迷宮の主

大秦頼太

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冬のあほうつかい

冬のあほうつかい 25

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25

 迷宮の主は魔物を使役することが出来る。魔物は魔素によって稼働を続ける。魔素を失った魔物は魔素を補充するまで眠りについた状態になる。魔素が何で出来ているのかは誰も知らない。魔物を動かす素だから魔素と呼ばれているだけだった。
 何らかの実験か魔法でナミュラは魔物化し黒い道着の男が指示しているのであろう。つまり黒い道着の男を倒せばナミュラも止まるのだ。
 シミュラは自由のある左手で白い塊を凍らせて砕こうと試みるがダメだった。
「魔力ではそれは崩せないのよ! あきらめてあなたも血をよこしなさい!」
 ナミュラがシミュラに襲いかかろうとしたところにニコデムスが魔法を使う。
「風刃の嵐(ウインドストーム)!」
 風の刃では大蜘蛛の外皮に傷をつけることが出来なかった。吹き飛ばすのが誠意いっぱいだった。
「鬱陶しい風だこと」
 大蜘蛛の体がナミュラの中に収納されていく。分かれていた脚二つが一つにまとまり手足に変わっていく。紅い粘菌がタイトなドレスを作り出す。
「一定のダメージか衝撃を与えると人の姿になるようじゃ。さっきは途中で止めたようじゃがオオカミたちが本気でやれば倒せるのではないか?」
 ニコデムスがシミュラの前にやってくる。
「お母様は操られているだけなんです。あの黒い道着の男に」
 ナミュラはニコデムスから距離を取る。風の魔法が避けられる距離を保っているのかもしれない。
 シミュラは二頭のオオカミを黒い道着の男に向かわせる。攻撃に参加させると言うよりは杖を奪い取るタイミングを探っていた。
「返しなさい! お父様の杖を返しなさい! それはお前が持って良いものではない!」
 シミュラが左手を伸ばす。床に張り付いた右腕が悲鳴を上げる。
「シミュラ、私が何者なのか忘れたのかい?」
 シミュラとニコデムスの頭上に氷の矢が降り注ぐ。
「風の防壁(ミサイルガード)」
 ニコデムスの杖が頭上にかざされると風が渦を巻いて氷の矢を弾いていく。
「蜘蛛でない時は魔法を使うのか。これは厄介だな」
 シミュラは右肘を立てて体を無理やり引き起こすと、黒い道着の男に向かって左手を伸ばす。
「許しておくれ、お前たち」
 シミュラがそう言うと二頭のオオカミの目が赤く光り輝き直線的に黒い道着の男に襲いかかる。黒い道着の男は特段あわてた様子もなく二頭のオオカミを象牙色の長大な杖で打ち据える。それでもオオカミたちは引かなかった。杖の両端に噛み付いて動きを阻害するとイラリやグスタフの攻撃も黒い道着の男に当たる様になる。グスタフの金棒が黒い道着の男の足を砕き、イラリの長剣が杖を持つ手を切り裂いた。床の上に黒い道着の男が倒れ、オオカミたちもまた横倒れて動かなくなった。
 グスタフが象牙色の長大な杖を奪い取ると、イラリが黒い道着の男にとどめを刺した。
「あぁ」
 と弱々しい声を上げながら、ナミュラは大広間を奥へ奥へと後退りしていく。壁に背中が当たるとズルズルと地面に座り込んだ。
「マリ……」
 イラリが白い塊に固められたマリの顔に触れる。
「わたくしにその杖を」
 グスタフはシミュラを見下ろしたまま動かずにいた。
「グスタフ、杖は渡すな」
 イラリがシミュラに近付いてくる。
「お前は一体何なんだ? 正直に言えば命は助けてやる」
 イラリの真っ直ぐな目にシミュラは覚悟を決めた。
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