上 下
145 / 464

チーム《ユグドラシル》と教会騎士たち(第9話)

しおりを挟む
 晶とモリガンが攻勢に出るー。

「晶、わしがバックアップする。攻撃は頼むぞな」

「わかった!」

 モリガンの両手から魔力が放たれる。その魔力は、晶の体にまとわりつき、彼の防御力を著しく高めた。敵の攻撃能力が完全にわかったわけではない以上、思わぬ攻撃を受ける可能性もある。モリガンは、少しでも前衛で戦う晶の守りを補強しておく必要があると判断したのだ。

「おらあ!」

 晶の魔笛剣が蟲憑きを捉えたーかのように見えた。しかし、次の瞬間ー!

「・・・!何だと!?」

 蟲憑きが目の前から消えた・・・?魔笛剣は、今まで蟲憑きが立っていた場所を虚しく斬りつけただけだった。当然ながら、手ごたえは全くなかった。

「まさか、瞬間移動もできるのか、あいつ」

 晶が素早く周囲を見回す。だが、肝心の蟲憑きの姿はどこにも発見できなかった。

「・・・!晶、そいつの能力は瞬間移動ではない!!」

 モリガンが何かに気が付いたのか、晶に注意を促しつつ、素早く次の術式を構成し始めた。

「斬れぬ体にして、んじゃよ」

「・・・!!」

 斬れない体だと・・・?

 確かに、今こちらが放った斬撃には全く手ごたえを感じなかった。しかし、普通に回避したという感じではない。そもそも、姿・・・。

 ・・・姿が、見えない・・・?

「奴は、まだお主の目の前におるんじゃ。多分、体そのものを、完全に魔力化して逃れたんじゃろう」

 魔力化した・・・?

 そう言えば、高度な魔法の中には、自身の肉体そのものを状態変化させてさせてしまうものがあると、昔誰かから聞いたことがある。例えば、体を液体化するとか、気体にするとか・・・。

 見た感じ、液化したわけではない。ならば・・・。

「自分の体ーというか、憑りついた人間の体を魔力の霧に変えたってのか・・・?」

「その通りじゃ・・・よく周囲の魔力の波動を探ってみぃ。姿は消えたはずなのに、濃度はかわっておらんではないか」

 普段はチームの問題児とはいえ、さすがは「秋の領域」最大の魔女殿である。魔術関連のことなら彼女の右に出るものはいない。

「・・・なるほどな。状態変化系の魔法を使う蟲憑きか・・・」

 尤も、それだけではまだこいつに知性があるのかどうかは判別できない。蟲そのものの能力ではなく、憑りついた人間の能力を蟲が本能的に使用したという可能性も捨てきれないからだ。

 だが、これほど高度の魔法を使いこなすとなればー。

「この蟲憑き、知性がある可能性が高いぞ」

「そうじゃな」

「つまり、頭のいい蟲憑きさんということだね」

 二人の戦いを見守っていた早苗が、今度は自分も参戦しようと、自身の鉄扇を構えた。

「霧ーつまりは気化する相手なら、私の出番かな、晶君」

 右手の鉄扇で口元を隠しつつ、左手の鉄扇を前方に突き出しながら、早苗は戦いの場に躍り出ようとする。口元が鉄扇で隠されているために、直接の表情は読み取りにくいが・・・目元は確認できた。

 おそらく、彼女は微笑んでいるーとはいっても、それは獲物を前にした猟犬の如く、危険さに満ちた微笑みであった。気が付いた者は、おそらく背筋がゾクリとするような・・・怖い微笑み。

 和泉鏡香とはまた違った怖さと残酷さを含み、さらには彼女特有の無邪気さもブレンドされた笑いー。

 だからこそ、

「ああ、わかった」

 晶がその場を早苗に譲る。

「ここは任せる、清野」

「うん」

 早苗が前に進み出たー。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

スキル【合成】が楽しすぎて最初の村から出られない

紅柄ねこ(Bengara Neko)
ファンタジー
 15歳ですべての者に授けられる【スキル】、それはこの世界で生活する為に必要なものであった。  世界は魔物が多く闊歩しており、それによって多くの命が奪われていたのだ。  ある者は強力な剣技を。またある者は有用な生産スキルを得て、生活のためにそれらを使いこなしていたのだった。  エメル村で生まれた少年『セン』もまた、15歳になり、スキルを授かった。  冒険者を夢見つつも、まだ村を出るには早いかと、センは村の周囲で採取依頼をこなしていた。

処理中です...