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第4章 更なる戦い

第341話 小川明子21

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 再び210室ー
 記憶について、気にし出したらきりがない。かといって、もう眠る気にもなれない。結局はやることもなく、ただ椅子に座ってぼーっとすることくらいしかできない明子だった。
「・・・ああもう!あまり考えるな、あたし!!」
 明子は、自らの両頬を両手で軽く叩いた。彼女が思い悩んだ時に、それを振り払うかのようにやる癖だった。
「ここでああだこうだ考えていても仕方がないんだよ!・・・休める時に休まなくちゃ」
 いつまでもこの部屋にこもっているわけにもいかない。今日、執拗に追い掛け回してきた奴だって、もしかしたらまだこの付近をうろついているのかもしれないのだ。
 やはり、休める時には無理をしてでも休んでおくーわかってはいるのだが、頭が冴えてしまって、寝付けない。
「だったら・・・」
 明子は、部屋の机に置いてあった本に手を伸ばした。どういうわけか、この部屋の机に置いてあった書籍だ。しかも、漫画や小説の類ではなく、明らかに「難しそうな本」だった。
 明子は、読書は大の苦手だった。最初の数ページを読むだけで猛烈な睡魔が襲ってくるのだ。元々、体を動かすのが好きな彼女にとって、読書のようにただ文字だけを追う作業というのは鬼門に他ならなかった。
 そんな彼女にとって、現代国語の授業は、一番堪えがたい授業であったということは言うまでもないだろう。
 逆に、穂乃果は現代国語や英語は大の得意科目であったりする。半面、数学や物理などの理系科目は苦手だったようだ。
 ただ、穂乃果の言う「苦手」レベルは、あくまでも「優等生として」という意味で、いつも赤点すれすれの明子のいう「苦手」とは全くレベルが違うということだけは付け加えておかなければならないだろう。
「こんな難しそうな本なら、すぐに寝られそうだ」
 嬉々として本を開く明子。完全な専門書のようだった。なぜ、こんな本がこの部屋に置いてあったのか、そういう疑問はあるものの、手元にある以上使わない手はないだろう。
 寝るために本を読むというのは、実に明子らしいと言えるだろう。穂乃果ばかりではなく、彼女と親しかったクラスメイト達でさえ呆れながら明子らしいとぼやくに違いない。
 尤も、今はそのクラスメイト達の名前が思い出せなくなっているのだが。
「考えるな・・・あたし。今は、とにかく体も頭も休めるんだ」
 ここに仲のいいクラスメイト達がいたら、多分こうからかわれているだろう。
「明子、アンタいつ頭使ってんのよ」
 それに対して明子も笑いながら言い返していたはずだ。
 あの頃がとても懐かしいーが、もはや帰ることもできない。
「あたしに残されているのは、穂乃果だけなんだよな」
 その穂乃果と再会するためにも、今はとにかく逃げ延びなくてはならない。今の自分には、もう穂乃果しかいないのだからー
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