幸せの青い本

大秦頼太

文字の大きさ
上 下
9 / 18

幸せの青い本 9

しおりを挟む


 教室に戻ってきたミユキの腕にマコが飛びつく。
「本は?」
 その必死の形相を見てアツコが大笑いした。
「心配するなって、アレは偽物だったの」
「本物がどんなものかも知らないくせに!」
 マコの勢いにアツコはたじろいだ。サクラが額を押さえながら側に来る。
「何か書き込む前に本を処分しないと大変なことになるんだって」
 アツコが引きつった笑いを見せる。
「もう、手遅れ……」
 教室に担任教師が現れる。教室中を見回して、アツコ達へと近づいてくる。
「舞島は?」
「何かあったんですか?」
 マコの問いかけに担任教師は言葉を濁した。
「いや、家からの電話なんだが……。今日は人探しをしてばっかりだな。とにかく、舞島を見かけたら職員室に来るように言ってくれ。その、事故が。いや、いい」
 そう言うと、担任教師は廊下を走っていった。
「探そう」
 サクラの呼びかけにミユキとマコがうなづく。アツコはそこから離れていく。
「三階の踊り場にいたよ。バカバカしい」
「案内して」
 マコはサクラに声をかける。サクラが走り出すとマコがそれに続き戸惑いながらもミユキが駆け出した。
 アツコは席について参考書を開いた。

 チアキはまだ三階の踊り場にいた。床の上に青い本を広げて、そのページに文字を書き込んでいた。
「どうしたらいいの? どうしたらいいの?」
 サクラがチアキの側に駆け寄った。チアキの顔が上がりサクラを見つめた。その形相にサクラの足は一歩も前に進めなくなった。
 マコが横を通り抜ける。青い本に目を落とすと、開かれたページには沢山の文字が書かれている。
 二種類の筆跡。それが交互に書かれていた。
 チアキが青い本に覆いかぶさるようにマコの視線をふさぐ。
「これは私のもんだ! 邪魔をしないで! 今、使い方を教えてもらってるんだから」
 チアキの言葉にサクラが反応する。小さな声で。
「教えてもらってる? 誰に?」
 後ろからミユキが覗き込む。マコがチアキの側に近づこうとする。チアキがマコをにらみつける。
「寄るんじゃない! お前みたいに汚い奴が、こっちに来るんじゃない」
「ごめんなさい。きちんと言うべきだった。私がちゃんとするべきだった」
 それでもマコは近づくことをやめなかった。チアキが起き上がり野良犬のようにマコを威嚇する。
「今度はしっかりと書くから」
 マコの手が伸びる。その手をチアキが払いのける。マコの脇をすり抜けて階段を駆け下りようとすると、サクラとミユキに体当たりした。三人は折り重なるように階段の下へ転げ落ちていく。
 青い本は階段の中ほどで転がっていた。
 マコが三人と本を見下ろす。青い本を見つめながら、うめき声を上げて苦しんでいる三人をただ見下ろしていた。
「書くんだ」
 マコはゆっくりと青い本に歩み始める。黒い影がその間に割り込み、本を拾い上げる。アツコだった。
「バカが持っても、使いこなせないって事でしょ?」
 青い本を開き、ページを見るアツコ。マコは足を止めてアツコを見た。
「誰が持っても同じよ」
「あたしは違う」
 アツコはにやりと笑うと身を翻し、三人を飛び越えて階段を駆け下りて行った。
 マコは倒れている三人の元に向かう。
 ミユキが先に起き上がり、サクラに声をかける。小さくうめき声を上げるサクラにほっとして、チアキに目を移したとき叫び声を上げた。
「チアキ! チアキ!」
 ミユキが何度チアキを揺り動かしても、チアキは顔を真後ろに向けたまま動かなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

処理中です...