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咲那・全裸の逃避行(第26話)

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「あいつらはまだ、気づいてないみたいだな・・・」

 幹線道路を挟んだ反対側の森へと逃れようとする咲那ー。

「とはいえ、さすがに探し続けていればあっちにいないことに気が付くしな・・・かといって、この山の頂上では、さらに逃げ場がなくなるし・・・」

 おそらく、捜索隊もいつまでたっても咲那が見つからないとなれば、さらに捜索範囲を広げようとするだろう。そうなれば、上の方へと逃げるのは、却って逃げ場をなくすことを意味する・・・。

「逃げ場所が制限される山の頂上よりも、山の中で探している連中をまきながら逃げ回るくらいしかなさそうだな・・・」

 捜索隊は、引き上げる気配は一向にない。このままでは深夜まで捜索が続く恐れもあるー。

「こりゃ、完徹になりそうだね、マジで・・・」

 溜息をつきつつ、さらに頭をぼりぼりとかきつつ・・・と。

「・・・!」

 咲那は、またも背後にあの気配を感じた。

「・・・昨日の今日で、また現れやがったな、雑魚女神め」

 白銀の鎧に身を包んだ黒髪の女ーまたもヴァルキリーが背後に現れたのだ。

「・・・今回も背後から近づこうってか・・・ったく、女神さまってのは実に悪趣味な人種だな・・・いや、神種か」

 咲那の挑発的な嫌味にも余裕の笑顔を浮かべたままのヴァルキリー。

「・・・どうやら、わたくしはあまり歓迎されてはいないようですね」

「当たり前だ。人が死んでからその魂を掠めとろうとしてる連中なんざ、こっちから願い下げだ」

 ヴァルキリーを冷ややかに見つめながら、咲那は自然と刀を持つ手に力を込め始めた。

「お待ちなさい、咲那さん・・・わたくしは別に戦おうというわけではありませんよ、それに・・・」

 ヴァルキリーは、森の中の複数の明かりにちらっと眼をやり、

「今ここで騒ぎを起こして困るのは、他でもなくあなたなのでは?」

「む・・・」

 確かにそうだ。ここで男ども(捜索隊のすべてが男性かはわからないが)に見つかってほぼ全裸の姿を見られたのでは、何のために逃げ回り、さらには鏡香に服を持ってくるように依頼したのかわからなくなる。

「・・・てめえはいいよな、服だろうが、その鎧だろうが、イデアの物質化能力で一発だしよ・・・」

 それは純粋にうらやましいと思った。彼ら神族は、基本的にこの世にある物ならイメージするだけで物質化したりその現象を再現できると聞く。イデアと呼ばれるあらゆるものの雛型となるものにアクセスし、それをもとにして物質化を行うのだ。その気になれば、人間の復元も可能だろうが、ヴァルキリーの神格は低いので、そこまでの力はないらしい。せいぜい死者の魂を選定するくらいのことしかできないはずだ。なので、昨日現れた時もそうだが、こいつらは生きている人間に対しては、何もできることはないはずなのだが・・・。

「でしたら、あなたの衣類を今、この瞬間に作成して差し上げてもよろしいのですが」

 にっこりと微笑みながら、ヴァルキリーが申し出てきた。

「・・・誰がてめえの施しを受けるといった、この雑魚女神・・・失せろと前に行ったはずだ」

 尤も、咲那の方には厚意を受けるつもりはないらしい・・・本当に厚意なのかは疑問だが。

 この手の連中は、下手に信用すれば後々まずいことになるー油断なく相手を見据えながら、咲那は再び同じ言葉を発した。

「失せろ!」

 ーと。
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