テキトーすぎな《ユグドラシル》の皆さん

日向荘にて（第8話）

「杏里ちゃん、まずは最初、イメージトレーニングからやって行こうか」

　早苗が、やはり間延びした口調で杏里に対してこれからの方針を語っていくー。

　治癒系の術の使い手である杏里にとって、いきなり術を遠距離に飛ばすというのは、かなりの荒業だ。近接して相手を治癒することに長けていたとしても、術そのものを遠距離まで効果を及ぼすレベルにするには、初心者だとかなりの努力を必要とするだろう。

　したがって、まずは、自分が遠く離れた対象に対して、術を届けることをイメージすることから始めようというわけだ。

「イメージトレーニング・・・ですね。イメージするのは得意な方ですが・・・」

「なら、上達するのは早いんじゃないかなぁ。私も、最初はイメージするのから始めたからねぇ。特に、ちょうちょを飛ばすのとか」

　右手の鉄扇を前へと突き出し、微笑しながら早苗は自身の経験を語り始める。鉄扇士と名乗っていることで、主に近接系専門と思われがちな早苗だったが、実際には遠距離に効果を及ぼすタイプの技を得意としている。

　そして、その属性は、幻や毒ー直接相手にダメージを与えるというよりも、弱体化や妨害をメインに行うのが早苗の戦い方だった。

「でも・・・私の能力は、属性こそ違っても、性質としては杏里ちゃんに近いんじゃないかなぁ。私だってこれだけできるようになったんだから、杏里ちゃんならすぐだと思うよ」

「そうだといいのですが・・・」

　杏里は、自身の魔力をある程度塊にして、それを遠くへ飛ばすさまをイメージしてみる・・・が、っそのイメージは漠然としたものにしかならず、思わずため息をついてしまう。

「・・・やはり、実際に何かで試してみないと難しいかもしれません・・・」

　そんな杏里に、早苗が、

「それじゃあ、実際に試してみようかな・・・杏里ちゃんの能力は治癒系のものだから、攻撃系のものとは違って、対象に対して悪影響を及ぼすことは少ないだろうし」

「実際に試す・・・ということは、何か目標になるものがあるんですか？」

　小首をかしげる杏里に対して、早苗は得意げな顔をして、

「あるにはあるよ～魔法生物の一種で、ちょっと特殊なんだけどね」

「・・・？」

「ただ、効果は確認できるでしょう・・・私がちょっと用意してくるから、杏里ちゃんはしばらくの間、ここで待っていてくれるかな？」

　杏里が少し悪戯じみた笑みを浮かべた。その笑みに、多少不安になる杏里だったが、それでも実際に試すことができるんだったら、やってみるべきだろう。

「わかりました・・・ここでお待ちしてますね、早苗さん」

「うん、ちょっと待っててね・・・」

　早苗が小走りに日向荘に入っていくー。