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復讐計画

2復讐計画

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 美濃燎子は高校の同級生。

私とは正反対のきれいでエキゾチックな魅力の持ち主で、黒髪のボブカット。

 個性的な印象があった。

 私が当時付き合っていたのは一つ上の先輩。

突然別れを告げられたと思った次の日、燎子と手を繋いで下校しているのを見た衝撃はいまも忘れられない。
 
 それでも周りの友達に励まされて、なんとか失恋を乗り越えた。

 もう年度末の頃だったから、先輩は卒業し、その後燎子とどうなったかは知らない。

 それから10年。

 もうすっかり忘れていた半年前、燎子が中途採用で入社してきたときはものすごくびっくりした。

 向こうもまさか私がいるとは思わなかったようだ。

 それでもお互い社会人。

 当たり障りない挨拶をし、配属された課も別だったため、特に接点もなく過ごしてきた。

 いったいどうやって私と伊吹が付き合っていることを知ったのか。

 何がどうなって、ふたりが付き合うことになったのか。 

 考えれば考えるほど悲しくて、目の前が霞んでくる。
 
 高校の時だって、この前だって、私は真剣だった。

 伊吹とは、結婚も視野にあった。

 付き合って1年半。30歳になるまでには結婚したい、そう伊吹に言われたこともあった。

 あれは全部嘘だったのかな。

 私といた1年半は伊吹にとっては軽いものだったんだろうか。

 楽しかった思い出が溢れ出して止まらなくなる。

 「ご、ごめんっ。泣いたって、しょうがないよね。いまさらどうなることでもないし」

「……大丈夫ですよ、はい」

 永井くんは、テーブルの下からティッシュを取り出すと私の前にそっと置いた。

 ありがたくそれで涙をぬぐい、鼻水を拭く。

「まだ、風見さんのこと好きなんですか」  

「……えっと、あの……」

 私は目頭を押さえながら、小さく頷く。

「だい、ぶ、気持ちに、整理、つけたつもりだっ、たんだけど」

「……」

「ごめんっ、ね、いきなり泣かれたら、困る、よね」

 好きか好きじゃないかと聞かれれば、まだ好きなのだと思う。

それでも付き合っていた時のような、慈しみや愛情は少しずつ薄れてきている。

 忘れようと思っても伊吹とは同じ部署。

連携は取らなければならないし、いやでも顔は合わせる。

 あははと乾いた笑いを繰り出しても、涙が止まらない。

しばらく沈黙が続いて、少し落ち着いてきた頃、永井くんが口を開いた。

「大丈夫ですか」

「うん。ごめんね、話進めよう?」

「……復讐のゴールは美濃さんを退職させるってことでいいんですよね?」

「……う、うん」

「一番いいのは放っておくことだと思うんですけど」

「あー、うん。やっぱりそう思う?」

 そんなやつに構う必要なんてない。それもわかる。  

 でも、このままじゃ許せない。

 そんなドス黒い気持ちが心のまわりにまとわりついているのも確かだ。 

「人を貶めるなんて、したことあるんですか?」

「いや……ない」

 あれこれ復讐に躍起になって、相手を貶めようとするのは自分の性に合わない。

 それは自覚があった。

「美濃さんが自分から仕事を辞めてもらえれば一番いいですよね」

「まあ……それができれば」

「じゃあ簡単ですよ」

「え? 簡単って復讐が?」

「はい」

 復讐が簡単とはどういうこと?

「な、なに、どうやって?」

「藤原さんが幸せでいる、以上です」

「は?」

 私が幸せでいるのが復讐? それはどういうこと?

「いやいやいや、復讐っていうのは証拠を見つけて、突きつけて、ギャフンと後悔させるっていうのが……」

「それやって、幸せですか?」

「し、幸せかどうかは別として、スッキリはするでしょ!?」

「復讐の本当のゴールはなんですか? スッキリしてそのあとどうなりたいですか?」

 どんどん質問をぶつけられて、思わず下を向いて黙り込む。

「……風見さんと復縁することですか?」

 永井くんの声が消え入るように小さくなる。

すっと顔を上げ、彼の顔を見るときゅるんと潤んだ瞳がこちらを見つめていた。

 もう一度、ローテーブルに目を落とす。

 復讐の本当のゴールが何かはわからない。ただそこに伊吹との復縁はないと思う。
 
 私のことを大切にしてくれたし、一緒にいた時間はかけがえのないものだった。

 いまも、伊吹への気持ちが少しだけれど残っている。

 だとしても、燎子を選んだのは事実だ。

 申し訳ないけど、自分のことをフって乗り換えるような男性と、信頼関係を作ることは今後できないだろう。

 私のことを大切にしてくれて、一途に思ってくれる人。

 そんな人をパートナーに選びたい。 私は顔を上げると、彼の瞳をすっと見つめた。

「復縁はしない」

「他の人、探すんですか?」

「そう……だね。うん、すぐは難しいかもしれないんだけど……。いつかは」

「へー」

 相変わらず、淡々とした彼の口調。私の気持ちがどうだとかあんまり興味がないのだろう。
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