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第3章 虚ろなる人形
第116話 新たなる芸術を
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氷上は、勅使河原の手によって市民プールまで運ばれた。
「・・・こんなところに運んで、いったい何をしようというのかしら?」
「それは、これからのお楽しみ・・・といったところかしらね、亜美」
ここアルカディア島に滞在しているのは、この大会参加者の少女たちくらいしかいない。よって、この市民プールを模した施設にも、他には誰もいなかった。それゆえに、今は勅使河原と氷上の貸し切りと言ってもいい状態となっていた。
勝負の決着が着いたのは夕方ー今はもう日も暮れており、屋内プールには照明が灯されている。水面はほとんど揺れることもなく、ただ静謐な空気が辺りを支配していた。
「フフフ・・・これで他の誰にも邪魔されることはないわね・・・やっと二人きりよ、亜美。あの小うるさいジャッジももういないわ」
「・・・私としては、さっさとけりをつけてほしいところね。もう覚悟ならできているわ」
勅使河原は、未だ鋼線で縛り上げたままの氷上をプールサイドへと横たえながら、
「そんなに焦ることはなくてよ、亜美。夜はこれからだし、せっかくだから一晩中楽しまなくちゃ」
「冗談じゃないわ!!」
氷上が、心底嫌悪に顔を歪めながら、勅使河原を剣のような瞳で睨み返した。
「あなたなんかに凌辱されるくらいなら、ここで舌を噛み切ってでも死んでやるわよ」
勅使河原が、ぐいっと氷上の顎を掴む。
「・・・人間ってね、そう簡単に自殺できないのよ。特に、舌をかみ切るなんて、普通じゃ絶対無理よ」
「・・・くっ」
「大丈夫よ、亜美・・・あなたに相応しい最期は、私がきちんと演出してあげるから」
「・・・誰が私のことを名前で呼んでいいって言ったのよ」
氷上は勅使河原の手から逃れるように顔を振り向かせると、
「馴れ馴れしく人の名前を呼ばないで!」
たとえ戦いには敗れたとしても、身も心もこの女には屈したくはなかった。
しばしの間、氷上と勅使河原はお互いを見つめ返していたが、その後、先に口を開いたのは勅使河原の方だった。
「嫌われたものね・・・私も。まあ、これから自分を殺そうとする相手だから、仕方がないと言えばそうなのかもしれないけど」
嘆息交じりに呟く勅使河原に対し、
「いいえ、あなたがこれから私を殺すから・・・ではないわ。私を殺す殺さないにかかわらず、あなたとは最初から相容れない部分があったのよ」
ーこの女は、最初から人として壊れてしまっているー
この女を見た瞬間から感じたことだった。
勅使河原に会う前に邂逅した一条紗耶香や天内葉月の方が、まだ人間味を感じられた気がしたのだ。
「あなたは・・・本当は空っぽなのよ、勅使河原マヤ」
空っぽという言葉を聞いた途端、勅使河原の表情が変わった。
「空っぽ・・・ですって?」
「ええそうよ」
氷上は、最後とばかりに、勅使河原に言葉の爆弾を投げつけた。どうせ最後なら、この後どれだけ嬲られようが言ってやるんだー
「あなたは中身のない伽藍洞ー空っぽのお人形さんよ」
次の瞬間、勅使河原は氷上の首に手をかけていたー
「・・・こんなところに運んで、いったい何をしようというのかしら?」
「それは、これからのお楽しみ・・・といったところかしらね、亜美」
ここアルカディア島に滞在しているのは、この大会参加者の少女たちくらいしかいない。よって、この市民プールを模した施設にも、他には誰もいなかった。それゆえに、今は勅使河原と氷上の貸し切りと言ってもいい状態となっていた。
勝負の決着が着いたのは夕方ー今はもう日も暮れており、屋内プールには照明が灯されている。水面はほとんど揺れることもなく、ただ静謐な空気が辺りを支配していた。
「フフフ・・・これで他の誰にも邪魔されることはないわね・・・やっと二人きりよ、亜美。あの小うるさいジャッジももういないわ」
「・・・私としては、さっさとけりをつけてほしいところね。もう覚悟ならできているわ」
勅使河原は、未だ鋼線で縛り上げたままの氷上をプールサイドへと横たえながら、
「そんなに焦ることはなくてよ、亜美。夜はこれからだし、せっかくだから一晩中楽しまなくちゃ」
「冗談じゃないわ!!」
氷上が、心底嫌悪に顔を歪めながら、勅使河原を剣のような瞳で睨み返した。
「あなたなんかに凌辱されるくらいなら、ここで舌を噛み切ってでも死んでやるわよ」
勅使河原が、ぐいっと氷上の顎を掴む。
「・・・人間ってね、そう簡単に自殺できないのよ。特に、舌をかみ切るなんて、普通じゃ絶対無理よ」
「・・・くっ」
「大丈夫よ、亜美・・・あなたに相応しい最期は、私がきちんと演出してあげるから」
「・・・誰が私のことを名前で呼んでいいって言ったのよ」
氷上は勅使河原の手から逃れるように顔を振り向かせると、
「馴れ馴れしく人の名前を呼ばないで!」
たとえ戦いには敗れたとしても、身も心もこの女には屈したくはなかった。
しばしの間、氷上と勅使河原はお互いを見つめ返していたが、その後、先に口を開いたのは勅使河原の方だった。
「嫌われたものね・・・私も。まあ、これから自分を殺そうとする相手だから、仕方がないと言えばそうなのかもしれないけど」
嘆息交じりに呟く勅使河原に対し、
「いいえ、あなたがこれから私を殺すから・・・ではないわ。私を殺す殺さないにかかわらず、あなたとは最初から相容れない部分があったのよ」
ーこの女は、最初から人として壊れてしまっているー
この女を見た瞬間から感じたことだった。
勅使河原に会う前に邂逅した一条紗耶香や天内葉月の方が、まだ人間味を感じられた気がしたのだ。
「あなたは・・・本当は空っぽなのよ、勅使河原マヤ」
空っぽという言葉を聞いた途端、勅使河原の表情が変わった。
「空っぽ・・・ですって?」
「ええそうよ」
氷上は、最後とばかりに、勅使河原に言葉の爆弾を投げつけた。どうせ最後なら、この後どれだけ嬲られようが言ってやるんだー
「あなたは中身のない伽藍洞ー空っぽのお人形さんよ」
次の瞬間、勅使河原は氷上の首に手をかけていたー
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