68 / 96
迷宮の主
迷宮の主 25
しおりを挟む
25
「なんだなんだ?」
「お前らか? 独占をしてたのは?」
「つまんねー真似をしやがって」
「ここを誰の縄張りか知っての所業だろうなぁ」
「兄ちゃんショギョーって何だ?」
「仕業ってことだよ」
「ああ、ぞうか。シワザって?」
「仕業は所業のことだろ」
「ああ、ぞうか」
怒号と罵声を上げながら坂のような階段を下りてくるのは三人の男たちだった。金属鎧に身を包む彼らはメイスや大斧を肩に担いでやってくる。
「返答次第では、生きて帰さねえぞ」
一番前を来た髭面で髪を一本にまとめた男はメイスを肩から下ろすと、階段の上でシビトと目線を同じに合わせた。段数で言えば五段の高さの違いがあった。
「独占?」
ナサインが脇から声を上げると髭面の右横に立っていた赤ら顔が大斧を振り上げて威嚇する。振り乱した長い髪が炎のように揺らめいている。
「してただろうが! 独占だ」
「兄ちゃんドクセンってなんだ」
赤ら顔の男に尋ねるのは眉毛の無い三つ編みの男だった。男たちは背丈も表情もどこか類似していた。赤ら顔が眉無しに顔を向ける。
「独占って言うのは、独り占めだ」
「ぞうか、独り占めか」
ナサインが後の二人にかまわずに前の男に話しかける。
「俺たちはここで休んでただけだ。ここにずっといるつもりは無い」
髭面が大声で笑った。
「あんなに荒らしやがって、しらばっくれるつもりか?」
「あれじゃあ、復旧に三日はかかる」
「兄ちゃん、フッキュウって?」
「復旧は元通りに再生するってことだ」
「ああ、ぞうか。サイセイって?」
「復旧のことだ」
「ああ、ぞうか」
「緊急だったんだ」
ナサインの言葉に髭面が笑いを止める。
「で、出たのか?」
「何が?」
「大丸蟲だよ」
「普通のより一回りくらい大きいのなら」
「ふうむ」
髭面は考え込む。赤ら顔が周囲を見回す。
「兄貴」
「なんだ?」
赤ら顔は階下を顎で指す。髭面はすぐに表情を和らげた。
「なんだよ。悪かったな、俺たちはお前たちに危害を加える気なんて無いんだよ。そんなに身構えるなよ」
「兄ちゃん、キガイって?」
「お前は黙ってろ」
「教えてよぉ」
「危害って言うのは、暴力だ」
「ぞうか、暴力は知ってるよ。兄ちゃんたち得意だもんね。特に相手が後ろを向いたときとか」
髭面と赤ら顔が眉無しを見る。眉無しは不思議顔でそれを見返す。髭面と赤ら顔の拳が同時に眉無しの腹に命中し、眉無しは階段に座り込む。
「痛いよぉ」
眉無しは一瞬無言になった。
「鎧着てるから大丈夫だった」
そう言って頭をかく。髭面が咳払いをして仕切りなおす。
「大丸蟲はまだ出てないんだな?」
「俺たちが見たのは一回り大きい奴だけだ」
「そんなにデカイのか?」
シビトが口を開く。ナサインがそれをにらむが、シビトは無視した。
「デカイなんてもんじゃないぜ。家だなあれは」
ナサインはシビトに耳打ちする。
「俺はそんなの知らないぞ」
「何だ?」
髭面に指を指されてナサインは口を開く。
「そんな丸蟲が出ることなんて知らない」
「レアモンスターだからな。知らなくても当然だ」
「書き換えなんて出来ないはずだぞ」
ナサインは独り言を呟く。
「兄貴、二年か三年前にも同じようなことが無かったか?」
「なに?」
髭面は顔を抑えながら考え込む。ナサインが声を上げる。
「おい、大丸蟲っていつからいるんだよ」
「昔からに決まってんだろ」
赤ら顔が吐き捨てるように言うと、ナサインも腕を組んで考え込む。髭面とナサインのうなり声が不愉快なハーモニーになって辺りに響いていく。
「や、こいつは俺の勘違いだったようだ」
髭面が急に笑顔を作った。
「戻るぞ」
そう言うと赤ら顔と眉無しの肩を叩いて坂のような階段を上っていく。
「待て」
ナサインは男たちを呼び止める。止まらない男たちになおも声をかける。
「おい」
「大丸蟲なんかいねえよ。冗談だー」
声は立ち止まっていないことを教えてくれる。
「え? いないの? 俺見たことあるよ」
「お前は黙ってろ。俺たちが独占出来なくなるだろうが」
「え? ドクセンっていけないんじゃなかったの?」
「俺たちはいいんだよ」
声はやがて聞こえなくなった。
「ミクモの野郎」
「なんだなんだ?」
「お前らか? 独占をしてたのは?」
「つまんねー真似をしやがって」
「ここを誰の縄張りか知っての所業だろうなぁ」
「兄ちゃんショギョーって何だ?」
「仕業ってことだよ」
「ああ、ぞうか。シワザって?」
「仕業は所業のことだろ」
「ああ、ぞうか」
怒号と罵声を上げながら坂のような階段を下りてくるのは三人の男たちだった。金属鎧に身を包む彼らはメイスや大斧を肩に担いでやってくる。
「返答次第では、生きて帰さねえぞ」
一番前を来た髭面で髪を一本にまとめた男はメイスを肩から下ろすと、階段の上でシビトと目線を同じに合わせた。段数で言えば五段の高さの違いがあった。
「独占?」
ナサインが脇から声を上げると髭面の右横に立っていた赤ら顔が大斧を振り上げて威嚇する。振り乱した長い髪が炎のように揺らめいている。
「してただろうが! 独占だ」
「兄ちゃんドクセンってなんだ」
赤ら顔の男に尋ねるのは眉毛の無い三つ編みの男だった。男たちは背丈も表情もどこか類似していた。赤ら顔が眉無しに顔を向ける。
「独占って言うのは、独り占めだ」
「ぞうか、独り占めか」
ナサインが後の二人にかまわずに前の男に話しかける。
「俺たちはここで休んでただけだ。ここにずっといるつもりは無い」
髭面が大声で笑った。
「あんなに荒らしやがって、しらばっくれるつもりか?」
「あれじゃあ、復旧に三日はかかる」
「兄ちゃん、フッキュウって?」
「復旧は元通りに再生するってことだ」
「ああ、ぞうか。サイセイって?」
「復旧のことだ」
「ああ、ぞうか」
「緊急だったんだ」
ナサインの言葉に髭面が笑いを止める。
「で、出たのか?」
「何が?」
「大丸蟲だよ」
「普通のより一回りくらい大きいのなら」
「ふうむ」
髭面は考え込む。赤ら顔が周囲を見回す。
「兄貴」
「なんだ?」
赤ら顔は階下を顎で指す。髭面はすぐに表情を和らげた。
「なんだよ。悪かったな、俺たちはお前たちに危害を加える気なんて無いんだよ。そんなに身構えるなよ」
「兄ちゃん、キガイって?」
「お前は黙ってろ」
「教えてよぉ」
「危害って言うのは、暴力だ」
「ぞうか、暴力は知ってるよ。兄ちゃんたち得意だもんね。特に相手が後ろを向いたときとか」
髭面と赤ら顔が眉無しを見る。眉無しは不思議顔でそれを見返す。髭面と赤ら顔の拳が同時に眉無しの腹に命中し、眉無しは階段に座り込む。
「痛いよぉ」
眉無しは一瞬無言になった。
「鎧着てるから大丈夫だった」
そう言って頭をかく。髭面が咳払いをして仕切りなおす。
「大丸蟲はまだ出てないんだな?」
「俺たちが見たのは一回り大きい奴だけだ」
「そんなにデカイのか?」
シビトが口を開く。ナサインがそれをにらむが、シビトは無視した。
「デカイなんてもんじゃないぜ。家だなあれは」
ナサインはシビトに耳打ちする。
「俺はそんなの知らないぞ」
「何だ?」
髭面に指を指されてナサインは口を開く。
「そんな丸蟲が出ることなんて知らない」
「レアモンスターだからな。知らなくても当然だ」
「書き換えなんて出来ないはずだぞ」
ナサインは独り言を呟く。
「兄貴、二年か三年前にも同じようなことが無かったか?」
「なに?」
髭面は顔を抑えながら考え込む。ナサインが声を上げる。
「おい、大丸蟲っていつからいるんだよ」
「昔からに決まってんだろ」
赤ら顔が吐き捨てるように言うと、ナサインも腕を組んで考え込む。髭面とナサインのうなり声が不愉快なハーモニーになって辺りに響いていく。
「や、こいつは俺の勘違いだったようだ」
髭面が急に笑顔を作った。
「戻るぞ」
そう言うと赤ら顔と眉無しの肩を叩いて坂のような階段を上っていく。
「待て」
ナサインは男たちを呼び止める。止まらない男たちになおも声をかける。
「おい」
「大丸蟲なんかいねえよ。冗談だー」
声は立ち止まっていないことを教えてくれる。
「え? いないの? 俺見たことあるよ」
「お前は黙ってろ。俺たちが独占出来なくなるだろうが」
「え? ドクセンっていけないんじゃなかったの?」
「俺たちはいいんだよ」
声はやがて聞こえなくなった。
「ミクモの野郎」
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
龍騎士イリス☆ユグドラシルの霊樹の下で
ウッド
ファンタジー
霊樹ユグドラシルの根っこにあるウッドエルフの集落に住む少女イリス。
入ったらダメと言われたら入り、登ったらダメと言われたら登る。
ええい!小娘!ダメだっちゅーとろーが!
だからターザンごっこすんなぁーーー!!
こんな破天荒娘の教育係になった私、緑の大精霊シルフェリア。
寿命を迎える前に何とかせにゃならん!
果たして暴走小娘イリスを教育する事が出来るのか?!
そんな私の奮闘記です。
しかし途中からあんまし出てこなくなっちゃう・・・
おい作者よ裏で話し合おうじゃないか・・・
・・・つーかタイトル何とかならんかったんかい!
時き継幻想フララジカ
日奈 うさぎ
ファンタジー
少年はひたすら逃げた。突如変わり果てた街で、死を振り撒く異形から。そして逃げた先に待っていたのは絶望では無く、一振りの希望――魔剣――だった。 逃げた先で出会った大男からその希望を託された時、特別ではなかった少年の運命は世界の命運を懸ける程に大きくなっていく。
なれば〝ヒト〟よ知れ、少年の掴む世界の運命を。
銘無き少年は今より、現想神話を紡ぐ英雄とならん。
時き継幻想(ときつげんそう)フララジカ―――世界は緩やかに混ざり合う。
【概要】
主人公・藤咲勇が少女・田中茶奈と出会い、更に多くの人々とも心を交わして成長し、世界を救うまでに至る現代ファンタジー群像劇です。
現代を舞台にしながらも出てくる新しい現象や文化を彼等の目を通してご覧ください。
回復力が低いからと追放された回復術師、規格外の回復能力を持っていた。
名無し
ファンタジー
回復術師ピッケルは、20歳の誕生日、パーティーリーダーの部屋に呼び出されると追放を言い渡された。みぐるみを剥がされ、泣く泣く部屋をあとにするピッケル。しかし、この時点では仲間はもちろん本人さえも知らなかった。ピッケルの回復術師としての能力は、想像を遥かに超えるものだと。
上流階級はダンジョンマスター!?そんな世界で僕は下克上なんて求めません!!
まったりー
ファンタジー
転生した主人公は、平民でありながらダンジョンを作る力を持って生まれ、その力を持った者の定めとなる貴族入りが確定します。
ですが主人公は、普通の暮らしを目指し目立たない様振る舞いますが、ダンジョンを作る事しか出来ない能力な為、奮闘してしまいます。
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
悠久の機甲歩兵
竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。
※現在毎日更新中
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる