テキトーすぎな《ユグドラシル》の皆さん

咲那・全裸の逃避行（第18話）

　咲那が洞穴の中に身を隠していたころー。

「ふう・・・」

　一方の鏡香は、目的の浮遊小島に行くため、近くを通る飛行船に乗っていた。もっとも、この飛行船自体は、近くにある少し大きな浮遊島へ着陸予定だ。そこからさらに別な飛行艇に乗り、咲那のいる浮遊小島を目指すことになるー。

　ただ、その浮遊小島に行けるのは、早くても明日の朝となるので、今晩は近くで宿をとることになりそうだ。

「それにしても・・・咲那さんも心配だけど、モリガンちゃんどうしたのかしら・・・？」

　カイトと杏里を大樹へと逃がした後、モリガンからは連絡がない・・・それどころか、こちらからの通話にも応じない・・・。

　彼女に限って、滅多なことは無いとは思うが、ただ例の紫の飛空鎧が徘徊している浮遊大陸に取り残される形となっている以上、不安は残る・・・。

「確か、燎原リンイェンというチームだったわよね・・・東方の」

　そのチームの名前なら聞いたことがある。東方でも有数の実力を誇っており、まれにではあるが、西方まで出向いてくることもあるとのことだった。

「・・・東方については、私もわからないことが多いし、何もなければいいけど・・・」

　東方のことについては、少しだけだが、以前、世羅という女性とやり合った後に聞かされたことがある。長い黒髪に、着物姿、さらには鬼の面を被ったその女性との戦いは、ほぼ互角ーどちらが勝っても負けてもおかしくはない勝負だった。結果として、鏡香の方に軍配が上がったものの、ほとんど辛勝だったと言わざるを得ない。あそこまで互角にやり合った人物は初めてだった。

　世羅は、敗れた後に初めて鬼の面を外したーその容貌は、まさに絶世の美ーただし、額には無残な傷跡があったー。

　世羅自身も、その出自は東方だったらしい。彼女を倒した後、少しだけ会話をする機会があったのだが、その際に燎原リンイェンのことも少し聞かされたのだ。

　当然、そこに所属している紫の牙ズーツァオリャについても。

「確か、今の乗り手は、代替わりして2代目だったとか」

　初代の乗り手はもう高齢ということで、その娘に紫の牙ズーツァオリャを託したとのことだった。その2代目も、初代に勝る劣らずとの名声で、今まで西方の強敵達を何人も下してきたのだという。

　紫の牙ズーツァオリャが、無敵の飛空鎧だと言われる所以がそこにある。まさに「鎧袖一触」の強さなのだ。

「うちのチームでは、短期間だけ咲那さんが飛空鎧に乗っていたらしいけど・・・」

　刀だけの勝負ならともかく、飛空鎧同士の戦いとなれば、いかに咲那と言えども紫の牙ズーツァオリャ相手にどこまで食い下がれるかわからない。

「とにかく、まずは咲那さんに服を届けて、それからモリガンちゃんの様子を見に行くしかないわね」

　連絡が取れないなら、直接惑星Σ-11まで赴くしかないだろう。

　咲那と合流した後、晶たちに連絡を取り、モリガンの状況を確認しに行くことになりそうだー。