上 下
307 / 464

ミケとポン太(第1話)

しおりを挟む
「はらいた~まえ、はらいた~まえ」

 不気味な声が、日向荘の玄関付近から聞こえてくるー。

「くそ、何だってんだ、いったい・・・!?」

 毒づきながら、晶は玄関を目指すーその時。

「晶君!!」

「清野!?」

 なんと、1階の廊下には、鏡香と共に咲那のもとへと発ったはずの早苗がいた。彼女も、玄関から聞こえてくる怪しげな声に気が付いたらしく、いささか不安げな表情を浮かべながら、晶に呼び掛けてきた。

「あれ・・・清野、お前さん、鏡香さんと一緒に咲那姉のところに行ったんじゃ・・・」

「あ、ああ、ええと・・・」

 すると、なぜか早苗は顔を少し紅潮させ、少し慌てたような雰囲気で言葉を濁らせた。

「うーん、咲那さんの方は鏡香さんが何とかするからって・・・」

「・・・?まあ、確かに鏡香さんなら大丈夫だろうが・・・」

 普段の早苗とはいささか異なる雰囲気に、晶も訝し気な表情を浮かべるものの、今は玄関に迫る謎の声の方が重要だ。一刻も早く、その正体を確認しなければー。

「清野、これから謎の声の正体を確認しに行くぞ」

「うん、わかった」

 早苗は、一瞬の早技で自分の武器である鉄扇を取り出すと、晶の後に続いて玄関へと向かった。

ーー

「はらいた~まえ、はらいた~まえ」

 日向荘の玄関越しに、謎の声が聞こえてくる。

「よし、開けるぞ・・・清野、準備はいいか?」

「私はOKだよ、晶君!」

 早苗が両手の鉄扇を構えたのを確認して、晶は玄関を開ける。

「誰だ!?」

 晶が玄関を開けると、そこにいたのは・・・!

 ・・・動物!?

 いや、おそらくはミケさんと同種の蟲ーそれも益蟲だろう。ただ、その姿は、とある動物・・・というか、それをかなりデフォルメ化したものに似ているといった方が正しいだろうか。

 まず、先頭にいる狸・・・みたいなやつは、ミケさんとほぼ同じ体系で、こっちも糸目。糸目タヌキというのは、あまり聞いたことがないが、そうとしか表現しようがなかった。

 その他、後ろには狐や犬、そして土竜がいるが、土竜以外はみなミケさんと同体形で糸目、唯一土竜だけが図体がでかく、グラサンをかけており、以前晶たちが「秋の領域」で出会ったベンジャミンとよく似ていたー。

「・・・」

「・・・可愛い!!」

 晶が(あきれ果てて)呆然とする中、早苗はこの動物ーもどきたちのことを気に入ったらしく、目を輝かせて見つめているー。

「・・・何だ、お前らは?」

 何となく頭痛がしてきそうな感覚を覚えながら、とりあえず先頭にいる狸ーもどきに尋ねてみる。

「オレ様はポン太ってんだ」

 狸もどきは、偉そうにふんぞり返りながら名を名乗った。

「こいつらは、オレ様の舎弟だぜ」

 なぜだか自慢げに、後ろの動物たちを紹介する狸もどきことポン太。そして、なぜか全員「ふふふ・・・」と不敵に笑っている。

「・・・はらいた~まえって、叫んでいたのはお前らか・・・何なんだ、お前さん達は」

 額を抑えながら、晶は尋ねた。

 ミケさんは、お騒がせ魔女であるモリガンと異なり、全く役に立たない半面、面倒ごとは一切起こさない。まあ、「起こさない」というより、「単に何もしない」という表現が正しいのだが。

 しかし、今回のこいつらの登場を見ると、どちらかというとこれは「面倒ごと」である。

「なあに、ここにいるオレ様の知り合いにちょいと用事があるってだけだぜ」

 ふふん、と笑いながら、なぜか自信満々に応じるポン太。

「・・・」

「いるんだろ、ここにミケのやつが?」

「うん、いるよ、ミケさん」

「あ、清野・・・!」

 そう言えば、早苗は、ミケさんがこいつらの声に怯えているのを知らなかった。だから、あっさりとミケさんの所在をばらしてしまったのだ。

「ふふふ、ようやく見つけたぜ、ミケ・・・もう逃げられねえぜ、ベイベー」

 ・・・なんか、変に恰好をつけながら、ポン太が高笑いを始める。それにつられてか、後ろの舎弟たちも笑い始めた。

「・・・ミケさんよ、お前さん、こいつらと何があったんだ・・・?」

 頭が痛くなりそうな気分になりながら、この場にいないミケさんに問いかける晶。すると、ポン太自身がここへ来た目的を語り始めた。

「はらいた~まえ、はらいた~まえ・・・カネはらいた~まえ」

 ・・・なるほど、そういうことか。

 どうやら、祓うのではなく、払うであり、その対象は、悪魔ではなくカネだったようだー。

「借金取りか・・・」

 晶は盛大にため息をついたー。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です

岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」  私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。  しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。  しかも私を年増呼ばわり。  はあ?  あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!  などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。  その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。

【完結】後妻に入ったら、夫のむすめが……でした

仲村 嘉高
恋愛
「むすめの世話をして欲しい」  夫からの求婚の言葉は、愛の言葉では無かったけれど、幼い娘を大切にする誠実な人だと思い、受け入れる事にした。  結婚前の顔合わせを「疲れて出かけたくないと言われた」や「今日はベッドから起きられないようだ」と、何度も反故にされた。  それでも、本当に申し訳なさそうに謝るので、「体が弱いならしょうがないわよ」と許してしまった。  結婚式は、お互いの親戚のみ。  なぜならお互い再婚だから。  そして、結婚式が終わり、新居へ……?  一緒に馬車に乗ったその方は誰ですか?

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

処理中です...