに連絡していないことはかなりまずい。
でも、とりあえず篤人の妹さんから連絡をしてもらえることになった。
「燎子、びっくりするかな」
「だろうね」
モニターさんが来ないと思っていて、蓋を開ければみんな揃っているとなると、燎子はどんな反応をするのだろうか。
「燎子は退職する気になるかなぁ……」
「モニターさんの帰ったあと、社員だけで話し合う時間作るから、そのときにやってみる」
「やってみるって……?」
「モニターさんになぜ連絡しなかったか、みんなの前で問い詰めようと思う」
少し考える時間をくれと篤人は言う。問い詰められて、燎子はどんな反応をするのだろう。
しらばっくれて、知らないふりでもするのかな。
燎子が私を陥れようとするのは許せないけれど、この企画が終われば商品開発部と絡むことは無くなる。
そうなれば、手が出しにくくなるはず。なんていうのは甘いだろうか。
──甘いな、きっと。
燎子はあの手この手で、私の邪魔をしようとするに違いない。
この企画が終わっても何らかの事情を作って近づいてくる可能性は十分にある。考えただけで頭が痛くなる。
退職までいかなくても、痛い目くらいはみてもらおう。それぐらいは感じてもらわないと困る。私もちゃんと考えなくちゃ。
うんうんと唸っていると、少し低い声が私の名前を呼んだ。
「花音」
「ん?」
「明日、よかったらデート行こう?」
天気も良さそうだし、遠出もできると言われて、トクンと胸が鳴る。「うん……行きたいんだけど、ちょっと実家のほうで予定があって。
「日曜日でもいい?」
「何か用事?」
「母の誕生日なの。みんなで食事に行く約束してて」
家族の誕生日は、こうして集まってお祝いをする。今回はホテルに直接集合してランチの予定だ。
「仲良いんだね」
「あんまり自覚なかったけど、そう言われることが多いかな」
「わかった。じゃあ日曜日に行こ」
「うん」
遠出はやめて、近場でどこか行きたいところはあるかと聞かれたけれど、特に思いつかない。
「もしよかったら、俺長久手のミケア行きたいんだけど」
「あ! いいね。私も行きたい」
ヨーロッパのお洒落な雰囲気の家具店。名古屋のとなりの長久手市にあって、人気の店だ。
「じゃあ、公園にも寄る? 運動不足だし、サイクリングしようか」
「わー!! 楽しそうだね」
ミケアのすぐ前にある大きな公園は、大きな芝生広場に、サイクリングコース、観覧車などがあって、1日のんびり遊べる。
「ココロの森も、外から見えるよ」
「そうなんだ!!」
有名アニメーションスタジオの世界を感じられる施設が、いくつもつくられているその公園。
彼への気持ちを自覚している以上、同居するのはなんだかつらい。
でも逆に考えれば、いまは恋人契約中。思わず好きだと言ってしまっても契約だから……でごまかせそうな気もする。
ほんの少し、恋人気分が味わえたら十分だ。
でも、もっと積極的に彼を求めることだって、恋人なのだから問題ない。
復讐が終わるまで、どれだけ時間が残されているかわからないけれど、恋人としていられるのならその時間を大切にしたい。
もそもそとベッドから這い出て、ザッとシャワーを浴びる。リビングに戻ると、トーストの焼けるいい匂いが鼻をくすぐった。
「食べれそう?」
「うん……」
優しく篤人が声をかけてくれて、頬が緩む。
ダイニングテーブルの前に座って、ふたりでいただきますをした。穏やかな朝食の時間がすごく嬉しい。
「花音、例のモニターさんが来る会議のことだけど」
「来月の?」
そうそう、と篤人はコーヒーをひとくち口にしてから、また話し始める。
「花音は美濃さんに資料を渡したんだよね?」
「うん、こっちにきてる時にちゃんと渡したよ」
「それ、誰かみてた人とかいる?」
うーん……と腕を組む。あの時は、昼休憩中で、フロアにあまり人はいなかった。あ、でも……。
「いぶ、……んんっ、風見さんと3人でやりとりしていた時に渡したから、知ってるはず」
「ふーん……そっか」
「なんかあった?」
いや、と篤人は言葉を濁す。妹さんからなんらかの情報が入っているのかもしれない。
でも、それが進むということは少しずつこの関係の終わりへ向かうということになる。
恋人契約を思いっきり楽しみたい。デートとかしたいな。映画見たり、ドライブに行ったりしたい。旅行にだって行ってみたい。
「モニターの会議が、ヤマになりそう。そこでうまくいけばいいけど」
燎子がモニターさんに連絡していないことはかなりまずい。
でも、とりあえず篤人の妹さんから連絡をしてもらえることになった。
「燎子、びっくりするかな」
「だろうね」
モニターさんが来ないと思っていて、蓋を開ければみんな揃っているとなると、燎子はどんな反応をするのだろうか。
「燎子は退職する気になるかなぁ……」
「モニターさんの帰ったあと、社員だけで話し合う時間作るから、そのときにやってみる」
「やってみるって……?」
「モニターさんになぜ連絡しなかったか、みんなの前で問い詰めようと思う」
少し考える時間をくれと篤人は言う。問い詰められて、燎子はどんな反応をするのだろう。
しらばっくれて、知らないふりでもするのかな。
燎子が私を陥れようとするのは許せないけれど、この企画が終われば商品開発部と絡むことは無くなる。
そうなれば、手が出しにくくなるはず。なんていうのは甘いだろうか。
──甘いな、きっと。
燎子はあの手この手で、私の邪魔をしようとするに違いない。
この企画が終わっても何らかの事情を作って近づいてくる可能性は十分にある。考えただけで頭が痛くなる。
退職までいかなくても、痛い目くらいはみてもらおう。それぐらいは感じてもらわないと困る。私もちゃんと考えなくちゃ。
うんうんと唸っていると、少し低い声が私の名前を呼んだ。
「花音」
「ん?」
「明日、よかったらデート行こう?」
天気も良さそうだし、遠出もできると言われて、トクンと胸が鳴る。「うん……行きたいんだけど、ちょっと実家のほうで予定があって。
「日曜日でもいい?」
「何か用事?」
「母の誕生日なの。みんなで食事に行く約束してて」
家族の誕生日は、こうして集まってお祝いをする。今回はホテルに直接集合してランチの予定だ。
「仲良いんだね」
「あんまり自覚なかったけど、そう言われることが多いかな」
「わかった。じゃあ日曜日に行こ」
「うん」
遠出はやめて、近場でどこか行きたいところはあるかと聞かれたけれど、特に思いつかない。
「もしよかったら、俺長久手のミケア行きたいんだけど」
「あ! いいね。私も行きたい」
ヨーロッパのお洒落な雰囲気の家具店。名古屋のとなりの長久手市にあって、人気の店だ。
「じゃあ、公園にも寄る? 運動不足だし、サイクリングしようか」
「わー!! 楽しそうだね」
ミケアのすぐ前にある大きな公園は、大きな芝生広場に、サイクリングコース、観覧車などがあって、1日のんびり遊べる。
「ココロの森も、外から見えるよ」
「そうなんだ!!」
有名アニメーションスタジオの世界を感じられる施設が、いくつもつくられているその公園。
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