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カイトと杏里、大樹へ(第13話)
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「僕は・・・体力が回復したら、一旦蒼き風に戻るよ」
「そうか・・・そうだな。それがいいだろう」
カイトとしては、本音では先輩たちを殺した紫の機体を追いかけたいのだが、実際に以前戦ってその実力の差はよくわかっていた。多分、今また勝負を挑んだとしても、やつを倒すことはできないだろう。下手をすれば、今度こそ完全な返り討ちに遭う可能性もある。
せっかく、杏里やモリガン達が助けてくれた命だ。無駄にはできない。せめて、体力が回復し、飛空鎧乗りとして腕にさらに磨きをかけてからでなければ、とてもではないが太刀打ちできそうもないー。
それに、チームのメンバーに、二人の先輩の死を知らせなくてはならないだろう。それ自体は、生体端末で知らせることも可能だが、やはり直にメンバーの前に出向いて説明した方がよさそうだ。
家族同然で一緒にやってきただけに、この酷な事実を打ち明けるのはつらいが、事実は事実として受け入れざるを得ないー。
「・・・」
再び、しばしの沈黙が訪れるー。
しばらくして、その沈黙を打ち破ったのは、鏡香の声だった。
「早苗ちゃん・・・ちょっといいかしら?」
「あ、鏡香さん・・・」
部屋の入り口に、鏡香が立っていた。今までの話は聞いていたわけではないようで、部屋の前に来るなり、みんなが暗い雰囲気に包まれていたので、何事かと首をかしげていた。
「みんな、どうかしたの?」
「あ、いや、こっちのことなので、どうか、お構いなく」
カイトが、慌ててぎこちなく笑みを浮かべる。
鏡香も、おそらくはカイトと杏里がこちらへ逃げてくる事情について話になり、その過程で、みんなが元気をなくすような話題になったのだろうと推測した。ただ、カイトに続き、他のみんなも表情を戻そうとしているのを見て、それ以上は無理に追求しないようにした。
「そう・・・何か、困ったことがあれば、遠慮なく言ってね、カイト君、杏里さん。この日向荘を我が家だと思っていいから」
鏡香は、穏やかな笑みを二人に向けるー。
「はい、ありがとうございます」
何とか、4人ともいつもの調子を取り戻したようだ。
「ああ、そうそう、早苗ちゃんに用があるんだったわ」
それから、思い出したかのように、鏡香が手をポンと叩き、晶と早苗に問いかけた。
「早苗ちゃん、今、モリガンちゃんと連絡がとれるかしら・・・?ちょっと困ったことになって」
モリガンがどうしたというのだろう。晶と早苗が顔を見合わせると、
「実は、本当に大変なのは、咲那さんの方なのよね・・・その・・・ちょっと男性には話しにくい事情で、SOSを求めているのよ」
「男性に話しにくい事情?」
あの咲那が、そんな事情でモリガンを呼ぶというのも珍しいーというか、今までこんなことはなかった。
「SOSってことは、咲那姉がかなり危ないってことですよね?」
あの咲那がSOSを寄こすくらいだ。相手は相当の強敵なのだろうかーしかし、男性には話しにくい事情というのが気にかかるー。
「男性には話せないっていうことは、江紀兄ももちろん駄目っすよね?」
江紀も咲那も、自身の都合で一時大樹を離れて別行動している。二人一緒でコンビを組んで活動していたことが多かった江紀と咲那だが、今回は単独行動していたらしい。
「そうねえ、だから、悪いのだけれど、晶君はこの件は遠慮してもらえるかしら?」
頬に手を当てて、はあっとため息をつきながら、鏡香が晶にお願いした。
「オレはいいですよ・・・オレはここで、しばらくミケさんと一緒にカイトと水無と話してますから」
・・・ミケさんは完全に酔いつぶれて眠っていたが・・・。
「お願いね。それじゃあ、早苗ちゃん、ちょっと部屋の外まで来てくれるかしら・・・?」
「うん、わかった」
咲那に何があったのか・・・晶も気になるところではあるが、男性には話しにくいことなら、自分が関わるべきではない。
部屋の外に出て行く二人を見送り、再び晶はカイトや杏里との会話を楽しむことにしたー。
「そうか・・・そうだな。それがいいだろう」
カイトとしては、本音では先輩たちを殺した紫の機体を追いかけたいのだが、実際に以前戦ってその実力の差はよくわかっていた。多分、今また勝負を挑んだとしても、やつを倒すことはできないだろう。下手をすれば、今度こそ完全な返り討ちに遭う可能性もある。
せっかく、杏里やモリガン達が助けてくれた命だ。無駄にはできない。せめて、体力が回復し、飛空鎧乗りとして腕にさらに磨きをかけてからでなければ、とてもではないが太刀打ちできそうもないー。
それに、チームのメンバーに、二人の先輩の死を知らせなくてはならないだろう。それ自体は、生体端末で知らせることも可能だが、やはり直にメンバーの前に出向いて説明した方がよさそうだ。
家族同然で一緒にやってきただけに、この酷な事実を打ち明けるのはつらいが、事実は事実として受け入れざるを得ないー。
「・・・」
再び、しばしの沈黙が訪れるー。
しばらくして、その沈黙を打ち破ったのは、鏡香の声だった。
「早苗ちゃん・・・ちょっといいかしら?」
「あ、鏡香さん・・・」
部屋の入り口に、鏡香が立っていた。今までの話は聞いていたわけではないようで、部屋の前に来るなり、みんなが暗い雰囲気に包まれていたので、何事かと首をかしげていた。
「みんな、どうかしたの?」
「あ、いや、こっちのことなので、どうか、お構いなく」
カイトが、慌ててぎこちなく笑みを浮かべる。
鏡香も、おそらくはカイトと杏里がこちらへ逃げてくる事情について話になり、その過程で、みんなが元気をなくすような話題になったのだろうと推測した。ただ、カイトに続き、他のみんなも表情を戻そうとしているのを見て、それ以上は無理に追求しないようにした。
「そう・・・何か、困ったことがあれば、遠慮なく言ってね、カイト君、杏里さん。この日向荘を我が家だと思っていいから」
鏡香は、穏やかな笑みを二人に向けるー。
「はい、ありがとうございます」
何とか、4人ともいつもの調子を取り戻したようだ。
「ああ、そうそう、早苗ちゃんに用があるんだったわ」
それから、思い出したかのように、鏡香が手をポンと叩き、晶と早苗に問いかけた。
「早苗ちゃん、今、モリガンちゃんと連絡がとれるかしら・・・?ちょっと困ったことになって」
モリガンがどうしたというのだろう。晶と早苗が顔を見合わせると、
「実は、本当に大変なのは、咲那さんの方なのよね・・・その・・・ちょっと男性には話しにくい事情で、SOSを求めているのよ」
「男性に話しにくい事情?」
あの咲那が、そんな事情でモリガンを呼ぶというのも珍しいーというか、今までこんなことはなかった。
「SOSってことは、咲那姉がかなり危ないってことですよね?」
あの咲那がSOSを寄こすくらいだ。相手は相当の強敵なのだろうかーしかし、男性には話しにくい事情というのが気にかかるー。
「男性には話せないっていうことは、江紀兄ももちろん駄目っすよね?」
江紀も咲那も、自身の都合で一時大樹を離れて別行動している。二人一緒でコンビを組んで活動していたことが多かった江紀と咲那だが、今回は単独行動していたらしい。
「そうねえ、だから、悪いのだけれど、晶君はこの件は遠慮してもらえるかしら?」
頬に手を当てて、はあっとため息をつきながら、鏡香が晶にお願いした。
「オレはいいですよ・・・オレはここで、しばらくミケさんと一緒にカイトと水無と話してますから」
・・・ミケさんは完全に酔いつぶれて眠っていたが・・・。
「お願いね。それじゃあ、早苗ちゃん、ちょっと部屋の外まで来てくれるかしら・・・?」
「うん、わかった」
咲那に何があったのか・・・晶も気になるところではあるが、男性には話しにくいことなら、自分が関わるべきではない。
部屋の外に出て行く二人を見送り、再び晶はカイトや杏里との会話を楽しむことにしたー。
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