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迷宮の主
迷宮の主 39
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39
「見つけたか?」
ナサインはシビトに近づいてくる。服装が変わっていることに気が付いたのか、一瞬眉にしわを寄せる。シビトが手を広げて見せると、その動きに合わせてネジフは肩を震わせながら荷物袋に向かって歩き出す。ウイカはシビトの背中に回って震える身体を隠した。モンテールも何食わぬ顔でナサインの後へと歩いていく。
「ご覧の通りだ」
ナサインの目が左右に泳ぐ。
「魔素を纏うのをやめてみたんだが、見つからなかった」
ナサインは見下ろすシビトの視線から目を外した。腕を組みながら深い呼吸をする。
「落としたか」
その声にネジフが咳き込んだ。しかし、ナサインは気に留めなかった。
「落とすわけが無い」
シビトの力強い言葉が、ナサインをうならせる。
「あのなぁ……」
そう言って腰に手を当てたナサインの動きが止まる。
「……んまぁ、落とした可能性もあるだろうけれども、今更それを探しに行くこともないだろうな。どこにあるかわからないものを探すなんて、時間がかかって仕方が無いだろうし……」
ナサインの声が徐々に小さくなっていく。
「もしかしたら、鍵をかけ忘れてるかもしれないからな。後で俺が見てくる」
「歩くしかないか……」
シビトの言葉にナサインは両手を振る。
「いや、鍵を作るって言うことも試してみてもいいと思うな」
「そうか?」
「後向けよ。まずは魔素を補給しよう」
「ああ、頼む」
シビトがナサインに背中を向ける。ナサインはその背中に両手を当てる。
「一気に行くぞ」
「わかった」
ナサインの目が真っ赤に光り腕から黒い風が生まれシビトの背中に吸い込まれていく。全身を震わせながらシビトの肌が黒味を帯びていく。
両手を勢い良くシビトの背からはがすと、ナサインは荒い呼吸を整える。真っ黒に身体を染めたシビトの肌は徐々に色が戻っていく。
「さて、帰りたくなった奴はいるか?」
ナサインは声をかける。
見れば全員がうつむいてしまっている。ナサインは首をかしげた。
「どうした?」
「俺が話した」
シビトが魔素を噴出して身を包む鎧を形成させる。
「そうか」
「しばらく考える時間をやってくれ」
「わかった」
ナサインはゆっくりと後ずさりしながら壁際による。
「どうした?」
シビトが近づこうとすると、片手でそれを制する。
「いいんだ。考えている間にエレベーターホールの鍵を確認してくる」
そそくさと壁に突き出た突起を触ると、ナサインの背後の壁が開きナサインは吸い込まれるように中に進んで行った。
しばらくすると、声が聞こえてきた。
「あー、クソ!」
そして、走りながら片手を振り回して戻ってくる。
「あったぞ、鍵があった」
それを見てウイカがうずくまって笑う。ネジフは荷物袋に頭を入れて笑い転げる。モンテールは足をつねり上げ何とか笑いをこらえていた。
シビトは唇の端を吊り上げて甲高い笑い声を出した。
「ほらな。何か言うことは無いのか?」
ナサインは軽く舌打ちをする。
「悪かったよ」
「わかればいい」
あっさりとしたシビトの言葉にナサインは少し拍子抜けしているようだったが、ことが済んだことに満足しているようでもあった。
「見つけたか?」
ナサインはシビトに近づいてくる。服装が変わっていることに気が付いたのか、一瞬眉にしわを寄せる。シビトが手を広げて見せると、その動きに合わせてネジフは肩を震わせながら荷物袋に向かって歩き出す。ウイカはシビトの背中に回って震える身体を隠した。モンテールも何食わぬ顔でナサインの後へと歩いていく。
「ご覧の通りだ」
ナサインの目が左右に泳ぐ。
「魔素を纏うのをやめてみたんだが、見つからなかった」
ナサインは見下ろすシビトの視線から目を外した。腕を組みながら深い呼吸をする。
「落としたか」
その声にネジフが咳き込んだ。しかし、ナサインは気に留めなかった。
「落とすわけが無い」
シビトの力強い言葉が、ナサインをうならせる。
「あのなぁ……」
そう言って腰に手を当てたナサインの動きが止まる。
「……んまぁ、落とした可能性もあるだろうけれども、今更それを探しに行くこともないだろうな。どこにあるかわからないものを探すなんて、時間がかかって仕方が無いだろうし……」
ナサインの声が徐々に小さくなっていく。
「もしかしたら、鍵をかけ忘れてるかもしれないからな。後で俺が見てくる」
「歩くしかないか……」
シビトの言葉にナサインは両手を振る。
「いや、鍵を作るって言うことも試してみてもいいと思うな」
「そうか?」
「後向けよ。まずは魔素を補給しよう」
「ああ、頼む」
シビトがナサインに背中を向ける。ナサインはその背中に両手を当てる。
「一気に行くぞ」
「わかった」
ナサインの目が真っ赤に光り腕から黒い風が生まれシビトの背中に吸い込まれていく。全身を震わせながらシビトの肌が黒味を帯びていく。
両手を勢い良くシビトの背からはがすと、ナサインは荒い呼吸を整える。真っ黒に身体を染めたシビトの肌は徐々に色が戻っていく。
「さて、帰りたくなった奴はいるか?」
ナサインは声をかける。
見れば全員がうつむいてしまっている。ナサインは首をかしげた。
「どうした?」
「俺が話した」
シビトが魔素を噴出して身を包む鎧を形成させる。
「そうか」
「しばらく考える時間をやってくれ」
「わかった」
ナサインはゆっくりと後ずさりしながら壁際による。
「どうした?」
シビトが近づこうとすると、片手でそれを制する。
「いいんだ。考えている間にエレベーターホールの鍵を確認してくる」
そそくさと壁に突き出た突起を触ると、ナサインの背後の壁が開きナサインは吸い込まれるように中に進んで行った。
しばらくすると、声が聞こえてきた。
「あー、クソ!」
そして、走りながら片手を振り回して戻ってくる。
「あったぞ、鍵があった」
それを見てウイカがうずくまって笑う。ネジフは荷物袋に頭を入れて笑い転げる。モンテールは足をつねり上げ何とか笑いをこらえていた。
シビトは唇の端を吊り上げて甲高い笑い声を出した。
「ほらな。何か言うことは無いのか?」
ナサインは軽く舌打ちをする。
「悪かったよ」
「わかればいい」
あっさりとしたシビトの言葉にナサインは少し拍子抜けしているようだったが、ことが済んだことに満足しているようでもあった。
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