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第3章 虚ろなる人形

第108話 戦慄・・・

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「・・・んああっ!!」
 氷上は、突然左腕に違和感を感じ、勅使河原から離れる。
「・・・何、今の感じは」
 左腕が引っ張られる感触があった。
「フフフ・・・氷上さん。どうかしたのかしら?顔色が悪いわよ」
 氷上の動揺ぶりを見てさも愉快気に笑みを浮かべる勅使河原。
「・・・あなた、何をしたの?」
 氷上は、勅使河原を鋭く睨みつけた。相手の余裕ぶった口調がますます気に入らなかった。
 氷上の腕に、何かが絡まったようなーおそらく鋼線なのだろうがー違和感がある。しかし、左腕を確認してみても、その違和感の正体は掴めずにいた。
「鋼線・・・ではないわよね」
 少なくとも、鋼線を操るタイミングは与えなかった。勅使河原に攻撃されるとまずいと考えていたからだ。とにかく、勅使河原との距離を縮め、近接し続けることで、自分の優位性を確保し続けようとしたのだ。
 だが、今、左腕には何かに引っ張られるような圧力が加わっている。最初は鋼線かと思い、それが左腕に巻き付いたのかとも思ったが・・・。
「フフフ・・・」
 ようやく、氷上との距離を取ることができた勅使河原が、いつも通りの余裕綽々と言った様子で、
「ここで私が、簡単に種を明かしてしまえば面白くはないでしょう?」
「・・・それもそうよね」
「ただ、ヒントを上げるなら、私は鋼線だけしか扱えないというわけでもないのよ」
「・・・」
 擬体化に伴い、各人に与えられた武器種は、基本的には1つのはずだ。例えば、氷上に与えられたのは鉤爪だが、それ以外は使用できない。擬体化により使えるようになる武器は、それ自体がオーダーメイドに近い性質を持っており、本人にしか扱えず、また、本人も他人のものを扱うことはできないのだ。
「・・・戦いの中で、確認するしかないようね・・・あなたの武器の本当の力を」
「ええ、そうしてくださいな・・・私があっさりと答えを教えたらつまらないでしょう?あなたにとっては生涯で最後の大勝負になるんですもの。せいぜい楽しんでいただかなければ」
 勅使河原の右腕がゆっくりと持ち上げられる。
「させないわよ!!」
 氷上が、勅使河原に再び飛びかかった。どんな攻撃手段があるにせよ、この女に好き勝手な行動をされるとまずいことになる。動きは封じなくてはー
 だが、その時ー
「氷上亜美、擬体破損率11%」
「・・・なっ!?」
 ジャッジの無情な音声が公園内に響き渡るとともに、氷上は、自らの左腕が「切断」されたのを感じたーもちろん、実際には左腕が切断されたわけではないのだが、擬体ごしに、その「衝撃」だけははっきりと伝わってきた。
「あら、今度は私の方がリードしてしまいましたわね、氷上さん・・・私の擬体破損率は5%、あなたは今ので11%・・・」
 クスクス、と笑いながら、従容とした足取りで、勅使河原が近づいてくる。
「・・・っ!?」
 ーどういうこと?いったい何が起こったというの・・・?ー
 氷上の内心の焦りを見透かしたかのように、余裕に満ちた表情で迫ってくる勅使河原に、改めて戦慄を覚える氷上だった。
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