迷宮の主

大秦頼太

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迷宮の主

迷宮の主 37

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37

 シビトが通路を歩いて戻ってくる。その後からついてくる者も近寄ってくる者も誰一人いなかった。
「終わりか?」
 ネジフが声をかけるとシビトは前の手を左右に握り締めて、叫び声をあげる。あまりに大きな声にネジフが耳を塞ぐ。
「うるせえなぁ」
 声と共にシビトの背中から腕が消え、漆黒の面のようなものも剥がれ落ちる。ガシャガシャと音を立てて床の上に転がるそれは徐々に空気の中に溶けて行くのだった。シビトのさらに叫び声は続き、ネジフの前でシビトは素っ裸になってしまう。
「お前バカだろ? 変態か?」
 それから両手を合わせて黒い煙を吐く。煙はシビトの身体を覆うと、服に変化した。迷宮とついさっきまでの殺戮に似合わない普段着のような服だった。
「少し、使いすぎた」
「やりすぎだろ」
「ああ」
 シビトは後ろを振り返ると潰れた兵士たちの姿を見る。
「何かこう、下から湧き上がる闘争心みたいなものを感じて、興奮しすぎたみたいだ」
「俺も少しわかるな」
「おじさん!」
 階段を上ってくるウイカが目の前の参上を見て口を手で押さえてうずくまった。。シビトはウイカの視線を通路からさえぎるように階段へ向かっていく。
「下に行こう」
「なんか落ちてるぞ?」
 ネジフが空気に消え残ったシビトの装備の残骸を指差す。それを見てシビトの表情が固まったネジフが戦斧でそれを手繰り寄せる。
「何だこれ? 鍵か?」
 ネジフの脇からシビトが黒い鍵を拾い上げる。
「なんだ?」
 その動きがとても早かったので、ネジフにはかえって不審がられてしまった。シビトはウイカを支えながら階段を早足で歩いていく。その後からニヤニヤしながらネジフが歩いてくる。
「それ、あれだろ?」
 シビトは舌打ちをする。
「だからなんだ」
「お前、バカで変態だな」
 とうとうこらえきれなくなったのかネジフは階段の途中で座り込んで大笑いをする。
「お前、面白いな」
 ウイカがシビトの体から離れて階段の隅で嘔吐する。
「んだよ、汚ねえな」
 ネジフが笑うのをやめて階段を降りていく。シビトがウイカの背中をさすってやると、ウイカは口をぬぐって立ち上がる。
「ごめん。あんなの初めて見たから」
「気にするな」
 シビトはウイカに手を貸しながら階段を降りていった。
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