上 下
180 / 464

カルミナとブラーナ(第15話)

しおりを挟む
 黒羽が発生させた魔力の渦が、はるか南東の方角にいた害蟲達に影響を与え始めたー。

 黒羽の戦闘系以外の能力は「距離に影響されない」という特徴がある。これにより、黒羽は、直接遠く離れた害蟲達に「撒き餌」を与えてこちら側におびき寄せることができるのだ。今回の「撒き餌」は、害蟲達が好む魔素をふんだんに含んだ魔力の渦だ。ただし、この渦自体には害蟲の動きを制限するだけの力はない。

「ふう・・・」

 黒羽が軽く息をつく。彼女の癖の一つだ。著しく魔力を消耗するというわけでもないのだが、こうして息をつくことで、なぜか能力を安定させることができる。

「害蟲達が「撒き餌」に引っかかりました。あと15分ほどで、こちらに到着します」

 掌の黒い羽根をちらっと一瞥してから、黒羽が淡々と報告する。

「15分か・・・距離から考えても、思ったより早いな」

「確か、南東5104だったっけ?それくらいだと、オレたちが今まで相手にしてきたクラスのやつらなら、その倍以上の時間はかかりそうなものだけどな」

 翔と卓が、害蟲達の予想到達時間が早いということを訝しんだ。

「まさか・・・害蟲達の力が強まっているとか」

 ブラーナが小首をかしげながら、カルミナの方を振り返った。

「いや、でも魔力乱流自体は収まりつつあるんでしょ?なのに力が強まるとかあり得るの?」

 カルミナの指摘と疑問ももっともだ。黒羽によれば、魔力乱流自体は収まりつつあるはずだった。要は、害蟲達が強化される要因であるものが収束しつつある中、なぜ移動速度が向上しているのか・・・。

 まさか、「撒き餌」につられて速度が上がったという程度の話でもあるまい。

「おそらくですが」

 しばし沈黙していた黒羽が口を開く。

「B級クラスの強い個体の影響かと思われます」

 黒羽の指摘に、ブラーナが気が付いたようだ。

「なるほどね・・・いるだけで周囲の仲間たちに影響を及ぼす種族がいるって聞いたけど、こいつがそれってわけか」
 
 いわゆる「支援効果」を持つ害蟲のことだ。人間の軍隊に例えれば、指揮官がいるのといないのとで、部隊の士気にかかわるのと同じようなものである。

「他は有象無象の群れであったとしても、その親玉クラスがいる限り、思わぬ相乗効果で強敵となる恐れもあるってわけね」

 実際、今回戦う害蟲たちは、単体ならそんなに強い連中ではない。それは、黒羽からの報告や近づいてくるそいつらの気配からも十分把握できる。

「敵の大将を叩くのが先決かもね」

 カルミナは、そう独り言ちると、翔と卓の方を振り返った。B級クラスの相手なら、この二人に任せた方がよさそうだ。

「まあ、オレらの出番ってわけだな」

「久々に大暴れできるぜ」

 二人はやる気満々のようだ。二人とも、目が炯々と輝いている。

「もちろん、黒羽、アンタにも期待してるわよ」

 そして、黒羽に対しても軽くウィンクする。

「信頼にこたえて見せます」

 即答する黒羽。一瞬、近くにいたブラーナの顔が曇ったが、カルミナに気づかれる前にいつもの「いたずら好きなお姉さん」風の笑みに戻る。

「・・・そろそろ来ます」

 黒羽が静かに告げる。黒羽が顔を向けた方角に、皆の視線が集まった。

「それじゃあ、行くわよ、みんな!」

 おう!の掛け声とともに、5人は一斉に、飛び掛ってくる害蟲の群れへと突撃したー。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

スキル【合成】が楽しすぎて最初の村から出られない

紅柄ねこ(Bengara Neko)
ファンタジー
 15歳ですべての者に授けられる【スキル】、それはこの世界で生活する為に必要なものであった。  世界は魔物が多く闊歩しており、それによって多くの命が奪われていたのだ。  ある者は強力な剣技を。またある者は有用な生産スキルを得て、生活のためにそれらを使いこなしていたのだった。  エメル村で生まれた少年『セン』もまた、15歳になり、スキルを授かった。  冒険者を夢見つつも、まだ村を出るには早いかと、センは村の周囲で採取依頼をこなしていた。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...