迷宮の主

大秦頼太

文字の大きさ
上 下
34 / 96
冬のあほうつかい

冬のあほうつかい 33

しおりを挟む
33

 九階にある地下農場は村が五つは入るほどの広さがあった。手伝いに呼んだ子供たちの中で男の子らは畑仕事に目もくれず小川で遊んでいた。農業指導をする大人もほとんど経験がない。今年はとりあえずやって見るだけだねとのんびりした調子で土いじりをする。畑の土を耕しているとまだまだ石や木片、布切れ、金属片、動物の骨も混ざっているのでそれを取り除くのも一苦労だった。それでも土は意外と力がありそうで期待を高めた。
「木くずは燃やして灰にするから道の方に投げておきな」
 マイラはがっしりとした体型の女性で四十は超えている。普段は城で洗濯などをしている。子供の頃は夏季に一家総出で避暑地に行き父や兄は魚を捕り母や姉妹でベリーの採集をするのが慣例だった。シミュラとは三十年前に知り合いそれ以来氷の城で暮らしている。
「金属は金属、石は石でまとめておくんだよ」
 シミュラも子どもたちに混ざって土の中に手を入れて遺物を探した。
「ヘンミンキ、ニコ。金属が埋まっていると危ないわね。何か良い案はない?」
「元は刃物ってやつもあるでしょうからなぁ」
 ヘンミンキは六十過ぎだろう。シワも多く髪も薄い。細身だが背中の筋肉は厚みがある。普段は城で使う薪などを集めて薪割りなどをしている。シミュラと出会ったのは五才を過ぎた頃だ。
 ニコは三十代の背が低い栗色の巻き毛の男。両手を上げて「どうにもならない」とアピールをする。ニコが氷の城で生活を始めたのは十三歳の頃だった。誰もニコの声を聞いたことがない。
「シュミラさまー」
 カペラがカエルを拾ってきた。シミュラは「うっ」として両手で視界を遮る。
「カペラ、逃してあげなさい」
「カエル嫌い?」
「嫌いではありません。得意ではないのです」
「ふうん」
 シミュラは楽しそうなカペラの顔を見て軽く微笑んだ。
「楽しい?」
「うん!」
「じゃあ、誰かが怪我をしたら可愛そうだから、畑の中の金属を見つけられるかしら?」
「きんぞくってナイフ?」
「鎖や板、釘なんかもそうね。あそこにまとめているから見に行きましょう」
 シミュラが道の方へ歩き出すと、カペラがシミュラの手を握った。瞬間、シミュラは怖気が振るった。引きつった顔でカペラを見下ろす。
「どうしたの?」
「いいえ。なんでもないわ」
 そうは言ったもののシミュラの声は震えていた。

 木片、石類、金属らしきもの。キレイに分別されている。カペラは金属をまじまじと見る。
「きんぞく。わかった。これを見つければ良いのか。光らせれば良い?」
「そうね! それが良いわ。そうして頂戴」
「うん!」
 カペラは畑に向かって小さな両手を伸ばす。
「きんきんきんぞく、ぴかぴかぴかー」
 カペラの両手が握って開いてを繰り返すと土中の金属が鈍く輝き出す。
「こりゃあ、便利だ」
 ヘンミンキが笑った。
「なんだよ。どうせなら集めてくれりゃあ仕事が減ったのに」
 側で見ていた男の子ハッリが馬鹿にした。カペラの顔が曇る。金属の輝きも鈍る。それを見たシミュラがカペラの頭を撫でてやる。
「あなたは天才ね」
 カペラはうつむくが金属たちの輝きが強くなった。
「自分に出来ないことを素直に褒めることが出来ない人間はここを出ても苦労するだけよ」
 ハッリにそう釘を刺すとシミュラは金属を拾いに畑の中に戻っていった。他の子供たちもそれに続いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

八十神天従は魔法学園の異端児~神社の息子は異世界に行ったら特待生で特異だった

根上真気
ファンタジー
高校生活初日。神社の息子の八十神は異世界に転移してしまい危機的状況に陥るが、神使の白兎と凄腕美人魔術師に救われ、あれよあれよという間にリュケイオン魔法学園へ入学することに。期待に胸を膨らますも、彼を待ち受ける「特異クラス」は厄介な問題児だらけだった...!?日本の神様の力を魔法として行使する主人公、八十神。彼はその異質な能力で様々な苦難を乗り越えながら、新たに出会う仲間とともに成長していく。学園×魔法の青春バトルファンタジーここに開幕!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

勇者じゃないと追放された最強職【なんでも屋】は、スキル【DIY】で異世界を無双します

華音 楓
ファンタジー
旧題:re:birth 〜勇者じゃないと追放された最強職【何でも屋】は、異世界でチートスキル【DIY】で無双します~ 「役立たずの貴様は、この城から出ていけ!」  国王から殺気を含んだ声で告げられた海人は頷く他なかった。  ある日、異世界に魔王討伐の為に主人公「石立海人」(いしだてかいと)は、勇者として召喚された。  その際に、判明したスキルは、誰にも理解されない【DIY】と【なんでも屋】という隠れ最強職であった。  だが、勇者職を有していなかった主人公は、誰にも理解されることなく勇者ではないという理由で王族を含む全ての城関係者から露骨な侮蔑を受ける事になる。  城に滞在したままでは、命の危険性があった海人は、城から半ば追放される形で王城から追放されることになる。 僅かな金銭で追放された海人は、生活費用を稼ぐ為に冒険者として登録し、生きていくことを余儀なくされた。  この物語は、多くの仲間と出会い、ダンジョンを攻略し、成りあがっていくストーリーである。

黄金蒐覇のグリード 〜力と財貨を欲しても、理性と対価は忘れずに〜

黒城白爵
ファンタジー
 とある異世界を救い、元の世界へと帰還した玄鐘理音は、その後の人生を平凡に送った末に病でこの世を去った。  死後、不可思議な空間にいた謎の神性存在から、異世界を救った報酬として全盛期の肉体と変質したかつての力である〈強欲〉を受け取り、以前とは別の異世界にて第二の人生をはじめる。  自由気儘に人を救い、スキルやアイテムを集め、敵を滅する日々は、リオンの空虚だった心を満たしていく。  黄金と力を蒐集し目指すは世界最高ランクの冒険者。  使命も宿命も無き救世の勇者は、今日も欲望と理性を秤にかけて我が道を往く。 ※ 更新予定日は【月曜日】と【金曜日】です。 ※第301話から更新時間を朝5時からに変更します。

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

処理中です...