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迷宮の主
迷宮の主 3
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石レンガの壁際に向かい合うように座っているナサインとシビトは分厚い木製テーブルの上に並べられた料理を奪い合うように食べていた。
「シビト、お前はそんなに食う必要ないんだけどな?」
ナサインはシビトのフォークが突き刺した肉を自らのフォークで押さえる。震えるナサインの手と顔にシビトは余裕の笑みを浮かべる。
「フフ」
薄気味悪く笑ってみせると、勢い良く肉をひねる。ナサインのフォークが外れ宙をさまよった瞬間、シビトは肉を口の中に放り込んだ。ナサインは「あ」っと小さな声を上げるのが精一杯だった。
「こんなに旨いものを人に渡せるか」
笑いながら勝ち誇った顔をしているシビトに、ナサインは下唇を噛む。
「主従関係がおかしいだろ」
「俺はお前の従者になった覚えはない」
「……何?」
ナサインの鋭い眼差しがシビトを見る。だが、シビトも恐れることもなくナサインの視線を受け止める。
「お前は俺を縛っているだけに過ぎない。それだけだ」
シビトは手を上げて店の者に追加の注文をする。ナサインは机の上にフォークを投げた。
「どうした? もうおしまいか?」
「気分が悪い」
「食いすぎだな」
「うるせぇ」
「俺に当たるなよ」
ナサインは片手を机に付いた。額から玉粒の汗がにじみ出る。
「本気で、やばい」
「おい、大丈夫か?」
シビトは運ばれてくる料理を受け取りながら、横目でナサインの心配をした。ナサインは細かい呼吸でシビトにうなづいてみせる。
「やりやがった」
「何?」
ナサインは机の上に乗っている皿を両腕で外に掻き出す。皿は床に落ちて割れる。シビトが床の料理を見つめ残念そうなため息をつく。店内の客が二人を見た。人だかりが出来始める前にシビトは立ち上がる。
「親父、悪いな。出る」
シビトは懐から銀貨を取り出すと適当な枚数を置いて全身を振るわせるナサインを抱えて店を出ていく。
ぽかーんと二人を見送る店員だったが、はっと気がついてテーブルの銀貨を手に取る。
「なんだこれ? 見たこともない銀貨だぞ」
店員は慌てて奥に声をかける。
「親父! 贋金で食い逃げだ!」
奥からぬっと出てきた親父が見せられた銀貨に驚く。
「こりゃあ、古い銀貨だぞ。こんなもの滅多にお目にかかれねぇ。迷宮の悪霊が持ってるって噂のもんだ」
それを聞いた店員は震え上がって銀貨を親父に投げ渡す。親父は慌ててそれを掴み取る。
「馬鹿野郎! なんてことすんだ!」
「だってよぉ、化け物だってことだろう?」
親父は笑った。
「深部に行ける相当な手練だってことだ」
石レンガの壁際に向かい合うように座っているナサインとシビトは分厚い木製テーブルの上に並べられた料理を奪い合うように食べていた。
「シビト、お前はそんなに食う必要ないんだけどな?」
ナサインはシビトのフォークが突き刺した肉を自らのフォークで押さえる。震えるナサインの手と顔にシビトは余裕の笑みを浮かべる。
「フフ」
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「こんなに旨いものを人に渡せるか」
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「主従関係がおかしいだろ」
「俺はお前の従者になった覚えはない」
「……何?」
ナサインの鋭い眼差しがシビトを見る。だが、シビトも恐れることもなくナサインの視線を受け止める。
「お前は俺を縛っているだけに過ぎない。それだけだ」
シビトは手を上げて店の者に追加の注文をする。ナサインは机の上にフォークを投げた。
「どうした? もうおしまいか?」
「気分が悪い」
「食いすぎだな」
「うるせぇ」
「俺に当たるなよ」
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「本気で、やばい」
「おい、大丈夫か?」
シビトは運ばれてくる料理を受け取りながら、横目でナサインの心配をした。ナサインは細かい呼吸でシビトにうなづいてみせる。
「やりやがった」
「何?」
ナサインは机の上に乗っている皿を両腕で外に掻き出す。皿は床に落ちて割れる。シビトが床の料理を見つめ残念そうなため息をつく。店内の客が二人を見た。人だかりが出来始める前にシビトは立ち上がる。
「親父、悪いな。出る」
シビトは懐から銀貨を取り出すと適当な枚数を置いて全身を振るわせるナサインを抱えて店を出ていく。
ぽかーんと二人を見送る店員だったが、はっと気がついてテーブルの銀貨を手に取る。
「なんだこれ? 見たこともない銀貨だぞ」
店員は慌てて奥に声をかける。
「親父! 贋金で食い逃げだ!」
奥からぬっと出てきた親父が見せられた銀貨に驚く。
「こりゃあ、古い銀貨だぞ。こんなもの滅多にお目にかかれねぇ。迷宮の悪霊が持ってるって噂のもんだ」
それを聞いた店員は震え上がって銀貨を親父に投げ渡す。親父は慌ててそれを掴み取る。
「馬鹿野郎! なんてことすんだ!」
「だってよぉ、化け物だってことだろう?」
親父は笑った。
「深部に行ける相当な手練だってことだ」
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