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その頃の日向荘・再び(前半)

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 晶たちがベンジャミンの家にお世話になっていた頃ー。

 日向荘では、久しぶりの「夫婦水入らず」の状態で、奏多と鏡香が過ごしていた。

 夕暮れの微睡みから目覚めた鏡香は、さっそく夕飯の支度に入る。奏多はといえば、万が一の時のために、日向荘周辺の魔力変動を察知できるように、前にモリガンに調整してもらった魔法装置の様子を確認していた。

「今のところ、何も問題はなさそうだね。大きな案件を片付けてしまったのも大きいかな」

 魔法装置から得られた魔力変動のグラフを確認し、少なくともしばらくの間は近くに異変が起こることはないだろうということが分かったので、これから数日は、本格的に休暇とすることにした。

「そういえば、姉さんの方はどうかな。何か手伝えることがあるといいんだけど」

 奏多自身は、料理は行わない。今までほとんど鏡香に任せっきりの状態だった。

「本当、姉さんがいないとてんで駄目だよなぁ、僕は」

 我ながら、情けないとは思いつつも、つい自身の双子の姉に頼りきりになってしまうのだ。

「周りに対しては、双子の主とは名乗っているけれど、決して二人で一人前って意味じゃないんだけどなぁ」

 ・・・とはいえ、家庭的なことの多くが鏡香に頼りっきりの現状では、あまり説得力はなかった。

「僕も少しずつは、できることを増やしていかないとな」

 そうしないと、さすがにチームメンバーに対しても示しがつかないだろう。仮にも、「双子の主」の片割れであり、さらには「二人で一人前というわけではない」と公言している以上、もう少し自分の生活態度も見直さないと、恰好が付かないのは確かだった。

「というわけで、姉さんの様子を見に行ってみるか・・・手伝えることがあるのかはわからないけど」

 さっそく台所へと向かうことにする。すると・・・、

「あら、奏多君。居間で待っててもいいのよ。もうすぐ晩御飯ができるから」

 なんと、ほとんど料理し終えていた鏡香の姿があった。

「姉さん、さっき起きたばかりなのに、もう終ったの?早すぎるな、さすがに」

 見れば、台所にはほとんどでき上がっている料理の皿ばかり並べられている。あとは、食卓までもっていけばいい状態だった。

「さっきまでしっかり眠ったから、もう大丈夫。ちょっと張り切りすぎちゃったけどね」

 そういってほほ笑む鏡香の姿は、誰よりも可愛らしかった。

「やれやれ、これじゃあ僕の出る幕はない・・・か。料理を運ぶのを手伝うよ、姉さん」

「お願いするわね。今日は、久しぶりの二人きりでの食事だから、かなり頑張って作ったのよ」

 鏡香は、まるで新妻のようでもあった。久しぶりの「夫婦水入らず」が、この上なくうれしかったのだろうか・・・。

「うんうん、それじゃあ運んでいくよ」

 こうして、二人だけの晩御飯が始まったー。
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