幸せの青い本

大秦頼太

文字の大きさ
上 下
13 / 18

幸せの青い本 13

しおりを挟む
13

 仲の良かった友達に相談をした。でも、解決方法はなかった。
 貸して欲しいと言ったハルミに本を預ける。その数日後にハルミの家に強盗が入り一家を惨殺した挙句、放火するという事件が起こった。ハルミが学校に来ることは二度と無かった。
 次の日、自宅の郵便受けに入っている青い本を見つけた。
 新しいページが増えていた。
 マサユキが本を捨てると言って青い本を持って言った。
 そして、マサユキは死んだ。
 サトルも死んだ。
 ユキエが死んだ。
 アキラが死んだ。
 シュウジが死んだ。
 クニヒコが死んだ。
 ユリエが死んだ。
 マリが死んだ。
 誰かが死ぬたびに、ページは増えていった。そこには死んだクラスメイトの願いが書き込まれていた。
 青い本は、マコの家の庭に埋められた。

 ある夕方のことだった。
「マコ」
 部屋のドアを開けて疲れきった表情で母がこっちを見ていた。マコはため息をついて一瞥する。
「入ってくるときはノックしてよ」
 勉強机に向き直るマコに、母親が近づいてくる。その左手がマコの長い髪をつかんでフローリングの上に引き倒す。床から母親を見上げると、その振り上げた右腕には包丁が握られていた。その刃には、赤黒いものがこびりつき、洋服にも赤い雫がいくつも飛び散っていた。
「何がノックよ」
 振り下ろされる包丁を避ける。包丁はフローリングを傷つけながら母親の左手を逃れていた髪の毛を数本切り落とした。マコは持っていたシャーペンを母親に投げつけ、ひるんだ母親の手を逃れて部屋を飛び出した。
 そのまま裸足で廊下を駆け玄関から外に……。
 玄関で男が倒れていた。その寝ている後姿に見覚えがあった。
「お父さん?」
「あたしをバカにするからよ」
 刃の欠けた包丁を振り上げながら母親はマコに向かってゆっくりと歩いてくる。
「何してるの?」
 それを聞くのが精一杯だった。
「お前まであたしをバカにして!」
 母親はマコに向かって急に駆け出した。その足がフローリングですべり、母親は体勢を崩し振り上げていた右腕が体の下に入り込んだ。
 鈍いうめき声を上げて母親は震えだした。
「お母さん?」
「しねばいいんだぁ」
 母親は口から血の泡を吹き出しながら言葉を吐き出し、ゆっくりと動かなくなっていった。
 マコは悲鳴を上げた。裸足のまま庭に向かい素手で青い本を掘り起こした。家の中に持ち帰りペンを探した。ペンはすぐに見つかった。青い本の最後を開き、震える手で書き込んだ。
「両親を生き返して欲しい」
 と。書いた途端、体中の力が抜けるのを感じた。
 父親と母親は起き上がってくることは無かった。我に返ると、電話をかけて救急車を呼んだ。そして、廊下に出ると玄関の父親と廊下の母親の間くらいに座り込んだ。
その後、警察も呼ばれ、警察署や病院に行っても何かいろいろ聞かれたが、何をどう答えたのかも、いつ家に戻ったのかもまるで覚えていない。
 気がついたときには、父親と母親が側に立っていた。二人とも何も言わずに、それぞれの二つの瞳は覗き穴のように真っ暗で、何も映し出しはしなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました

ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。 愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。 ***************** 「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。 ※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。 ※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。  評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。 ※小説家になろう様でも公開中です。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

処理中です...