上 下
251 / 464

アサギと黒羽(第20話)

しおりを挟む
「ブラーナって、東方出身だったの?」

 ブラーナの恋人であるカルミナすら知らされていなかった事実ー。

「東方出身者は、お主らと異なり気の扱い方が異なる。その気の流れを探っていけば、その者の出自もわかるというものだ」

 アサギは、本来ならば「同胞」ともいうべきブラーナの端正な顔を見つめながら、

「顔立ちは、東方というよりは西方出身者のようだがな・・・」

「そうよ」

 ブラーナが、眼鏡をはずしながら答えた。彼女のストレートの黒い髪が、天空世界の強めの風に激しく靡く。

「直接の両親は、どちらも西方出身者らしかったんだけど、二人とも、私を生んですぐに亡くなったので、その後、幼い私は、東方にいる今の両親に引き取られた。そこで、東方の戦闘技術を学んだのよ」

 そして、アサギの太刀を一瞥し、鞘に収まったままの自らの太刀を前に突き出した。

「私の武器が、アンタの太刀と似ているのも、私が東方で学んだから」

「だろうな」

 アサギも納得したようだった。

「先ほども言った通り、東方では気の使い方が、西方の者達とは異なるのでな・・・立ち振る舞いや雰囲気などから、ある程度修練した者であればすぐにわかる」

「ブラーナ、ってことはアンタ・・・もしかして黒羽のことも」

 カルミナが、そのことに思い至って、ブラーナに確認しようとする。

「ええ、多少はね・・・黒羽の使っている術が、少なくとも私が暮らした東方では禁忌とされていることは、知っていたわ・・・それゆえに、仲間でありながら警戒もしていた」

 時折、ブラーナと黒羽の間に微妙な空気が流れることがあったが、こういうことだったのか・・・カルミナは、腕を支えている黒羽の横顔を思わず見つめた。

「カルミナ・・・隠していてごめんなさい」

 黒羽がか細い声でカルミナに謝る。

「い、いや、謝る必要なんてないよ?黒羽・・・」

 カルミナにしてみれば、この世界に邪術師と呼ばれている存在がいて、しかも彼らが東方では禁忌とされているという事実でさえ、初めて知ったことだ。別に隠す隠さないの問題でもなかった。

「でも、あくまでもそれは東方だけの話だよな・・・現に、黒羽は今まで何もしてこなかったぞ」

「たまに、戦闘に出る時くらいだ、こいつが能力を使うのは」

「翔、卓、それは・・・」

 黒羽をかばおうとした翔と卓を、黒羽が止めようとする。その態度に、アサギがかすかに笑った。

「邪術師の厄介なところは」

 アサギがゆっくりと立ち上がりながら、邪術師に関するについて、語り始めた。

「本人の意志とは関係なく、人に害をなしてしまう可能性が高いということだ」

 その言葉に、黒羽とブラーナを除く全員が息を呑んだー。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です

岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」  私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。  しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。  しかも私を年増呼ばわり。  はあ?  あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!  などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。  その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

【短編】婚約破棄したので、もう毎日卵かけご飯は食べられませんよ?

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
ふふん♪ これでやっとイチゴのタルトと、新作の二種類の葡萄のトライフル、濃厚プリンが食べられるわ♪) 「もうお前の顔を見るのもウンザリだ、今日限りで貴様とは婚約破棄する!」 (え?) とあるパーティー会場での起こった婚約破棄。政略結婚だったのでアニータはサクッと婚約破棄を受け入れようとするが──。 「不吉な黒い髪に、眼鏡と田舎くさい貴様は、視界に入るだけで不快だったのだ。貴様が『王国に繁栄を齎すから』と父上からの命令がなければ、婚約者になどするものか。俺は学院でサンドラ・ロヴェット嬢と出会って本物の恋が何か知った! 」 (この艶やかかつサラサラな黒髪、そしてこの眼鏡のフレームや形、軽さなど改良に改良を重ねた私の大事な眼鏡になんて不遜な態度! 私自身はどこにでもいるような平凡な顔だけれど、この髪と眼鏡を馬鹿にする奴は許さん!)  婚約破棄後に爆弾投下。 「我が辺境伯──いえトリス商会から提供しているのは、ランドルフ様の大好物である、卵かけご飯の材料となっているコカトリスの鶏生卵と米、醤油ですわ」 「は?」 これは鶏のいない異世界転生した少女が、あの手この手を使って再現した「卵かけご飯」のお話?

処理中です...