迷宮の主

大秦頼太

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冬のあほうつかい

冬のあほうつかい 35

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35

 サースは悪びれもなくシミュラの前に立って説明を始めた。
「百名は今は少ないかもしれません。ですが、最初から千、二千の兵を連れてきても食料などの問題も出てくるでしょうから試してみないことにはなんとも言えません。これでもここの状況を判断したのですが、配慮に欠けたことはお詫びいたします」
「わかってくれれば良いのです。ここの子供たちは親を殺されたものばかりだ。それが分からぬお前ではなかろう?」
「はい。申し訳ありませんでした。兵にはここへは近付けさせませんのでご安心を」
「そうしてくれると助かる。必要なものがあればこちらでも用意しよう」
「ありがとうございます。では、我々は人間の兵隊で東の入り口を防衛します。砦でも建設しておきます。川で飲水や食料調達なんかもさせますから、雪を解かすのは程々に願います」
 広間でサースの報告を受けたシミュラはサースがあっさり引き下がったことが気に入らなかった。城から離れた東側にキャンプを張ったサースの軍はそこから川を上りかける地点で砦の建設を始めるという。たしかに東の迷宮の入り口の辺りに砦が建てば防衛にも便利だろう。軍隊が城攻めを仕掛けて来た時、陽動で迷宮が狙われることも多々ある。それで兵隊が百人。装備も揃っていない風だった。
「なにかある。いや、サースはここで育ったのだ。変なことはしないはずだ。誰よりもこの城のことを考えている子だし。でも、わからない。何がしたいのだろう。どうして困らせるようなことをするのだろう」
 畑仕事も上の空になっていた。そんな中でも子供たちは元気だった。木の棒や金属の棒を拾って魔法使いごっこをしている。カペラもそこに混ざって遊んでいるのが嬉しかった。カペラは自分の杖を輝かせていたり、それを羨ましがる他の子の杖も輝かせたりするのを見て微笑ましく思う。他の子に言われて嫌々亜法を使うことがなくなってきた。光り輝く杖がずらりと揃う中でも、カペラの杖の輝きが鈍いのは彼女らしいと感じてしまう。
「カペラ、今度あなたの杖を見せて頂戴」
 とお願いしてみるもカペラは、
「魔法使いたるもの自分の杖をやすやすと他人に見せるわけにはいかんのじゃ」
 などと言って絶対に見せてくれない。
「どこでそんなことを覚えたのです?」
 軽く笑ったシミュラに向かってカペラは満面の笑みを返してくるのだった。その顔を見ているとシミュラの心のなかにある不安は消えていくようだった。
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