上 下
335 / 464

咲那・全裸の逃避行(第5話)

しおりを挟む
 月明かりが森と泉を照らし出す中、お互いの腹を探り合うかのように見つめ合う咲那とヴァルキリー。

 美しい二人の娘は、一糸まとわぬ艶めかしい肢体を泉の上で晒しながら、対峙していたー。

 ーいかに下級とはいえ、神は神だからな・・・決して油断ならねえー。

 ヴァルキリーの神格は低いとされるが、それでも人間よりもはるかに高位の存在であることは否定できない。現に、目の前のヴァルキリーの体から発せられる神気は、それだけでも人間の最上級魔術者の魔力波動と同程度の圧力があるのだ。

 ー今、まともにやり合うべき相手じゃねえー。

「そんなに怖い顔をなさらないでください・・・あなたに危害を加えるつもりはありませんので」

 慇懃な口調のヴァルキリーに、いささか不快感を覚えるが、少なくとも彼女の言う通り、殺気や害意の類は確かにない。

 ただ、それはー。

「アンタらは、直接人間に手を出せないはずだ・・・ヴァルキリーの役目は、あくまでも魂の選定ーゆえに本来ならば死者しか相手にできない。だから、確かにアンタにはあたしをどうこうすることはできないーただし、それはという意味でだ」

 咲那は、ヴァルキリーを鋭く睨みつけた。

「あたしが死んだ後なら、手出しはできるーそういうことにはなるがな」

 咲那の言葉に、ヴァルキリーの口元がほんの少し歪む。一瞬のことではあるが、咲那は見落とさなかった。

「アンタ、あたしの魂でも欲しいのか」

 自分に英雄としての器があるとも思えないが、この女がこうして目の前に現れた以上、その可能性を否定することはできないー。

 咲那の静かな問いかけに、

「そうですね・・・薬師寺咲那さん。あなたのような人物は、ぜひ我が神族の眷属になっていただきたいというのが正直なところですね」

「てめえ、あたしの名前を・・・!」

 どうやら、相手はこちらのことを知っているようだ。そりゃそうか、相手は下級とはいえ、神様だもんな・・・。

「あなたがおっしゃる通り、私は直接あなたに対して手を下すことはできません・・・それは、私のエインヘリヤル達も同様です」

 ヴァルキリーは、妖艶に微笑むと、咲那に対して右手を差し出した。

「ですが・・・あなたも戦いを続ける身ーいつが来ても不思議ではないはず・・・その時は、私があなたの御霊を・・・」

「そんなつまらねえことを言いに、わざわざあたしの前に現れたのか、雑魚女神」

 剣のような鋭い眼差しで、目の前の戦乙女を睨みつける。

 月明かりが、咲那の美しい金色の髪を照らし出しているーそれは、幻想的に見えるが、一方で、咲那の怒気を受けて金色に燃え上がっているかのようだ。

「てめえに心配なんぞしてもらう必要はねえ!さっさとあたしの前から失せな」

 いつでもエクセリオンを取り出す用意はできている。この状態でことを構えたくはないが、相手の出方次第ではー。

 その時、ヴァルキリーがふぅっと、軽く息を吐いたー。



 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

ReBirth 上位世界から下位世界へ

小林誉
ファンタジー
ある日帰宅途中にマンホールに落ちた男。気がつくと見知らぬ部屋に居て、世界間のシステムを名乗る声に死を告げられる。そして『あなたが落ちたのは下位世界に繋がる穴です』と説明された。この世に現れる天才奇才の一部は、今のあなたと同様に上位世界から落ちてきた者達だと。下位世界に転生できる機会を得た男に、どのような世界や環境を希望するのか質問される。男が出した答えとは―― ※この小説の主人公は聖人君子ではありません。正義の味方のつもりもありません。勝つためならどんな手でも使い、売られた喧嘩は買う人物です。他人より仲間を最優先し、面倒な事が嫌いです。これはそんな、少しずるい男の物語。 1~4巻発売中です。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

処理中です...