迷宮の主

大秦頼太

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迷宮の主

迷宮の主 15

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15

 古くなった木製の机をバラバラにして部屋の中央の焚き火の中にくべる。部屋の扉をしっかりと閉めると、ネジフとモンテールの顔に安堵が広がった。
 ナサインは壁にもたれながら焚き火に机の破片を運ぶウイカを見ている。
「魔素って言うのは、魔物を動かす原動力だな。魔素使いはそれを除去したり精製したり出来る。シビトには精製した魔素を渡して、シビトはそれをエネルギーに戦闘能力を高めるってわけだ」
 ネジフが入り口側に立っているシビトを疑った目で見る。
「じゃあ、こいつは魔物なのか?」
「違う。シビトはシビトだ。精製した魔素を使ってる以上、魔物にはならない」
「そっか。何かわかんねえけど、わかったぞ」
 ネジフは焚き火に目を戻す。少し離れたところにウイカが座った。
「昔は……。今よりももっと昔の話ですが」
 モンテールが小さな声で話し始める。
「この世界は箱の外にあり人間は神と全てを分かち合っていたと言われていました。しかし、神の力さえも望んだ悪しき人間たちの勢力に神は倒され、神は最後の力を使い善なる人々を箱の中に入れ隠したのです。時が過ぎ、世界の底に七つの禍穴が開き悪は我々を見つけました。悪は箱の中にどんどんと染み込んでくるのです。私は怖いのです。この迷宮の底で悪と繋がってしまう事が怖いのです」
「裸踊りしていた坊さんの言うことじゃないな」
 ナサインが笑った。モンテールは頭を下げた。
「そうでもしなければとてもじゃないが耐えられません。正気ではいられなかったでしょう。そうですとも。死者が生き返ることなどあってはならないのですから」
「なぜだ?」
 シビトの声はひどく部屋の中に響いた。モンテールの恐れを倍増させるには十分すぎた。
「神の決めた自然の摂理に逆らうからです。死者は土に還り新たな命をつむぐ糧になります。その均衡が崩れれば、死者によってこの世は蹂躙され生きる者はいなくなります。神は我らに深い悲しみを与えることにより、命の尊さを学ばせようとしたのです。神は」
「そんな神神言ってるからハゲるんだ」
 シビトは甲高く笑う。
「フフ、言っておくがな」
「シビト黙れ」
 ナサインが手を上げる。
「何?」
 ウイカが立ち上がりかけるのを、ナサインは手のしぐさでやめさせる。
「静かにしろ」
 近づいてくる音がある。ドアノブが激しく揺さぶられる。ナサインはゆっくりと壁から背中を離す。
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