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復讐はじわじわと

9復讐はじわじわと

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 握りしめた拳に親指を入れて力を込めた。すっと開いてから言葉を口にする。

「はい、永井さんと付き合っています」

「そう……ですか」

「失恋して落ち込んでいるときに、そばで話を聞いてもらったんです」

「へぇ……」

 あまり興味がなさそうな燎子が、右手で左腕をさすりながらにこりと微笑む。

「風見さんのことは、もうなんとも……?」

 そう言われて目を床に落とし、すぐに顔を上げて私は口角を上げた。

「ええ、永井さんとっても優しくしてくれるので幸せです」

「……」

 下を向き、しばらく黙っていた燎子。小さく肩が震えているように見えたのは気のせいだろうか。

「よかったー!! ホッとしました」

「……うん、私は大丈夫だから!」

 もうこっちもヤケクソ。
 とにかく幸せオーラ全開!! 

 あなたと元カレとの関係なんてまったく興味ありませんという気持ちを全面に押し出す。

「よければ今度ダブルデートしましょうよ」

 どういう神経してるんだろう。あなたと元カレと篤人と私で? 
 呆れて返事をする気にもならない。

「じゃあ、私これで失礼しますね!!」

「……おつかれさまでした」

 燎子がドアを開ける前に、リフレッシュルームのドアが開く。

 すっと目を遣れば、篤人の姿が見えた。

「あ、噂をすれば! 話、聞きましたよ」

 きゃぴっと話しかけている燎子。適当にそれを篤人があしらう。 

 ひと言ふた言交わして、燎子が去って行くのを見送ると、篤人が深く息をつく。

「……大丈夫?」

 優しくそう言われると、ふっと力が抜けて、へなへなとその場に座りこんだ。

「ちょっ……!!」

 駆け寄ってきた彼に顔を覗き込まれ、あまりに美しい篤人の顔にドキッとした。

「ごめんっ、なんか言われた?」

「あー……うん。ちょっと」

 手を添えて、イスに座らせてもらう。私は燎子に、泣かれたことと、Wデートに誘われたことを話した。  

「意外と早く動いたね」

「……うん」

「ごめん、さすがに今日は何もしないだろうと思ってたけど甘かった」

 篤人が申し訳なさそうに言うので、私はふるふると首を振った。

「大丈夫、けっこうちゃんとできたよ」

「どんな話ししたんですか?」

「……永井さん優しくしてくれるので幸せですって話したんだ」

 いい感じでしょ? そう言うと眉根を寄せて困ったように篤人は笑う。

「その調子で」

「うん……」

「ダブルデートはしません」

「あ、はい」

 どういう神経してんだ? と篤人が呆れたように息をつく。

 本当だよねと、けらけらと笑った。

「会社じゃ話しにくいから、仕事終わったら家に来れる?」

「あ、うん。でもきょうちょっと遅くなりそうなんだ」

「いいよ、待ってる。俺も仕事まだあるし」

 ちゅっと頭に軽くキスを落とされて、カッとそこが熱を持つ。

 あわあわと慌てながらフロアに戻った。
 今日は残業している人もちらほらいる。その中に伊吹元カレもいて、なにやらパソコンの画面とにらめっこしていた。

 声をかけることもせず、自分の仕事の続きを始める。燎子はいったいなにを考えているのだろう。次は何を始めるのだろう。

 さっきのあの笑顔の下は、間違いなく怒りに満ちていた。

 そんなに私のことが憎いのかな。

 私がいったい何をしたというのだろう。
 
 考えても答えが出るはずもなく、とにかく仕事を終わらせることに集中する。

 ガツガツとキーボードを叩いていると、あっという間に20時を過ぎていた。

「どう?」

 篤人に声をかけられて顔を上げた。

「うん、もう終わりにするね」

「じゃあロビーで」

 篤人がフロアを出るのを見送り、キリがついたところで帰り支度を始める。

 フロアは人がまばらになって、静かだ。

 伊吹もまだ残っていたので、声をかける。

 例のキッチンの訂正箇所を、あれこれ考えあぐねているようだったが、また明日にしてもいいのでは? と提案した。

「明日でもいいんじゃない?」

「そうだな」

 ぐるぐる考え始めると出口が見えづらい。伊吹も帰り支度をはじめ、一緒にフロアを出た。

 キッチンの企画はいよいよ大詰め。これが終わったら、次は子育て世代に向けたシステムキッチンの開発に着手する予定だ。

 もう企画自体は走り出していて、また途中合流させてもらう。

 大手雑貨チェーン店とのコラボで、大容量収納の中に、その雑貨チェーンの入れ物がカチッとはまるのが売りらしい。
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