迷宮の主

大秦頼太

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迷宮の主

迷宮の主 27

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27

「地下三階」
 地面はしっかりと乾いていた。静かに歩かないと土埃が上がるほどだった。壁は岩だったが、驚くほど広いスペースにここが迷宮の中だと言うことを忘れさせる。
「夜なのか?」
 ネジフが上を見上げる。星こそ無いが光の届かない天空の闇はどこまでもつながっていそうなほどだった。
「ここをまっすぐに進んでいけばいよいよ地下四階だ。すんなり行くのもいいが、ここは他の階とは少し意味が違う」
 ナサインの説明にネジフは首をかしげる。
「外なのか?」
「そうじゃない。ここの階は食料の補給が出来るってことさ」
「何でだよ?」
「迷宮の主だったミクモと言う魔法使いにはいくつかの軍勢があった。大きく分けると魔物と人間。人間を迷宮の中で養うには食料が必要だった。ミクモは地下に地上のようなものを作って強力な軍隊を養っていたってことさ」
「今もその軍勢はいるのでしょうか?」
 ナサインは首を横に振る。
「いないだろうな。ミクモが死んだ時にほとんどの連中が逃げ出すか死ぬかしたらしいからね。ただ、この階はそのままさ」
「何故ですか?」
「主が死んでも、主が変わっても、すでに作られた階層は変えることが出来ない」
「ナサイン殿は、良くご存知なのですね」
 モンテールの感心する様子にナサインは上機嫌だった。
「まあね。さて、そろそろ行くか。最低限の食料調達をして下を目指そう」
 ナサインは一同を見る。ネジフは首をかしげ、モンテールは口を開け閉めするだけ、シビトはまるで興味が無い様子であくびばかりしている。ウイカはふくれた顔を外に向けていた。
「お前、まだ怒ってるのか?」
「怒ってない」
 そのウイカの言葉には明らかな怒気が含まれている。
「あれはああいう術なんだって」
「怒ってません」
 ナサインは軽くため息をつく。それを聞いたウイカの眉が歪む。
「使う前に説明なんか出来るわけないだろ」
「そうね。こんなに説明大好きなのにね」
「手の内は全部明かさないのが生き残るための手段なんだよ」
 ウイカはナサインに顔を向ける。
「じゃあ、一人で行けば? 一人ならずっと生き残っていられるんでしょ?」
「あのなぁ」
「あなたは何かを隠してる。あたしたちは仲間じゃないの?」
 ウイカの言葉にナサインは押し黙る。
「全部話してとは言わないけど、自分が何者かくらいは言うべきよ」
 ナサインは唇を噛んでしばらく考えこんだ。やがて、小さくうなずきながら声を出した。
「わかった。砦に休めるところがある。そこまで行ったら話す。ここじゃ長い話は出来ないからな」
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