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迷宮の主
迷宮の主 46
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46
「地下六階」
ナサインが先頭に立ち階段を降りていくと左手の黒い炎が大きく燃え上がる。暗闇をいくら吸っても周囲は明るくなっていかない。
「ここに来てダークゾーンか」
舌打ちをするナサインの後からウイカが近づいてくる。
「ダークゾーン?」
「光が存在しない魔法の空間だ」
「どういうこと?」
「普通の人間には何も見えないってこと」
シビトが二人の前に歩み出る。
「俺の出番だな」
「おじさん、見えるの?」
「見えん」
「じゃあ、だめじゃん」
甲高い笑い声が暗闇に広がっていく。
「フフフ。耳を使うんだよ。こうやってな」
チッ、チッ、チッ。
シビトは細かい舌打ちを繰り返す。ナサインは左手の黒い炎を消した。
「よし、それで行こう」
「ちょっと!」
ウイカが声を上げる。
「何だよ」
「何で手を握るのよ」
「見えないんだろう?」
「あ、ああ」
チッ、チッ、チッ。
「ここからしばらく真っ直ぐだ」
シビトの声が前方から聞こえる。足音とシビトの舌打ちが暗闇の中から聞こえてくる。
チッ、チッ、チッ。
「右に曲がっている。右の壁を触って来い」
「キャァ」
「どうした?」
「いてっ。急に止まるな」
「何か踏んだ」
「それはわからない」
「あ」
「なんだ?」
「何よ?」
「お前、シビトの背中に触れ。それで俺の右手を持ってくれ」
「何でよ」
舌打ちの音が聞こえる。
「ダークゾーンが切れても、炎が出てないと見えない」
「ああ」
ウイカはすぐに続ける。
「炎を近づけないでよ?」
「触っても人間は燃えない」
「そうなの?」
「フフフ。魔素は燃えるから尻が出るかも知れんぞ」
「そんなことしたら補給してる時に悪戯するからね」
「しねえよ」
「いいか?」
「待って」
「いいぞ」
「いいわ」
「よし、行くぞ」
チッ、チッ、チッ。
「少し広い空間だな。いや、壁は無いから俺のすぐ後ろを歩け」
「何?」
「おそらく道が狭い」
「広い空間なのに狭いの? どういうこと?」
チッ、チッ、チッ。
「いいからすり足で行くぞ」
「風を感じるわ」
「シビト。止まれ」
「何だ?」
「炎が見えるようになった」
ナサインが左手を前に出すと周囲が完全な闇から薄暗く変わってくる。シビトとウイカの足元がシビトの肩幅程度の広さになっている。足を踏み外せば両脇の深い溝に吸い込まれていくことになる。
「何よこれ」
ウイカの足が後ずさりし体勢を崩すと、ナサインとシビトが同時にウイカを引き戻す。
「落ち着け」
ナサインがウイカを座らせる。シビトは前を向く。
「行くぞ」
「待て」
ナサインは左手の黒い炎を地面に置いた。シビトが振り返って眉をひそめる。
「何をする気だ?」
「いいからしゃべってろ」
そう言うとナサインはダークゾーンの中に入り込む。
「しゃべり続けてろ」
暗闇のベールの中からナサインの声が聞こえてくる。
「しゃべり続けろって、そんな急に言われても」
「帰ったら、どうするんだ?」
「え?」
「ナサインが迷宮の主になったら、お前はどうする?」
「どうするって、どうしようかな」
ウイカはダークゾーンを見る。
「おじさんはどうするの?」
「俺か? 俺は戦うだけだ」
「どうして?」
「そうするしか出来ないからな」
「逃げちゃえば?」
「逃げることは出来ない」
「ナサインがいるから?」
「いや」
シビトは前方に目を凝らしている。
「この渦は、俺の全てを奪ったからな。決着は自分でつけたい」
「そうか、王様だったんだもんね」
「ああ」
「シモンズ……」
「ん?」
「おじさんは、奥さんとかいたの?」
「ああ。子供もいた。一人だが」
「へー、可愛かった?」
「普通だ」
「何だよ普通って。あれ? もしかしておじさん照れてるの? 可愛いなぁ」
「普通は可愛いだろ。だから普通だ」
「ああ、そういうことか」
ナサインが暗闇の中から何事も無かったかのように現れる。
「何かあったか?」
「それはこっちの台詞」
立ち上がるウイカがナサインの右手に握られている物を見て悲鳴を上げる。
「何を持ってきてるのよ!」
「あ?」
ナサインは右手を持ち上げて、数回うなずく。
「ああ、やっぱり骨か」
ナサインは骨を持ち上げると背中の黒い空間からその先がごっそりと出てくる。ナサインはそれを足で分解すると一番太い骨を三本残して残りは溝の中に突き落とした。しばらくすると底から水音が聞こえた。
「そんなもの何するのよ」
ナサインは骨を突き出すようにして自信たっぷりに言い放った。
「たいまつにするに決まってるだろ」
「地下六階」
ナサインが先頭に立ち階段を降りていくと左手の黒い炎が大きく燃え上がる。暗闇をいくら吸っても周囲は明るくなっていかない。
「ここに来てダークゾーンか」
舌打ちをするナサインの後からウイカが近づいてくる。
「ダークゾーン?」
「光が存在しない魔法の空間だ」
「どういうこと?」
「普通の人間には何も見えないってこと」
シビトが二人の前に歩み出る。
「俺の出番だな」
「おじさん、見えるの?」
「見えん」
「じゃあ、だめじゃん」
甲高い笑い声が暗闇に広がっていく。
「フフフ。耳を使うんだよ。こうやってな」
チッ、チッ、チッ。
シビトは細かい舌打ちを繰り返す。ナサインは左手の黒い炎を消した。
「よし、それで行こう」
「ちょっと!」
ウイカが声を上げる。
「何だよ」
「何で手を握るのよ」
「見えないんだろう?」
「あ、ああ」
チッ、チッ、チッ。
「ここからしばらく真っ直ぐだ」
シビトの声が前方から聞こえる。足音とシビトの舌打ちが暗闇の中から聞こえてくる。
チッ、チッ、チッ。
「右に曲がっている。右の壁を触って来い」
「キャァ」
「どうした?」
「いてっ。急に止まるな」
「何か踏んだ」
「それはわからない」
「あ」
「なんだ?」
「何よ?」
「お前、シビトの背中に触れ。それで俺の右手を持ってくれ」
「何でよ」
舌打ちの音が聞こえる。
「ダークゾーンが切れても、炎が出てないと見えない」
「ああ」
ウイカはすぐに続ける。
「炎を近づけないでよ?」
「触っても人間は燃えない」
「そうなの?」
「フフフ。魔素は燃えるから尻が出るかも知れんぞ」
「そんなことしたら補給してる時に悪戯するからね」
「しねえよ」
「いいか?」
「待って」
「いいぞ」
「いいわ」
「よし、行くぞ」
チッ、チッ、チッ。
「少し広い空間だな。いや、壁は無いから俺のすぐ後ろを歩け」
「何?」
「おそらく道が狭い」
「広い空間なのに狭いの? どういうこと?」
チッ、チッ、チッ。
「いいからすり足で行くぞ」
「風を感じるわ」
「シビト。止まれ」
「何だ?」
「炎が見えるようになった」
ナサインが左手を前に出すと周囲が完全な闇から薄暗く変わってくる。シビトとウイカの足元がシビトの肩幅程度の広さになっている。足を踏み外せば両脇の深い溝に吸い込まれていくことになる。
「何よこれ」
ウイカの足が後ずさりし体勢を崩すと、ナサインとシビトが同時にウイカを引き戻す。
「落ち着け」
ナサインがウイカを座らせる。シビトは前を向く。
「行くぞ」
「待て」
ナサインは左手の黒い炎を地面に置いた。シビトが振り返って眉をひそめる。
「何をする気だ?」
「いいからしゃべってろ」
そう言うとナサインはダークゾーンの中に入り込む。
「しゃべり続けてろ」
暗闇のベールの中からナサインの声が聞こえてくる。
「しゃべり続けろって、そんな急に言われても」
「帰ったら、どうするんだ?」
「え?」
「ナサインが迷宮の主になったら、お前はどうする?」
「どうするって、どうしようかな」
ウイカはダークゾーンを見る。
「おじさんはどうするの?」
「俺か? 俺は戦うだけだ」
「どうして?」
「そうするしか出来ないからな」
「逃げちゃえば?」
「逃げることは出来ない」
「ナサインがいるから?」
「いや」
シビトは前方に目を凝らしている。
「この渦は、俺の全てを奪ったからな。決着は自分でつけたい」
「そうか、王様だったんだもんね」
「ああ」
「シモンズ……」
「ん?」
「おじさんは、奥さんとかいたの?」
「ああ。子供もいた。一人だが」
「へー、可愛かった?」
「普通だ」
「何だよ普通って。あれ? もしかしておじさん照れてるの? 可愛いなぁ」
「普通は可愛いだろ。だから普通だ」
「ああ、そういうことか」
ナサインが暗闇の中から何事も無かったかのように現れる。
「何かあったか?」
「それはこっちの台詞」
立ち上がるウイカがナサインの右手に握られている物を見て悲鳴を上げる。
「何を持ってきてるのよ!」
「あ?」
ナサインは右手を持ち上げて、数回うなずく。
「ああ、やっぱり骨か」
ナサインは骨を持ち上げると背中の黒い空間からその先がごっそりと出てくる。ナサインはそれを足で分解すると一番太い骨を三本残して残りは溝の中に突き落とした。しばらくすると底から水音が聞こえた。
「そんなもの何するのよ」
ナサインは骨を突き出すようにして自信たっぷりに言い放った。
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